2020-11-25

エアバス訓練後半戦終了 → 型式証明取得しました。

 前回の書き込みの後でトロントに戻り、フルモーションシミュレーターでの訓練が始まりました。計7回のセッションがあり、その後で3回の審査を受けました。訓練は前回書いたとおり朝早い時間のスタートが何回かあったため夜はなかなか眠れず、慣れたタイムゾーンを出ていないにもかかわらず時差ボケをしているような感覚になりましたが、なんとか乗り切りました。

 シミュレーターは最初の数回はエアバスのシステムに慣れるためのセッションが続きましたが、シミュレーター訓練が進んでくると毎回システムが故障した場合の手順を学ぶことが主になりました。なんども書いているかと思いますが、エアバスは自動化が進んだなかなかのハイテク機で、すべてが正常に機能している限りはとても飛ばしやすい飛行機だという印象です。ただ、なにかが故障するとすべてのプロテクションが解除され、いきなりすべて手動操作のような感じになることがあります。この状態での操縦はなかなか難しいと思いましたが、実際にはこういう最悪の場合になることは極めて稀だと思います。でも、そういう場合に備えて訓練をしておくことは大事です。

 訓練は本来であれば1週間早く終わる予定でした。最終審査の1日目が始まる前日、シミュレーター訓練のプランを立てる担当者からメールで、「審査官が病欠のため、明日からの3日間の審査はすべて一旦キャンセルになります」と連絡が入りました。せっかく勉強もしっかりして準備万端だと思っていたのにがっかりでした。その後、予定が決まるのに数日かかると言われ、その間はとりあえずトロントのホテルで待機したのですが、結局は一旦モントリオールに戻ってと言われ、仕方なく自宅に2日間だけ戻ってきました。そしてまたトロントに戻り、ようやく審査を受けることができました。

(写真上:一時帰宅した際のフライトはエアバスでした)

 昨日の最終審査終了後、審査官が僕のライセンスにサインをしてくれ、エアバスA320シリーズ(A319/320/321)の型式証明(タイプレーティング)を発行してもらいました。今回でタイプレーティングを取得したのは5機種目となりますが、ライセンスに新しい機種のタイプレーティングが加わる瞬間は何度目であっても嬉しいものです。
 
 振り返ってみると、今回の訓練が始まったのは10月上旬でしたので、今回の訓練は2ヶ月弱だったということになるかと思います。3月からフライトがなく、自宅待機が長く続いた後での訓練はなかなか刺激的でした。半年以上もフライトしていないと忘れてしまっていることも多かったです。普段のフライトで当たり前にやっていたことがすっかり頭から消え去っていたりもし、そういうことを復習する良い機会にもなりました。それと同時に、脳のどこかには昔の記憶がしっかりと残っていることを思い知らされる機会も多くありました。エアバスの操縦中に767の操縦で行うことや口にするフレーズがふとした時に出てくることもあります。これはこれからもしばらくは続くと思います。

 今回の訓練は僕にとって初めての機長・副操縦士ペアでの訓練となりました。これには良い点・悪い点があるように感じました。良い点は、僕は副操縦士としての操作に集中することができましたので、学習速度が速かったように思います。当然ながら機長が行う操作も頭には入っていますが、それを副操縦士としてオブザーブするのと実際に自分がやるのはまた違ったものです。また、パートナーだった機長は機長経験が豊富で常に状況を冷静に判断する目を持っています。今までの訓練ではいつも副操縦士2名での訓練だったため、一人が機長役をやることになり、あまり効率の良い訓練では必ずしもないということもありました。こういった良い点があった一方、機長(特にベテラン)との訓練ではあまりよろしくないこともあるえるなと感じました。一つだけ挙げるとすれば、ベテランであればあるほど、過去に乗務してきた様々な乗務経験が新しい機種の操縦学習の邪魔をすることがあるということです。「767ではこうやっていた」とか、「3年前まではこうやって飛ばしていた」という言葉がなんどもパートナー機長の口から出てきました。パイロットという仕事は常に日々変わる法律、会社のポリシーやSOP、導入される最新テクノロジーへの対応が求められる仕事です。過去にとらわれているとあっという間に取り残されてしまいます。定年間近になればなるほど仕事に対するモチベーションが下がることもあるでしょうし、過去の知識が邪魔をすることもあると思います。今回の訓練ではそういうことを考えさせられました。

 今日、訓練中の食事手当の申請をするためにホテル滞在期間を数えてみたら、30日を軽く超えていました。今回は2つのホテルに滞在しましたが、どちらもコロナ禍ということもあって、とても空いていました。滞在中に隣の部屋に誰かが泊まっていたのは1日だけで、あとはとても静かでリラックスした時間を過ごせました。一つのホテルはコロナ対策がしっかりされていたようで、ちゃんと消毒済みというステッカーが貼られていましたが、もう一つはそういう対策は一切ないようでした。そのため、自分で買ってきたアルコール消毒布でスイッチやドアノブなどをすべて消毒しました。ちょっとやりすぎでないかとも思いましたが、コロナに罹って訓練が中断するのは嫌でしたし、パートナーやインストラクターなどに迷惑をかけたくもなかったので徹底しました。トロント滞在中にはほとんど人と会うこともなかったので残念でしたが、今は仕方がありません。食事の多くがUber Eatsの出前でした。皿洗いをしなくてよかったので楽でしたが、栄養バランスはあまり取れていなかったように思います。


 訓練最終週に入ってトロントは雪が降りました。一日中降って結構積もりました。またこの季節がやってきましたね。これから始まる(であろう)路線訓練もおそらくはde-icingをしないといけない日もあると思います。なにかと面倒な時期です。

 その路線訓練(line indoc)ですが、まだ予定は未定です。いつになったら実機で飛べるのか。とりあえずは長い訓練が終わったので、モントリオールの自宅でのまったり時間を少しだけ楽しもうと思います。


(つづく)

2020-11-02

エアバス訓練後半戦スタートへ。

 訓練前半が終わってモントリオールに戻ってきてから早くも1週間近く経ちました。やっぱり休みはいいですね。だらだらと終わりがない休みが続くのは精神的に辛いものですが、仕事(訓練)があっての休みなのでメリハリがつき、とても満喫できました。とはいえ、自宅に戻ってきたからなにか特別なことをしたというわけではないのですが、やっぱり心の余裕を取り戻すのにはやはり自宅が一番です。

 休みの間は久しぶりにオールドモントリオール(旧市街地)に散歩に行ったり、今季初の鍋を作ったりしてまったりと時間を過ごしました。ほんの2週間留守にしていた間に街はあっという間にクリスマスの雰囲気に包まれています。街路樹は葉がほとんど落ちてしまって、紅葉ももう終盤という感じがします。モントリオールの季節の移り変わり(秋→冬)はとても早く感じます。また、気温がグッと下がってきまして、既に夜間は氷点下の時もあります。明日は降雪の予報が出ています。




 さて、明日からまたトロントに行きます。火曜日からFFS(シミュレーター)を使っての訓練が始まります。IPTでは操縦桿などの操作はありませんでしたし、スイッチ類のほとんども画面上でのタッチ操作でしたが、シミュレーターの場合はすべてが実機そのもので、また、操縦桿を使っての操縦も行います(=フルモーション)。IPTではあまり現実味のなかった訓練項目(例えば急減圧の際の急降下)はシミュレーターでやることによってかなり現実と近い状態で再現することができます。また、これからは離陸直前にエンジンが停止したり火災が起きたりする、もっとも危険な緊急事態の再現もでき、その手順も練習できます。今回が初めて航空機をサイドスティックを使って操縦することになるので、今までの操縦桿を使っての操作とどのくらい違いがあるのかを体験できることが楽しみです。

 一方で、ホテルにまた2週間住むことになるので、その点はあまり楽しみではありません。ただ、今回のホテルは前回のホテルよりもちょっと格が上がるようですし、キッチン付きの部屋らしいので、前回よりはUber Eatsを使わなくても健康的な食事ができるのではないかと思うので、その点は楽しみです。

 明日、正午のフライトでトロントに移動し、ホテル到着後はスーパーにいって食材を購入する予定です。それからは勉強を少しして、IPTで習ったことを復習する予定です(自宅滞在中も少しは勉強をしていて、大切な項目を完全に忘れないように努めてはいました)。

 今回の訓練のもっとも大変であろうこと。それは「早起き」。シミュレーターパートナーは睡眠障害・無呼吸症候群を患っているのです。そのため、本来は夜の訓練が続くスケジュールだったのですが、「俺はその時間帯は生理的に機能できない」と会社に言って、訓練スケジュールを変更してもらったのです。その結果、ほぼ全てのシミュレーター訓練が超早朝スタートとなっています。朝4時前からブリーフィングって考えられますか?(笑)。このパートナーとは767時代に一緒に仕事したことも何度もあるんですが、睡眠障害がありながら深夜のヨーロッパ便とかどうやって飛んでたの?って思ってしまいます。まあ、僕は朝方の人間なので、最初の数日を乗り越えれば問題ないとは思うのですが、なんだか解せません(笑)。結局のところ、言ったもん勝ち的な雰囲気です(爆笑)。



 それではまた。


(つづく)