さて、昨年10月からエアバス320型機への移行訓練が始まり、前回のブログにも書きました通り、いろいろなコロナ絡みの理由で訓練が長引いていましたが、先日ようやく最終の路線審査に合格しまして、晴れてエアバス320パイロットとして独り立ちできました。訓練開始から修了まで実に3ヶ月ほどかかりました。今まで経験した訓練の中でもっとも長い訓練になりました。
路線審査は審査官の資格を持つ自社の機長と通常のフライトをこなしながら実施されます。今までの経験では審査官によってはフライト中にいろいろとオペレーションや飛行機についての質問をする人もいますし、どちらかといえばなにも言わずに普段通りのフライトを問題なくこなせるかをチェックする人もいます。今回の審査官はそのちょうど真ん中くらいだった印象です。途中でいくつか質問をされましたが、特にひっかけ問題などを聞かれることもなく、今まで学んできたことをフライトにぶつけたらちゃんと合格がもらえたという感じでした。
路線審査は最初の予定ではカンクンへの往復フライトということだったのが、それはキャンセルになり、代わりにアルバータ州のエドモントンとブリティッシュコロンビア州のバンクーバーの往復フライトを2日間行うというペアリングになりました。
ペアリング1日目はモントリオールからエドモントンまでの移動のみです。移動で乗った飛行機はエアバスA220。最新の飛行機なので内装がとても綺麗ですし、席も座り心地が良いです。映画などが見れるスクリーンも大きくていいのですが、この日はあいにくシステムが不調だったようで映画は見れませんでした。コロナの影響で乗客はとても少ないです。ビジネスクラスには僕以外に老夫婦が一組みのみ。これでは採算は取れないですよね・・・。今日の写真はモントリオール空港の滑走路24Lを出発してエドモントン方面にターンをしたときのものです。左後ろに見えるのが我がベース空港であるモントリオール空港(YUL)。エンジンの内側にエメラルドグリーンのバンドがあるのがA220のエンジンの特徴です。かなり燃費が良いそうですよ。エドモントン到着後は空港内のホテルへ。ここで翌日まで待機です。時間があったのでターミナル内や空港周辺を散歩しました。あいにく気温が低すぎることはなかったので気持ちがよかったです。
そして翌日の夕方から路線審査フライトの1日目で、エドモントンからバンクーバーまでの往復です。当日はジェット気流がロッキー山脈上空に吹いていたこともあって、通常の高度はかなりのタービュランスが報告されていたため、24,000フィートという低めの高度でタービュランスを避けて飛ぶことになりました。それでも最初の30分ほどはそこそこ揺れましたが、一旦ロッキー山脈を越えればスムーズになりました。ロッキーを超えるのは久しぶりだったので、いい景色が見れるかと楽しみにしていたのですが、フライトの時間が遅く、冬ということもあって、山はまったく見えませんでした。
バンクーバーはあいにくの雨。冬のBC州らしい天気です。それでも気温は+8~10Cほど。やっぱり暖かいです。この季節はカナダの大半の都市では気温が0度以下になるため、アプローチの際の高度を修正する必要があります("cold temperature correction"といいますが、詳細は割愛します)。ちょっとしたことですが、アプローチの準備の手順が一つ増えるので厄介ですが、バンクーバーへのアプローチではそれが不要です。やっぱりBCはいいな〜なんて思っちゃいます。
最初のレグは僕がPilot Flying。1週間ぶりのフライトでしたが落ち着いてこなすことができ、審査官機長にもお褒めの言葉をいただきました。まだまだエアバスのシステム操作に戸惑うこともありますが、少しずつ慣れてきているのは確かで、心の余裕が生まれてきている実感があります。 2レグ目はPilot Monitoring。Pilot Flyingの飛行をモニターするのと同時に、無線やフライトマネジメントコンピューターのプログラミング、天気のチェックや着陸に必要な距離の計算などを担当します。エアバスのコンピューター(FMGCと呼びます)はボーイングのそれとは結構違っていて、それを覚えるのが最初は大変です。見たい画面にたどり着くまでに他のページに飛んでしまったり、なんどもボタンを押してようやくたどり着くということが時々あります。ただ、これは今まで飛んできた飛行機の場合でも同じでした。いずれ慣れてくるとボタンを押して画面が切り替わる前に次のページに行くボタンをぽんぽんと押し進んでいけるようになります。エアバスのFMGCはボーイング767のFMCよりもラグがある感覚ですが、表示される情報はボーイングのそれよりもわかりやすくて詳細です。どちらも一長一短という感じです。
翌日はエドモントンからバンクーバーまでのフライトでした。前日と同じなので気持ち的にはかなり楽でしたが、この日は夕方になって駐機中の機体の翼に霜が降り始めたため、出発前にde-iceすることになりました。飛行機が変わるとde-iceの手順もちょっと変わりますが、基本的概念は同じです。チェックリストにしたがって着々と手順を踏んでいくという感じです。この日もロッキー上空は気流が荒れ気味でした。お客さんは全体の1/3ほど。満席には程遠いです。
バンクーバーに到着したところで「路線審査合格だよ、おめでとう」と機長に言われてやっと気持ちが楽になりました。まあ、特に大きなミスもしなかったし、聞かれた質問の答えもわかっていたから失格にはならないとは思っていましたが、それでも「合格」の言葉を聞くまでは気が抜けません。一緒に飛んだ機長はとても良い人で、楽しいペアリングになりました。気のせいかもしれませんが、ナローボディ機(通路が1つしかない飛行機=A320など)の機長はワイドボディ機(通路が2つ以上の飛行機=B767など)の機長と比べるとセニオリティ的にはジュニアで、変なプライドみたいなものを持っていない人が多いように感じます。ワイドボディの機長の中には「わっはっは、俺はワイドボディ機の機長だぞ〜!敬え〜!」というふうな態度の人もいました。航空会社ではワイドボディのキャプテンは花形のポジションですし、お給料もワイドボディのパイロットのほうが高いのでそういうふうな自意識が過剰気味な人もいるのが事実です。320の機長たちはどうなのか、これから飛べば少しずつわかってくるでしょう(笑)。
バンクーバーではホテルに1泊し、翌日にモントリオールまでデッドヘット移動ということでした。バンクーバーに滞在するのは本当に久しぶりでした。久しぶりに好きなラーメン屋さんにも行けた(最後に行ったのは恐らく1年半ほど前)し、ウォーターフロントを少しの時間でしたが散歩できたので楽しかったです。バンクーバーでは今でもレストラン内で食事ができます。トロント・モントリオールではだいぶ前からテイクアウトのみの営業が許可されているので、店内で食事する人を見たときはかなりの違和感を感じました。やっぱりいずれはバンクーバーに住みたいなぁとぼんやりと思いました。
モントリオールには夜9時前に戻ってきました。今、モントリオールは午後8時から翌日午前5時まで外出禁止令が出ています。そのため、自宅までのドライブ中に警察に止められるのではないかと思っていたのですが、あっさりと自宅まで着いてしまいました。パイロットはessential workersというカテゴリわけがされているので、外出禁止の時間帯であっても仕事のためであれば外出が許可されています。そういうことが書かれた書類を会社が発行してくれたので、それを車に常備しています。
というわけで、訓練がやっと終わって気持ちが楽になりました。今月いっぱいはリザーブ勤務になるので、電話がかかってきたら飛びに行くという感じです。約4年前にもリザーブを1年ほどやったのでなんとなく覚えていますが、リザーブは楽しくありません。僕はどこに、いつ、誰と飛ぶのかを前もって知っておきたいので、それがわからないリザーブは好きではありません。また、リザーブだと会社に航空法の規定ギリギリまでこき使われることもあるので、あまりいい気はしません。来月からは前もってフライトの予定が入るのではないかと思っていますが、昨今の情勢ではなにがどうなるか全くもって予測不可能です。
(つづく)