前回の書き込みでラスベガスでのことを書きました。それからここ最近忙しく飛んでいるのですが、ほぼ毎回なにか色々なことが起きるフライトが続きました。なので今日はそのことを記録しておこうと思います。
先週ラスベガスに行った時のこと。普段ならホテルを出発する時間になっても迎えの車がやってきません。そろそろ会社に電話して催促しようかと思っている頃に車が滑り込んできました。「いや〜、ごめんごめん、道がめちゃくちゃ混んでてさ〜」とドライバーの男性がいいます。その日はラスベガスで建設関係機材の発表会イベントが行われていてそもそも市内は首から名札をぶら下げた中年おっさん連中のグループがそこらかしこにいてめちゃ混みだったのですが、それに加えてどうやらバイデン大統領がラスベガスに来ているとのこと。早速ウェブで大統領の公式スケジュールを見てみると確かにそうなっています。この段階ですでに嫌な予感。空港に到着するとはるかかなたにエアフォースワンが駐機されているのが見えます。セキュリティチェックなどを通過してゲートに到着、そして出発の準備をしていると無線から「グランドストップ」やら「ホールドプッシュ」などの言葉が聞こえます。どうやら我々の出発時刻とバイデン大統領の出発時刻が被ったようでした。その結果我々の出発時刻も否応なく遅らされ、スケジュール通りの出発とはなりませんでした。幸いにもそれほど大きな遅延にはなりませんでしたけど。エアフォースワンのパイロットはどこに行くにも優先されるでしょうから、ある意味ストレスの低い仕事なんじゃないかと勝手に想像してしまいました(別の類のストレスはすごいでしょうけど)。
そのフライトでモントリオールに帰ってきたのですが、先日からモントリオール空港は3本ある滑走路のうち2本が閉鎖になっていました。そもそも1本は常に閉鎖されていて、我々パイロットのなかでは滑走路というよりむしろ誘導路として認識されているのですが(笑)。そのため、使える滑走路は1本のみ。何か嫌な予感。
着陸態勢に入り、前に一機着陸機がいて、それに続いて着陸の許可が下りたのも束の間、「先行機がバードストライクを起こしたから、ゴーアラウンドしてください」と管制官からの指示が。ゴーアラウンド、そのまままっすぐ3000フィートまで上がってくださいとの指示通り飛んでいるとさらに追加情報が管制塔から入りました。「結構な数の鳥に当たったから、機械で滑走路を清掃しないといけないので最低でも20分ほどかかりますので、ホールドする準備をしてください」とのこと。またホールド(笑)。
この段階で代替空港に向かわなければならない最低残燃料に近く、あまりホールドできる余力がありませんでした。急いでディスパッチャーに連絡し、代替空港を近くの空港に変更することでリザーブ燃料を減らすことに成功。そしてしばらくはホールドできる燃料を稼ぐことができました。それでもせいぜい25分ほどしか空中待機はできません。エアバスでも空中給油ができたらな!なんてことを妄想したりもしました。結局地上の方々が頑張ってくれたおかげで代替空港に向かうことには至らず、20分ほどで着陸が再開されました。無事に着陸し、この日の仕事は終了となりました。
(写真上:緑の線が飛んだルート。写真左下からモントリオールエリアに到着し、その後ぐるぐる回ってから着陸。)
このフライトのあと、フロリダ・フォートローダーデール空港までの往復フライトがあったのですが、この日はどうやらイーロンマスクの会社がロケットを打ち上げる日だったようで、ちょうどフライトの途中で打ち上げが予定されていました。「空からロケット見えるかな〜♪」なんて呑気なことを考えていたのですが、ロケット打ち上げの影響で空域が大幅に閉鎖されていて、普段よりもかなり遠回りして目的地に到着しました。しかも強風の影響でロケット打ち上げは数時間後に延期されたとのこと。残念だと思っていたこのタイミングではまだロケット打ち上げには好意的な印象しかなかったのでした。ゲートインしてお客さんをおろし、モントリオールまでの復路フライトの準備を始めます。飛行計画をみるとなぜか飛ぶルートは先ほどは飛べなかったルート。もう打ち上げはなくなったのかななんて思ってゲートからプッシュバック。タクシーを開始するためにグランドコントロールに許可を求めると、「期限なし遅延」と言い渡されました。どういうこと?と思っていると、やっぱりロケット打ち上げの予定の影響で空域が閉鎖されていて、我々の出発進路がその空域をぶち抜けるので、そのルートを飛ぶ飛行機は全員地上待機、しかもいつ空域が再開されるかは未定、さらにはその空域付近を担当するFAA航空管制官の人手不足でさらに空域の自由度が減らされているとのこと。ゲートを出てしまったので仕方なく指示されるまま誘導路に進んでエンジンをシャットダウン。様子見の時間が始まりました。
(写真上:前には我々と同じ境遇の飛行機が5、6機待機していました。)
しかもこの日のパートナーはベテラン機長で、結構短気な人。朝から色々ぶつぶつ文句をいいながら何ともいえない雰囲気で一日がスタートしたのですが、今回の遅延でこの人のムードは最悪(笑)。いつも思いますが、この仕事で一番大変なのは悪い天気の日に飛ぶことでも、過酷な時間帯のフライトでもなく、気難しい人や面倒臭い人と一緒に飛ぶことです(笑)。この点はどの仕事でもきっと同じですよね。
結局この日は誘導路で1時間ほど待機し、その後違うルートの飛行計画を再ファイルしてもらってようやく離陸となりました。ロケット打ち上げは夢がありますが、そのせいで迷惑を被る我々パイロットのことも少しは考慮してもらいたいもんです、全くもぅ。
ってな感じで忙しく飛んでます。
(つづく)