2020-05-12

機材入札(Equipment Bid) その1

 前回の記事にも書いたとおり、この度の大規模な事業規模縮小により、多くの飛行機が今後の運航プランから外されました。 その結果、乗務する飛行機がなくなったパイロットは他の機種への異動を余儀なくされることになります。

 そもそも、今回のような事業縮小などがなくても、うちの会社の場合は数ヶ月に一度、「機材入札(equipment bid)」というものが実施されます。 2ヶ月ごとに今後の事業拡大プランや景気情勢などを総合的に判断し、パイロットの数を増やすか減らすか、飛行機の数を増やすか減らすか、またはその飛行機をどこの空港所属として配置するかなどを検討します。 ただし、特に変更が必要ない場合や、以前の計画がうまく行っていたりすると人員異動がそもそも必要なくなるので、equipment bidはキャンセル・次回に持ち越しということになることもあります。 うちだけに限らず、他の会社でも似たような仕組みのequipment bidがあります。 僕が以前働いていたリージョナル航空会社の場合だと1年に2回だったと記憶しています。

 ビッドが始まるとまずは会社から向こうしばらくの人材プランを提示され、それに基づいて今後どのくらいのパイロットポジションが必要になるのかが発表されます。 例えば、今日現在4000名のパイロットがいるところ、会社が提示して来たプランではパイロット数を4200名に増やすということになれば、今後200名のパイロットを新規採用するということになります。 これまでは毎回こんな感じで、どんどんパイロットの数は増えて来ました。 これまでは商売大繁盛だったんでしょうね(笑)。 僕が入社したとき、僕は一番下のセニオリティ番号でした。 それが確か3774番。 つまり、僕が入社した時点ではパイロット総数は3774名だったわけです。 それが今回の大規模人員削減直前にはパイロット総数が4900名近くにまで膨れ上がっていました。 ちょっとしたバブルです(笑)。 入社して3年ちょっとですから、1年間に約400名のパイロットが次から次へと採用され、僕の下に入って来たということになります。 定年退職者の増加、事業規模拡大、新機種導入、新fatigue rulesなどなどによりそれだけのパイロットが必要になってきたわけです。 ちなみに、自分よりも先輩のパイロットはシニア(senior)、後輩はジュニア(junior)というふうに呼びます。 例えば、「Are you junior to me?」(君は僕よりも後輩だっけ?)というような感じです。 

“パイロットにとってもっとも重要な数字はVスピードではない。 セニオリティナンバーだ。”


なんていう人もいるとか(笑)。

 今回の人員削減・機種数削減により、かなり大規模な人員異動が起きる見込みです。 今まで乗務していた機種がなくなるパイロットは他機種に変更になりますし、今まで機長だった人も機長のポジションが減ったことで機長のランクを保持できず、いやが応でも副操縦士に降格となる人も多くいます。 少数ですが、現在のベースの空港でのポジションを確保できず、他空港ベースに異動となる人も出てくるようで、そういう人たちは引っ越し、またはコミュート(通勤)を余儀なくされます。 機種毎、ポジション毎にお給料のベースとなる時給(hourly rate)が変わりますので、今後の月収・年収も変わります。 とにかくいろんなことに大きな影響を及ぼすのが今回のequipment bidです。 そんなビッドは10日間ほど開催され、その間はネットの専用Webページで自分の希望を出すことができます。 例えば、

 希望1:YUL 777 FO (モントリオールの777副操縦士)
 希望2:YYZ 320 CA (トロントの320機長)
 希望3:YVR 787 FO (バンクーバーの787副操縦士)

のような感じです。 結果が出るまであと数日。 ハラハラドキドキです。 ビッドするときに検討する項目についてはまた次回。

 今回のコロナが「神の見えざる手」であるというような考え方があるようですが、航空業界に及ぼされた影響もそれに似ているのかもしれません。 つまり、ここ数年間はあまりにも航空業界の景気が良すぎて、航空会社は事業規模を広げすぎた、っと。 株価や物価などと同じで、一度高くなりすぎたものはどこかで知らないうちに価格を低く戻そうという力がかかり、自然と本来あるべきバランスを取り戻す、というものです。 それが正しいかどうかは僕にはわかりませんが、今の現状を見ると強ち間違いでもない考え方だなとも思えます。


(つづく)

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