2020-09-27

組合と覚書その2。

 僕が働く航空会社にはパイロットの乗務員組合(pilot union)というものが存在します。組合の役割はいろいろあるのですが、乗務員と会社の間での取り決めや交渉ごとをまとめる(パイロットグループを代表する)というのが主な役割です。パイロットの労働条件に不具合が出た場合などには状況を改善するために労働契約に基づいて状況改善のために動いてくれたりもします。基本的には「パイロットを守ってくれる存在」という立ち位置だと思います。

 組合がどういうときに役立つかということを説明するために以前に僕の知り合いパイロット(副操縦士)が経験した話を一例としてあげます。

 このパイロット、フライト中に気分が悪くなり、一時的に乗務が不可能な状態に陥ったそうです(pilot incapacitationといいます)。 具体的なことは知りませんが、貧血のような状態になり、一時的に業務続行が不可能となったため機長が飛行機の操縦すべてをこなすことになったそうです。この便は緊急事態を宣言しましたが、目的地に近かったこともあり、機長の操縦で目的地の空港に無事着陸し、ゲートに到着したそうです。着陸するころにはこの副操縦士は意識を取り戻したそうです。

 何事もなかったかのように乗客が降機し、この副操縦士はここで乗務を終えることになりました。飛行機を降り、携帯電話の電源を入れるとすぐさま電話がかかってきたそうです。その電話は乗務員組合の担当者だったそうです。電話に出ると、

 「フライト中に起きたことについて連絡が入りました。なにも心配いりません。医者の手配もすべてやります。とにかく今は安静にしてください。」

 と言われたそうです。それからしばらくは病欠扱いになったのですが、精密検査なども組合が手配した病院で受け、数ヶ月後には無事に職場復帰したそうです。

 こんな感じで組合は親身になっていろいろお世話してくれます。そういう待遇を受けるために毎月組合費を支払っているわけです。

 現在、コロナ禍でパイロットの待遇にもいろいろな変化が出て来ています。当然ながら良い変化というものではありません。一般企業と同じで、経済が影響を受けている限りはパイロットの諸待遇も当然ながら悪くなる傾向にあります。しかし、それを食い止めるために組合が労働者側といろいろ交渉をしてくれているというわけです。

 航空会社によってはこういった組合が存在しない場合も多くあります。例えば中東の大手航空会社。そういうところは会社の独断でいろんなことが決定します。パイロットの雇用を守ってくれる組合が存在しないので、会社がパイロット削減を決めればすぐに決行され、あっという間に大勢のパイロットが職を失います。これはパイロットのみに限らず、客室乗務員も同じです。ちなみに僕の会社には客室乗務員の労働者組合も存在します。手厚く守られているという感じです。
 
 組合に入るのは半ば強制で、入らないという選択肢はありません。毎月お給料の数パーセントを組合費として支払っています。今の会社に入社直後の研修中に組合のオフィスビルにも行きましたが、それはもう立派なオフィスで、多くの人が働いていました。組合というものの存在をよく理解できていなかった僕はなんだか不思議な印象を受けたことを覚えています。「この人たち、どうやってこんな立派なオフィスで仕事しているんだろう?運営原資はどこから出ているんだろう?」と思いました。

 その組合ですが、今、我が社ではコロナ禍の影響による一時的な労働契約の覚書を締結しようとしています。覚書その1は既に締結されていて、それの効力が今月末に切れるため、延長の手続きを進めているという感じです。この覚書その2にまつわるいろいろな憶測や噂が絶えません。組合の情報提供方法にもやや問題があったりもしたせいで組合の信憑性が問われる事態にもなりました。

 パンデミックのせいでいろいろなところで醜い部分が露呈させる事態になっているように感じます。人々は憎みあい、マスクをする・しないで口論するなど、人間の醜い部分が露わになっているように感じざるを得ません。やっぱり性善説よりも性悪説を信じるべきかと思ってしまいます。覚書その2の草案がパイロットグループに提示された直後は大喜びだった人たちもしばらくすると疑いの目で組合のことを見るようになったりもしています。組合は実は会社とグルで、我々パイロットたちをはめてやろうとしているのではないかと勘ぐる人たちまで出始めました。意見がコロコロと変わる状況は滑稽だなと俯瞰しています。
 
 覚書その2はパイロットの投票で否決・可決が決まることになっていて、来週の月曜日が投票の最終日です。僕も先日投票しました。どうなるのかはわかりません。結果次第では一時帰休(レイオフ)のパイロットがまた増える可能性もあるため、気が気ではありません。


モントリオールは紅葉が進んで来ました。




(つづく)

 

 

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