2019-03-09

訓練の大切さ。

 先月最後のフライトでまた南米コロンビアの首都ボゴタに行く予定だったのですが、離陸直後にちょっとしたエンジン不具合が発生しまして、トロント空港に引き返すことになりました。 詳細は大人の事情もあるので書けませんが、日本だったら新聞に載るんじゃない?っていう感じのものです。 その日はトロント地方は雪が降っていて、出発が2時間ほど遅れていました。 プッシュバック後にde-iceもしないといけなかったので、それにも時間がかかり、ようやく離陸できたと思ったら不具合が発生してトロントに戻ることになりました。 安全に着陸できたのが何よりよかったと思いますが、お客さんの気持ちを考えると申し訳ないようにも思います。 我々が着陸するころにはすでに代替機の用意やその便のクルーも手配されていたようです。 そこはさすが!と思うところでした。 結局、お客さん達がボゴタに向けて再出発したのは予定から8時間近く遅れてのこととなたようです。 

 緊急時には「Mayday」という言葉を無線で使うことがあります。 これは文字どおり緊急事態で、一刻を争う状態の際に使われる緊急信号です。 一方、問題はあるけど、緊急事態とまでは言えない、というような場合には「PAN PAN」というフレーズを使います。 PANとはPay Attention Nowの略と教わりましたが、Possible Assistance Neededの略という説もあるそうです(wikipedia調べ)。 半年に一度の訓練ではこれらのフレーズが頻繁に出るわけですが、今回のエンジン不具合の際にはこのPANPANを発信しました。 これを宣言することにより、航空管制官達は我々が緊急事態に直面している、そしてなんらかの手助けが必要になる可能性があるという状況を理解します。 いつもはぶっきらぼうな感じで愛想もよくないことも多い航空管制官のみなさんも、このフレーズを発信するとがつくほど親切になります(苦笑)。 この日もいろいろ聞かれましたが、PANPANやMAYDAYを発信する場合には乗員乗客が何名いるか、燃料の残りはどのくらいか、そして危険物を搭載しているかを告げる必要があります。 この日は訓練と同じようにこれらの情報を告げ、トロント空港に無事着陸しました。 着陸後は滑走路上で一旦停止し、消防の人々にエンジン火災などが起きていないかや、その痕跡がないかなどを確認してもらいました。 特に異常はなかったのでそのままゲートへと戻りました。 いままで何度も繰り返し訓練してきたシナリオとほぼ同じようなことが今回のことでは起こり、訓練通りにチェックリストをこなし、機長やフライトアテンダントのみなさんと協力して無事に着陸できました。 不謹慎な言い方かもしれませんが、良い経験となりました。 そして、改めて日々の訓練の大切さを身にしみて実感しました。

 緊急事態を宣言すると、パイロット達の精神状態を考慮し、しばらくは仕事から外されます。 今回は半ば強制的に3日間のおやすみをもらいました。 また、いろんなところから電話がかかってきました。 その日の当直マネージャーからだったり、チーフパイロットだったり。 航空会社にとっては緊急事態宣言はとても深刻なシチュエーションなんだと再確認しました。 また、クルーのメンタルのケアも行き届いている印象でした。 

 そんなこんなで3月に入り、今月は最初の2週間近くをかなり少ない休日数で働いています。 今まで経験したことのない、「same day release/check-in」をやっています。 これはなにかというと、1日目にフロリダまでの往復を担当するのですが、チェックインは午後4時ごろで、トロントに戻って来るのが日付が変わって翌日の午前2時前です。 そこから自宅に戻って就寝し、その日の午後にはまた次のペアリングが始まるというものです。 これはなかなか過酷です。 この時期はまだ雪などの影響でフライトが遅れることも多く、2時前に仕事が終わる予定であっても実際には3時過ぎに終わったりします。 そこからバスに乗って帰宅すると、家につくのは午前4時頃。 そして6〜7時間眠って正午頃に起床。 遅い朝ごはんを食べ、一般の方々が帰路につくころに僕は仕事に向かうというパターンが今月は数回続きます。 午前3時過ぎに仕事が終わるなんて、違法にすればいいのにとも思います(苦笑)。 日本の場合は多くの空港が騒音問題などを抱えているため真夜中以降のフライトというのは原則的にあまりないと聞いたことがあります。 北米はそんなことはなく、夜中以降や超早朝のフライトもあったりします。
 
 ここ最近はフロリダのタンパ、フォート・ローダーデール、そしてコスタリカのサンホゼに行くことが多いです。 夏は雷雲などが多く発生し飛びにくいエリアですが、今は概ね飛行条件も良く、楽しいフライトが多いのが救いです。 ジェット気流の影響で揺れることも多いですが、嵐を避け続ける労力に比べると些細なものです。 今日の写真はフロリダ・キーウエスト周辺です。 いつかここをドライブしてみたいな〜と思っています。





(つづく)

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