2018-03-29

ラインチェック(トロント→サンフランシスコ)

先日、ラインチェックがありました。 「ラインチェック」というのは日本語では「監査フライト」または「査察フライト」と呼ぶようです。 昔のキムタク主演ドラマ、GOOD LUCK!! で香田キャプテンがやってた、あれです(たとえが古くてすみません笑)。 我々エアラインパイロットは一年に一度、このラインチェックを受け合格しないと追加訓練になったりして通常の業務から外されてしまいます。 最悪の場合には職を失うこともあります(かなり極端な話ですが)。 この他にも半年に一度のシミュレーター訓練などがあり、一年中なんらかの訓練をしているわけです。

今回のラインチェックの行き先はアメリカ・サンフランシスコ空港。 トロントからは約5時間のフライトです。 当日は監査資格を持つ機長とのフライト。 幸い、この機長とは以前にも一度飛んだことがあり、その時もサンフランシスコに行きました。 どうやらこの機長はサンフランシスコ好きなようです。 前回一緒に飛んだ時にはレイオーバー中にゴールデンゲートブリッジを一緒に渡りました。

ラインチェックはお客さんを乗せた通常のフライトです。 その中でいつも通りちゃんとSOP(Standard Operating Procedures)に従ってフライトしているか、緊急事態の手順などを理解・暗記しているか、飛行機について知っておかなければならない知識をちゃんと覚えているかなどを確認するためにいろいろな質問をされます。 

前回のラインチェックはボーイング767での初めてのラインチェックで、イギリス・ロンドンまでのフライトで実施されました。 そのときは、

  • 監査機長が堅物としてちょっと有名な機長だった(笑)こと、
  • 初めてのロンドンへのフライトだったこと、
  • 初めてのETOPS(詳しくはこちら)での大西洋横断だったこと、
  • そもそもまだ4回目のペアリングで、767にもまだまだ不慣れだったこと

などなどがあってかなり緊張していたことを覚えています。 その時と比べると、すでに767に乗務して1年近くが経っていますし、サンフランシスコにもそこそこ行っているので緊張はさほどしませんでした。 

当日までにはマニュアルを読み返し、緊急事態の手順なども勉強しなおしました。 結構頻繁に勉強をするので、忘れていることはほとんどないのですが、それでも毎回マニュアルを読み返すたびに今までは気がつかなかったことや、勘違いしていたことを発見することも時たまあります。 

当日は良いお天気でした。 トロントからサンフランシスコまでのレッグが僕の操縦(Pilot-Flying)で、機長がPilot-Monitoring(操縦以外の無線や航法コンピュータのプログラミングなどを担当)の役割で行きました。 今回は機長が監査機長を兼ねていて、さらに監査を受けるのは僕のみだったので、僕が副操縦士(first officer)、監査機長が機長(Captain)という感じでした。 

余談ですが、日本では副操縦士のことをコーパイ(co-pilot)と呼ぶことが多いようですが、こちらではfirst officerを略してFO(エフオー)と呼ぶことがほとんどです。

トロントからサンフランシスコに行くまでのルートは当日の上空の風や乱気流、ジェット気流の位置、自社便からのタービュランスの報告などに基づいてディスパッチャーの人が決めて飛行計画書を作成してくれます。 だいたいの場合、アメリカの中部〜中西部を通過し、カリフォルニア州に入ります。 コロラド州付近ではロッキー山脈上空を通過します。 その上を飛ぶときには万が一与圧システムが壊れて急減圧(rapid depressurization)が起きた時などに備え、急降下をする際にも山を避けれるコースというのがあらかじめ定められています。 Escape route(エスケープルート)というルートが示された航空図が会社から支給されていて、それをiPad上で見ながら位置を確認し、降下せざるを得ない場合にはどこへ行ったら安全かを確認しながら進みます。 

急減圧のときには数分以内に巡航高度から10,000フィートまで高度を落とさなければいけませんが、ロッキー山脈は高いところでは標高が15,000フィート(約4500m)近くもあります。 そのため、減圧をしたからといって一気に10,000フィートまで降りると山肌に激突してしまうおそれがあるので、山を避けるルートが決まっています。クルーズ中も我々パイロットは呑気に外の景色を楽しんでいるばかりではないんですよ(笑)。

クルーズ中は気流もよく、とても穏やかなフライトでした。 途中で監査機長にいろいろ質問されましたが問題なく答えることができ、気分よくサンフランシスコ周辺に差し掛かりました。

サンフランシスコ空港は滑走路が4本あり、並行に走る2本の滑走路が2セットあります。 空港の見取り図はこんな感じです。 黒い線が滑走路です↓


浜風の影響もあって、この空港へのアプローチは西に向かう28Lと28Rの場合がほとんどです。 この2本の滑走路の間の距離はとても狭く、この2本の滑走路に同時に飛行機がアプローチしていると隣の飛行機のパイロットの顔が認識できるほどです。 空中で他の飛行機をこれほど近くに見えるのは僕が知っている空港の中ではここサンフランシスコくらいです。 

この動画はYouTubeでよく見ますね。



サンフランシスコへのアプローチは空港からだいぶ手前のまだネバダ州を飛んでいるくらいからスピードを制限されることもあります。


サンフランシスコ空港へはDYAMDというアライバルルートを飛ぶことが多いです。 矢印のところに速度制限がありますが、それよりもだいぶ前から速度を落とすように指示されます。 

この日は28Rへのアプローチでした。 28Lにアプローチしている飛行機はいなかったので穏やかなアプローチでした。 ただ、この日は追い風があったため、なかなか思うように減速できず少し苦戦しました。 追い風があると着地までふわふわと滑走路上をフロートしてしまうこともあり、着陸距離が伸びてしまいます。 そうならないように意図的にやや強めのランディングをして飛行機を地上に下ろし、ブレーキとリバーススラスト(逆噴射)を使って比較的短い距離内で減速することにしました。 

アプローチではLNAVとVNAVをフルに活用します。 LNAVはLateral Navigation, VNAVはVertical Navigationの略です。 LNAVで横方向、VNAVで縦方向のナビゲーションをします。 ランディングギアを出し、フラップも25度下ろし、滑走路とラインアップできた2マイル前あたりから自動操縦と自動スロットルをキャンセルして手動操縦にしました。 風は相変わらず追い風でしたが、幸い追い風の最大制限である10ノット以下だったので問題はありませんでした。 着陸直前にはAuto call-outがコンピュータの男性の声で「50, 40, 30, 20, 10」というアナウンスをしてくるので、だいたいいつも「30」(地上30フィート)のところでエンジン出力をアイドルに戻し、ゆっくりと少しだけ機首をあげ、いつもよりもやや強めの衝撃を受けて接地。 思ったよりも強めでしたが、予定通りの接地ゾーンに降りました。 

フライト後、監査機長からは「いいフライトだったよ。 でも、接地はちょっとハードだったね」というコメントをいただきました。 まあ、もうちょっとソフトに下ろした方がよかったかなとも思いましたが、僕的には追い風であったことも考慮してのハード目のランディングだったので悪くない判断だったと思いました。 きっと機長ほどの経験値(飛行時間は1万時間以上、767乗務も長い)になると、どのくらいの追い風でどのくらい距離が伸びるのかというのがわかっているから、彼の判断ではそこまで早めに接地させる必要はなかったというものだったと思います。 僕はまだワイドボディとナローボディの挙動というものにはさほど慣れていないので、選択肢があるのであればいつも最も安全で保守的な飛ばし方をするようにしています。 これが経験を積むと少しずつ安全で最も快適な飛ばし方に移行できるようになると思います。

こんな感じで1日目は終了。 ホテルに向かい、夜は機長とバーにいってビールをご馳走になり、それから有名なピザレストランに行って美味しい食事をしました。 機長からはいろいろ面白い話も聞け、楽しいレイオーバーとなりました。


(つづく)