2018-04-28

Augmentでロンドン、そして氷雨(パート4)。

 今回でロンドンへのフライトに関する書き込みは最終回です。

 ロンドンの滞在は20時間ほどでした。 翌日には早朝8時過ぎ出発の便でトロントまでデッドヘッドすることになっていました。

 推定午前4時過ぎ。 おかしなことが起きました。 部屋の電話がなったと記憶しています。 鳴っていないのかもしれません。 いや、きっとなったはず。 うろ覚えでは、誰かと電話で話しました。 

 「あなたのデッドヘッドフライトですが、出発が2時間ほど遅れているので、ホテルチェックアウトも2時間ほど遅くなりますから」

 という連絡でした。 この時の僕は時差ボケと疲れからまったく記憶が定かではありませんでした。 「ここはどこ?! 私はだ〜れ?!」状態でしたから(笑)。

かかってきたと思われる電話。 誰だったんだろう・・・。 なんだか混乱気味で目が覚めました。 そして、本当にデッドヘッドフライトが遅れているんだろうか? あれは夢だったのでは?と思い、携帯を使ってスケジュールを確認します。 そうすると確かに遅れが生じています。 正夢か? それとも本当に誰かと話したのか? まったくわかりません。

 仕方なく、クルースケジューラーに電話をしました。 「いや〜、誰も電話してないよ〜」って言われましたので、いったい果たして誰と話しをしたのか・・・。 頭は超混乱状態です。 
 
  とりあえずトイレに行こうと思い、ベッドから出ると、ドアの下に紙が一枚滑り込んでいるのが見えました。 それは会社からのファックスで、これでもやはりホテル出発が遅れるという連絡事項が書かれていました。 僕には実は予知能力が備わっているのかもしれない・・・。

 本来は午前5時過ぎのピックアップだったので、それに合わせて起きる予定だったのです。 でも、ピックアップが8時過ぎになったので時間ができてしまいました。 仕方ないので朝ごはんとコーヒーでも買おうとホテルを出て、近くのカフェに行きました。 

 カナダやアメリカではカフェ・レストランなどで注文をするときに、

「For here, or to go?」

と聞かれます。 

「ここで召し上がりますか、それともお持ち帰りですか」

という意味です。 これがイギリス英語では

「Eat in or take away?」

と聞かれることが多いように思います。 今は慣れましたが、最初はかなり戸惑いました。 イギリス英語独特のアクセントもあり、「なにいってるんだろう?」って混乱したこともありました。

 結局、ホテルを予定よりも2時間ほど遅れて出発。 空港ではターミナルで降ろしてもらい、通常のお客さんと同じようにセキュリティーを通り、ゲートに向かいます。

  ヨーロッパの空港は面白いです。 カナダやアメリカではセキュリティーを通る時には既にゲート番号がわかっている場合がほとんどで、そこに直接向かえば良いので明瞭です。 一方、ヨーロッパでは出発時刻のかなり直前まで出発ゲート番号が掲示されません。 ただ、毎回自社便がどこに到着してどこから出発するかはだいたい把握していますし、会社のアプリを使えばどのゲートに行けば良いのかがわかるので特に困りはしません。 このせいもあり、ゲートに到着してもお客さんは誰もいません。 皆さん、待機スペースでゲートが発表されるまで待機しているからです。

 僕はエスプレッソを買い、出発までの間、外にいる飛行機を眺めるのが好きです。 ロンドン・ヒースロー空港ではカナダやアメリカでは見かけない航空会社の飛行機を見かけることも多いです。

 
  スイス航空のカナダ製小型機CS-300がいました。 この飛行機はいまのところ僕が将来操縦したい飛行機ナンバーワンです。 噂では今後はこの飛行機はエアバスA230と呼ばれることになるとか・・・。

  搭乗が始まり、スムーズに機内に移動し、ボーイング777は離陸に向けてタクシーを開始します。 その間、外にはイギリスらしくブリティッシュエアウェイズの飛行機を多く見かけました。 ブリティッシュエアウェイズのコールサインは「スピードバード」。 なんかかっこいい(笑)。

 
ボーイング747は今でも現役で飛んでいます。 



ハンサムな顔をしています。

 
 これもロンドンヒースローあるあるだと思うのですが、出発時に管制官はスペースと時間を無駄にしないように次から次へと離陸許可、滑走路進入許可を出します。 この日も外を見ているとそのような光景が見えました。 上の写真では左側にいる飛行機が離陸許可をもらって離陸滑走を始めようとしているところです。 一方、右側の後続機は滑走路進入のみを許可された模様。 こちらのパイロットは遠慮なくガンガン出発機の後ろに陣取ります。 カナダであれば前の飛行機が離陸滑走を始めてからようやくゆっくりと滑走路に進入することが多いです。 イギリスでは前の飛行機のエンジンからのジェットブラストをもろに受ける距離に限りなく近いくらいのスペースしか開けずに滑走路に進入します。 お国柄でしょうか。

 フライトは7時間ほど。 幸い良い席をもらえたのでゆっくりと食事をし、仮眠をとり、邦画を1本観て快適な空の旅を楽しめました。 


 今の会社で働き始めた1年ほど前はロンドンから帰ってくると翌日まで時差ボケや疲れが残ることが多かったですが、最近は慣れてきたのか、カナダに戻ってきた当日は流石に疲れていますが、翌日には元のリズムに戻ることができるようになりました。 

 今回のペアリングの後、数日の休みがありました。 そしてその次は半年に一度のシミュレーター訓練と続きました。


(つづく)
 

2018-04-21

Augmentでロンドン、そして氷雨(パート3)。

 今回はオタワからロンドン・・ヒースロー空港までは乗務員(operating crew)というステータスでイギリスにやってきました。 帰りはデッドヘッドで乗客としてカナダに戻ります。  この場合、いつもとは入国の仕方が違ってきます。

 通常、ロンドンヒースロー空港まで操縦してきた場合、フライト後に乗客のみなさんが全員降りた後、飛行機の下で待機するホテル行きのバスに直接乗り込み、そのまま空港を後にします。 一般のお客さんが通過するような税関申請や入国審査はありません。 唯一あるのは空港の敷地を出るところで入国審査局にクルー全員の名前が書かれた一覧をフライトアテンダントのリーダーが提出し、最後に入国管理官がバスに乗り込んできて我々のIDをチェックする程度です。 

 ところが、デッドヘッドで入国した場合や、デッドヘッドで出国する場合にはイギリス当局の指示により、一般のお客さんと同じように入国審査を受ける必要があります。 そのため、入国審査後は空港外にあるバス乗り場でクルーが乗ったバスにピックアップしてもらいます。 なんだかややこしいですが、慣れれば簡単です。 そして、クルーは「Fast Trackパス」をもらえます。 これがあると入国審査場で優先的に審査を受けることができるレーンに並ぶことができます。 ビジネスクラスで旅行しているお客さんはこういった特典をうけることができるようです。 いつもこのパスのおかげで、どんなに混んでいても入国審査を通過するのには5分もかかりません。 

 空港の外に出て、クルーバス乗り場で他のクルーが乗ったバスが到着するのを待ちます。



 バス乗り場16番がいつもの乗り場です。 ここにいるといろんな航空会社のクルーが乗ったバスが停まることがあります。

 そこからバスに揺られること1時間弱でダウンタウンの滞在先ホテルに到着します。 これが結構長旅で、しかもカナダ時間にすれば夜中じゅう働き通してきたので、クルーはほとんどの人がバスの中では寝ています。  ぐったりしたクルーを見ると、「長距離フライトをしているんだな」と実感します。 僕も少しだけうとうと・・・。

赤い印がホテルです。 
テムズ川、ビッグベンなどがあるエリアからは歩いて30〜40分です。


 ここのホテルがとても不思議なホテルなんです。 ホテルに到着すると、8割くらいの確率でこれから出発しようとしている我が社のクルーに遭遇します。 チェックインカウンターには僕が務める航空会社の名前がば〜んと張り出されています。 きっとお得意様なんだと思いますが、とても変な感じです。 ホテル自体はなんの変哲もない、普通のホテルです。 良くも悪くもない感じです。 ロンドンは物価が高い都市なので、ホテルの部屋も狭いです。 ただ、ロケーションはとてもいいんです。 歩いてロンドン中心部にも余裕でいけますし、地下鉄(通称チューブ)も近いです。 近くには公園もありますし、カフェやスーパーにも近いので滞在中の生活には一切困りません。

 ロンドンにつくと、ほとんどのクルーは数時間の仮眠をとります。 前述のとおり、カナダ時間にすると夜から朝方までの深夜勤務をしたことになるので、ロンドンに到着するころには仕事の疲労と時差によってかなりクタクタになります。 数時間の仮眠では本当は足りないのですが、ここで思いっきり7〜8時間の睡眠を取ってしまうと、ロンドン時間の夜に目覚め、朝が来るまで起きていることになってしまいます。 そしてロンドンを発つのはロンドン時間の朝かお昼頃ですから、これでは仕事に支障をきたします。 そのため、2〜3時間の仮眠後はたとえ眠くてもなんとかベッドから起き上がり、たとえ眠くても外に出てアクティブに活動します。 そしてロンドン時間の夜が来たら眠りにつく、というのがもっとも良いパターンのようです。 みなさんの知らないところで長距離パイロットはこんな些細に見えるけど結構深刻な問題と戦っています。 「国際線パイロット」、「キャビンアテンダント」と聞くと、その響はエレガントでかっこいいと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際の生活の質は決して高くはない場合があります。 国内線を主に飛んでいるナローボディのパイロットの方々が羨ましくなることも当然ありますし、毎日決まった時間に自分のベッドで起床できる一般のサラリーマンが羨ましく思うこともあります。

 今回のレイオーバーは日曜日だったこともあり、閉まっているお店も多くありましたが、忙しい通りやブティックが多くあるエリアを散歩してきました。

ロンドンは街中にこんな緑豊かな公園が多数あります。


建物が綺麗で歴史を感じるからロンドンは好きです。

こんなファンキーな犬がいました。

 ロンドンは高級な車が多く走っていて、車好きには楽しい街です。

VWゴルフGTE

こんなフェラーリが普通に路上駐車されています。


ロールスロイスもイギリスならでは。

ランドローバー。 これはまじでかっこいい!

 今回のレイオーバーはトロント・オタワ出発の遅れの影響で予定よりも短くなってしまいましたが、久しぶりのロンドンの雰囲気を楽しむことができました。 本当はレイオーバーは短い方が好きで、さっさと仕事をして家に帰りたいと思うところもあるのですが、たまにはこういう海外のレイオーバーも悪くありません。 そういう楽しみができるのも国際線パイロットの特権だと思います。

 

(パート4に続く)





 

2018-04-20

Augmentでロンドン、そして氷雨(パート2)。

 離陸後、僕の仕事は「クルーの休息時間を計算すること」がメインとなります(笑)。 巡航高度に到着(Top of Climb、略してTOC)した時間から、降下を始めるポイント(Top of Descent、略してTOD) の時間を割り出し、それを3人の頭数で割ると一人当たりの休息時間が算出されます。 今回は一人あたり1時間40分ほどの休憩時間がもらえる計算になりました。 休息なんて、と思われるかもしれませんが、パイロットは連続して働いてよい時間が法律で定められていて、その時間を超えるのはご法度です。 疲労がもたらすエラーによって事故が起きることもあるため、長距離飛行の場合には休息は真剣に扱われます。

 休息を取る順番ですが、だいたいは

  機長→副操縦士→augment

の順番で決めていきます。 ほとんどの場合、一番最初のお休みはaugmentパイロットです。 機長も副操縦士もだいたいの場合はこの時点ではまだまだ疲労感がないため、あとで休みを取りたいと思うのです。 ですから、augmentパイロットが一番最初に有無を言わさず休みを取らされます(笑)。 今回も然り。 僕がまずはフライトデッキを出て、ビジネスクラスにカーテンで囲いをつけたcrew rest facilityに向かいました。

 僕が乗務する767は以前は「バンク」と呼ばれる仮眠設備があったのですが、今は封鎖されていて存在しません。 777や787などにはそういった設備があり、横になれるベッドのようなスペースがあります。 767ではCrew rest facilityということでビジネスクラスの一席をカーテンで囲い、クルーレスト(休憩)に使っています。

 僕が乗務する767のビジネスクラスは快適です。 777、787、330のビジネスクラスシートよりはやや古いタイプではありますが、座席はいわゆるポッド型で、周りの目を気にすることなくリラックスできます。 座面はフルフラットとまではいきませんが、かなり倒すことができ、足を伸ばしてゆっくり休めます。 エコノミー席とは値段がだいぶ違いますが、もし金銭的余裕があるのであれば一度はビジネスクラスでのご旅行をお勧めします。 目的地到着後の疲れ方が全然違います。

 休息後はフライトデッキに戻り、フライトの進行具合をチェックします。 北大西洋を横断するにはoceanic clearanceと呼ばれる特別な許可を、カナダ側であればギャンダー(Gander) にある航空管制局から、ヨーロッパ側であればシャンウィック(Shanwick)航空管制局からもらう必要があります。 この日は比較的南側のルートを飛ぶ予定でした。 ところが、僕が休息を取っている間にこのルートを通過していた他の会社の飛行機からかなりの揺れがあったとの報告があったようで、我々は急遽北側のルートに変更しました。 僕が休息を取っている間に機長と副操縦士がそういうやりとりをしていたそうです。 僕がフライトデッキに戻って来るやいなや、

「君が休んでいる間、僕らは忙しかったんだよ〜。 ラッキーだったね〜。」

と言われました。 いや〜、よかったよかった(笑)。

 僕は副操縦士資格を保持しているので、普段操縦する時は右の椅子に座ります。 ですが、augmentとして飛んでいて、機長が休憩を取る間は左の機長席に座ります。 これがなんとも不思議な感じです。 僕が左席から操縦をしたのはもう数年前になります。 キングエアでメディバック(空飛ぶ救急車)をやっていた頃、 機長に昇格させてもらったときにしばらく飛んだのが最後の左席からのフライトです。 それが今では767の左席に座って飛ぶことがあります。 僕は今の総飛行時間は6000時間強ですが、そのうちの多くは右席からのフライトです。 教官時代は生徒が左席に座りますし、副操縦士として仕事をしてきた間はずっと右席です。 ですので、今左の席に座るとなんだか戸惑います(笑)。 椅子を動かすレバーも右席と左席では逆ですし、操縦桿は左手で握ります(普段は右手)し、スラストレバーは右手(普段は左手)で動かします。 クルーズ中なんでそんなに大それたことはしないので問題はないのですが、それでも違和感ありまくりです。 最初の数分間はあたふたします(笑)。

 そんなこんなでロンドン・ヒースロー空港周辺に差し掛かりました。 いつも通り、オッカムというところにあるVOR施設上空でホールドをさせられます。 ロンドンは忙しいので、毎回ほぼ必ずホールドします。 今回は管制に「15分ホールドね〜」と言われていましたが、結局はオッカムVORを一周したところでベクターされ、あっという間にファイナルアプローチとなりました。

 ロンドンは管制がスピード制限をかなり厳しくかけてきます。 しかも、管制官は我々がオートパイロットのスピード設定をどういじっているかがコンピュータ画面上で見えるらしく、「速度を160ノットに落としなさい」と言われたときにちょっとズルをして155ノットに設定しようものなら、「155でなく、160ノットです」と無線で言って来るそうです。 かなりのマイクロマネージです(笑)。 ホールド中は220ノット、そしてベースターンが180ノット、ファイナルアプローチの4マイルまでは160ノットというのがお決まりのパターンです。

 この日もいつも通り我々の先を飛ぶ飛行機が数マイル前にいるので、いつものように着陸許可が下りるのは先行の飛行機が着陸した直後の着陸寸前です。 ロンドンでは当たり前。 着陸後は指定されたゲート(ヨーロッパではゲートと言わず、スタンドと呼びます)までタクシーし、トランスポンダーを「2000」にしてエンジンシャットダウン(通常は1000にしてシャットダウン)。 これで今回のフライトは終了です。 このように、ロンドンへのフライトではいつもカナダやアメリカで当たり前にやっていることが当たり前でない場合が多くあります。 特に今回のように数ヶ月ぶりのロンドン便を担当するときには記憶があいまいになっていることもあります。 人間だもの(笑)。 そのため、僕は空港毎にメモをつけ、覚えていなければいけないことを記録するようにしています。 フライト中はそういうメモを読み、記憶を蘇らせるように努力しています。



(パート3につづく)

 

2018-04-19

Augmentでロンドン、そして氷雨(パート1)。

 氷雨(ひさめ)。 この言葉を聞いてこの歌を思い出す方もいらっしゃるでしょうか。


 21歳でこの大人の雰囲気。 昔の歌謡スターはただものではありません(笑)。

 話を元に戻します。 先週末にトロント周辺では氷雨が降りました。 英語ではfreezing rainといいます。 難しいことは省略しますが、簡単に言えば雨(水)なんだけど、なにかにぶつかった衝撃で凍りつく雨のことです。 

 カナダはもう4月中盤に差し掛かるというのに、未だに雪が降ったりします。 気温が上がってきたり、温暖前線が通過したりするとこの時期には氷雨が降ります。 

 氷雨は飛行機のです。

 滑走路上に降り積もった雪は除雪車が取り除いてくれますし、たとえ雪が降り続いていたとしても、それが積もるのにはある程度の時間がかかります。 ですから、積もる前に離陸・着陸できるタイミング的余裕があります(時と場合によりますが)。 ところが、氷雨の場合には地上に舞い降りた瞬間に凍ってしまうため、滑走路がつるんつるんになって離着陸がとても困難、または不可能になります。  

 こんな日は通勤も大変です。 僕は最寄りのUP Expressという電車の駅まで歩いて、そこから電車通勤しているのですが、駅までの10分以下の徒歩でも雪や氷のせいでかなりの運動量になります。 オーバーナイトバッグやフライトバッグをゴロゴロと引っ張っているので、雪があるとバッグのローラーが機能せず、力任せにバッグをひっぱるので普段の倍の力が要求されます(汗)。 



 先週金曜日、クルースケジューラーから電話がかかってきまして、「土曜のオタワ・ロンドン便だけど、天気が悪そうだからaugmentで飛んできてね」と言われました。 (Augmentについては過去ログを参照ください。

  久しぶりのロンドン便だったので、ちょっとこころウキウキ。 しかもaugmentパイロットなので、機長と副操縦士が休息を取っている間だけ操縦席に座る仕事です。 これは実は結構楽です(笑)。 しかも、大西洋上空を飛んでいる間の三分の一は僕も休息を取れます。

 まずはトロントからオタワ。 幸い、氷雨は止んでいたのですが、数時間前まで降っていた氷雨の影響でバンクーバーから飛んでくる我々が乗務する機体の到着が遅れていました。 オペレーションセンターの話では、インバウンド機のバンクーバー出発が遅れ、さらにトロント近辺でホールド(空中待機)させられているとのこと。 燃料はたっぷり積んでいたので1時間ほどホールドしてこの飛行機はようやくトロントに着陸しました。 この日は多くの飛行機がホールドさせられ、途中で必要最低限の燃料量に近づいてしまったため、代替空港へダイバートしたフライトも多かったようです。 みなさんお疲れ様です。

 結局、我々は定刻から約3時間遅れで出発となりました。 お客さんたちも待ちぼうけ。 僕らも待ちぼうけ。 お天道様には勝てません。 プッシュバック後はde-icingをしました。 細かい雪が舞い落ちる状態だったので、Type 1(オレンジ色)とType 4(黄緑色)の液体を翼や尾翼に吹きかけてこびりついた雪や氷を取り除きます。 そしてようやく離陸。 

 オタワまでは29000フィートまでしか上がらないいわゆる「ラピッドエアー」と呼ばれる短いフライトです。 飛んでいるのは実に30分強。 離陸後、すぐに着陸の用意をする感じです。 ワイドボディの767には短距離フライトは大変です。 僕はaugmentなので、ジャンプシートに座ってパイロットたちのお手伝いをします。 とはいっても、ログブック記入くらいしかすることはなく、あとは前の二人が行なっていることにミスがないかを確認する作業に加わる感じです(Augmentの仕事内容についてはまた別の機会に細かく書いてみようと思います)。 そんなこんなであっという間にオタワに到着。

 オタワにつくと、augmentの僕は機長に命じられ、フライトプランニングルームという小部屋に行き、フライトプランをコンピュータで入手・プリントアウトしました。 遅れて到着していることもあり、ゲート周辺には大勢のお客さんが列をなして待っています。 この日は満席だったため、200名以上のお客さんが待っていました。 申し訳ないな〜と思いながらそそくさとフライトプランニングルームへ行き、フライトプランを入手したらすぐさま飛行機に戻りました。

 オタワでも残念ながらde-iceをせねばならず、出発が遅れました。 離陸の頃は辺りは真っ暗。 ここから漆黒の闇の中を夜中じゅう飛び続ける長い夜が始まります。

 
(パート2につづく)

2018-04-13

メキシコシティー。

 今の会社では、夜10時から朝5時までは「サイレントアワー」ということになっていて、この時間帯はクルー・スケジューラーはパイロットに電話をしてはいけないことになっています。 767のフライトの多くは午前8〜9時前後(主に国内線かアメリカ西海岸行き)か、夕方遅くの時間(これまたアメリカ行き、またはヨーロッパ方面行き)のチェックイン(日本でいう「ショーアップ」)が主です。 朝に電話がかかってくるときは、誰かがブックオフ(病欠)したか、前日にキャンセルになったフライトのお客さんを767のキャパシティを使って目的地まで送り届ける場合が多いように感じます。

 今週月曜日、午前5時過ぎにクルースケジューラーから電話がかかってきました。 クルースケジューラーが全部で何人いるのかわかりませんが、電話をかけてくるときの最初の二言三言はパターンが二つあります。


  パターン1: 「おはよう! 今日の調子はどうだい?!」 って聞いてくる。


  パターン2: 「朝早くにごめんね〜」と、謝罪から入る。


 正解はもちろん後者(笑)。 朝5時過ぎに寝ているところを叩き起こされて、果たして今何時なのかもわからない状態で今日の調子を聞かれても・・・。 困ったもんです。 

 さて、今回の電話では「We require your service this morning」(今朝、君に働いてもらわないといけないんだよ)と言われました。 こう言われるときは、僕がリザーブパイロットリスト一番下で、僕以外に飛べる人がいないときです。 これがもし僕より下に飛べる人がいる場合には「You could pass」(嫌ならパスしてもいいよ)と言われます。 まぁ、僕は下から2番目のリザーブFOなんで、パスできることはほとんどありませんけど(苦笑)。

 今回はメキシコシティーまでの日帰り往復フライトでした。 メキシコに行くのは今回が初めてでした。 これがメキシコで一泊できるのであればよかったのですが、今回は行って帰ってくるだけ。 長い1日となりました。


 ルートは上のような感じです。 トロント空港を出発し、アメリカ中東部を北から南に縦断し、テキサス州の南で洋上に出るルートです。 フライト時間は往路が5時間ほど、復路はやや追い風があったので4時間半ほどでした。 

 会社が作ったマニュアルの中に「Route Briefing Notes」というものがあります。 これを読めば世界中の空港の情報が書かれています。 どういうところが他とは違うかとか、どういうところに気をつけなければいけないのかとか。 メキシコはラテン系のノリで結構お気楽・楽チンだろうな〜と思っていたのですが、意外と細かい違いがたくさんありました。 というわけで、往路は巡航中ずっと勉強していました。 

 メキシコシティーは標高が高いのが特徴です。 空港は海抜2000メートル以上。 フィート換算で7000フィート以上です。 そのため、いろいろな手順のタイミングがいつもと違い、なかなか新鮮でした。 いつもなら慣れと感覚でできていることも、今回は前もって考えておかないと手順をうっかり忘れてしまいそうになりました(安全面は問題ない内容です)。

 アメリカの空域を抜け、メキシコの空域に差し掛かるころにエリア管制官から「メヒコにコンタクトせよ」という指示が出ました。 メヒコ。 メキシコ(Mexico)でなく、メヒコ。 スペイン語ではエックスは無音なんですね。 エキゾチックです。 僕のイメージでは、大きなとんがり帽子をかぶった管制官がマラカスを振りながら仕事をしています。 勝手な妄想です。 

 メキシコの管制官はアメリカ訛りっぽい英語を喋る人もいますが、多くはとても強いスペイン語訛りの英語を喋ります。 日本の管制官もそうですが、決められたお決まりパターンの英会話以外はあまり得意でない方が多いようです。 そのため、こちらもなるべくゆっくり、クリアに無線交信をするように心がけました。 一度だけ、「え?今なんて言った?」っていう時がありました。 僕だけが聞き取れなかったのかな?とも思いましたが、隣のカナダ人機長も同じリアクションで首を横に振っていました。

 メキシコ市は山々に囲まれ、家は小さい建物も多く、田園風景も多くあり、なんだか成田空港へのアプローチを思い出しました。 意外にも日本の風景と似たものがありました。 一度はレイオーバーで訪れてみたいものです。

 メキシコシティー空港へは無事に到着。 そそくさと帰る準備をします。 機体点検のために駐機場(ランプ)へ降りて行くと外は真夏! 気温25度! トロントはまだ氷点下以下だというのに。 世界は広いです。 現地の女性セキュリティーの人にランプに降りるためのドアを開ける暗証番号を聞こうと思ったのですが、「私、英語デキマセン〜」という可愛いリアクションが帰ってきました。 ランプで働いているグランドクルーの人も多くは英語ができないもよう。 仕方なく 


「オラ〜!(hola)」


というふうにスペイン語に切り替えます。 とりあえず「Hola!」と言って笑っておけばオッケーでした。  


「なんだ、この変なアジア人?」



っていう目で何人かには睨まれましたが(苦笑)。

 復路の離陸の時間になると、空港上空には夏らしいもくもくとした積乱雲が発生していました。 気象レーダーにはしっかりと雲の姿が映っていました。 幸い、雲を避けるリクエストをする前に管制官に飛ぶルートを指示され、そのルートがちょうど雲を避けるのに最適だったので積乱雲には入らずにすみました。 帰りも特に揺れはなく、スムーズなフライトでトロントまで戻ってきました。

 長い1日でしたが楽しい1日でもありました。 翌日には今度はカナダ最東端のセントジョンズ(ニューファンランド・ラブラドール州)までの日帰りフライトをやりました。 あっちこっちいろんなところに行かされています行かせてもらっています。


(つづく)

2018-04-07

パイロット不足についての最近の動向。

2014年の投稿で、僕は「北米ではパイロット不足は起きていない」的なことを書いています。

その投稿はこちら。

パイロットは不足傾向にはあるが、それを補うだけの供給が北米にはある。 なぜなら、日本やヨーロッパとは違い、北米は誰でもパイロットを目指せる制度が確立しているから、という意見を書いたつもりです。 

当時からパイロット不足のニュースはいたるところから聞こえてきていましたが、カナダにいる限り、実際に大きな動きが出てきている感じは当時は受けませんでした。 もっとも、コメントをくださった方のおっしゃるとおり、アメリカでは大きな動きの兆しが出てきていたようではあります。 

アメリカでは、とある航空事故がきっかけで、航空会社の副操縦士として登用されるには飛行時間が最低1500時間必要になりました。 それまでは数百時間で副操縦士になれていた(それはそれでどうかと思いますが)のが、突然1500時間必要というふうに規則が変わったそうです。 こうなると今までのパイロットの供給レベルが保たれなくなり、パイロット不足に拍車がかかったという状況です。 

今でも「誰でもパイロットになれる」という状況には変わりはありません。 日本での訓練費用の5分の1程度でパイロットになれます。 ただ、ライセンス取得後が問題で、飛行時間250時間程度のパイロットがいくらいたってエアラインレベルでのパイロット不足は解消できないのが現状です。 

この結果、アメリカのリージョナル航空会社は躍起になって総飛行時間1500時間以上のパイロットの獲得に乗り出しました。 今までは、酷い会社では1年目のお給料が3万ドル(年収約320万円)以下というところもありました。 


そんなお給料だったらマクドナルドで働いた方が儲かる!


といってパイロットの道を諦める若者も多くいたとか(涙)。 ですが、この状況は今は改善されつつあるようです。 改善どころか、めちゃくちゃバブリーな状態です。

そうこう思っている時、こんなブログ記事を見つけました。


https://pilotjobs.atpflightschool.com/2015/02/09/regional-airlines-are-offering-signing-and-retention-bonuses-to-pilots/

これはアメリカで超短期間でパイロットに必要な資格を取得できることで有名なALL ATPというフライトスクールのリージョナルジェットプログラムコーディネーターの方が書かれているブログです。 このブログ記事の一部を抜粋します。



このようなことが書かれています。  赤線を引いたのが1年目のお給料(ボーナス含む)、青線を引いたのが機長昇格までの期間です。 一番左がリージョナル航空会社の名前、そして文章が多いのが1年目にもらえるボーナス等の内訳です。

ここでいう「ボーナス」は、日本でのそれとは違います。 こちらでは「signing bonus」というものがあり、雇用契約を結んだ際にもらえるお金のことを指します。 ほかにも、「retention bonus」というものもあり、これは会社を辞めずに残ってくれたら払いますよというお金です。 


要するに、お金を目の前にぶらさげてパイロットを集めようという作戦です(笑)。


リージョナルで1年目でこれだけもらえたらかなり潤った生活ができます。 もちろん、パイロットの資格を取るのに何百万円ものお金を先行投資しているわけで、その分の損失を補えばこれだけのお給料とボーナスをもらうのも当然のような気もします。 2年目以降のお給料や昇給度合はここにはかかれていません。 多くのパイロットはリージョナルで飛ぶのはあくまでメインライン・レガシーキャリアと呼ばれる最大手(日本でいうANAやJAL)に行くのが目的なので、リージョナルに長く留まることはないでしょうから、そんなに注目されないのかとも思います。

一方カナダですが、こちらでもリージョナルレベルでのパイロット不足が顕著になってきている模様です。 僕の元教え子(カナダ人、日本人)達の動向も慌ただしくなってきています。 教官時代に担当した生徒の履歴書に僕の名前を使われることも多くなってきていて、ときどき"Tier 3"の航空会社の採用担当者から電話がかかってきます。


Tier 3とは? 
  • Tier 1ー主にメインライン・レガシーキャリアのこと。 カナダであればAir CanadaとWestjet。
  • Tier 2ーTier 1から仕事をもらって地方空港から主なハブ空港への乗り継ぎ便を主に担当するリージョナル航空会社。 カナダではAir Canada系ではJazz, Sky Regional, Air Georgian。Westjet系ではWestjet Encore。
  • Teir 3ーTier 2以外の小規模エアライン。 Pacific Coastal Airline, Central Mountain Air, EVAS, Calm Air等。


航空会社の採用担当者から電話がかかってくると、「〇〇さんはどんな生徒でした? ちょっと話を伺いたいのですが」と言われます。 正直なところ、担当して結構時間が経っているから今更聞かれても・・・と思うこともあります(笑)。 しかし、訓練中にお給料をいただいた手前、決して悪いことはいいません。  

「○○さんは今まで教えた生徒で1、2を争う最高の生徒さんでした」

というのが僕の答えであることが多いのは内緒にしておいてください・・・。

最近はTier 3の会社に入る生徒も結構いますし、そこからリージョナルに移る生徒も最近は多くなりました。 僕がメディバックをやっていた当時の同僚や後輩も今はリージョナルで飛んでいます。 インストラクター時代の同僚のほとんどはライバル会社のメインラインで飛んでいます。

しかし、カナダではアメリカほどの動きはないですし、今のところsigning bonusがもらえるような会社の話は耳にしません。 カナダの航空業界の規模はアメリカのそれとは違います。 航空会社の数も圧倒的に少ないです。 したがって、パイロットライセンスを保持していて、今までずっとエアラインを目指して下積みを続けてきた人の層が相対的にかなり分厚いのだと思います。 ですから、今は採用の動きが慌ただしくなってきてはいますが、いまだに需要よりも供給が多い状態のように見受けられます。 その証拠として、リージョナル航空会社での1年目のお給料はアメリカのリージョナルの半分くらいです。 為替レートを考慮するとそれはもう酷い状態です・・・。 これがアメリカのように供給不足となれば、それこそリージョナルやTier3エアラインもボーナスを出さないとパイロットを引き寄せられない状態に陥ることでしょう。

こんな状況の中、メインライン航空会社(エアカナダ、ウエストジェット)に這い上がりたいのであれば今はリージョナルを経由しないといけないのがカナダの現状ですから、みなさん薄給でもがんばっています。  いつか日本のように、パイロット1年目からパイロットらしいお給料がもらえるようになる時代がくるといいな〜と思っています。

今後、カナダのパイロット採用状況がアメリカを後追いする形になるのか。 目が離せない状態です。 いずれにせよ、パイロットを目指す人にとってはかなりバブリーな状態であることには変わりありません。 


(つづく)