2020-04-25

近未来の座席?

 新型コロナウイルスの蔓延を防ぎつつ飛行機の運航を再開するためのアイデアとして、下のようなものを推測する情報筋が出て来ました↓↓↓


座席の頭部にこのような衛生スクリーンを装着するというもの。

全席に装着するとなんとも異様な光景ですね。

また、中央席を逆向きにして隣の席との距離を少しでも稼ぐというものもあります。


 これが採用されることは個人的にはないように思っています。 理由はいくつかありますが、座席間に仕切りのようなものを設けると緊急脱出に影響が出て来る可能性があるからです。 現在世界中を飛んでいる旅客機の内装は緊急脱出の際に全乗客が90秒以内に機外に出ることができるデザインになっています。 今回提案されている衛生スクリーンはその脱出に支障をきたす可能性がありますし、座席の向きも同様です。 これを採用するには関連政府機関が多くのテストや研究をする必要が出て来ますので、これまた膨大な時間がかかります。 したがってあまり現実的ではないと考えます。 

 それに、こんなスクリーンをつけたら毎フライトごとに壊されるスクリーンの数を考えるだけでもゾッとしますし、体の大きい欧米人にとっては拷問でしょう。 着席するだけでも一苦労です。

 個人的には、以前にも投稿したようなエアカナダが取っている方式(隣に誰も座らせない)がもっとも現実的なように思います。 さらに言えば、今ある座席をそもそも取り替えてしまい、すべて1人用の座席に変更し、距離をとって配置するのが良いと思います。 これをすることによって個人空間が保たれ、喜ぶお客さんも増えるように思います。 もちろん、一人当たりの航空運賃はかなり高価になると思います。 言ってみれば全席ビジネスクラスのようなものですからね・・・。


(つづく)

2020-04-24

コロナが教えてくれたこと。

 今回の新型コロナウイルスの影響を受けていろいろ学ぶことや発見・再確認するべきことも多かったように思います。

 まず思ったのは「予定は未定」ということ。 これは航空業界ではよく聞くあるあるですが、基本的に「航空業界のあしたは誰にもわからない」ということです。 例えば、「〇〇航空は新型機をXX機購入する予定」「▲▲航空はルート拡大のためにパイロットを数百名採用する」などなどという噂があっても、実際には起きないなんてことも日常茶飯事です。 パイロット業界はとても狭くて噂好きな人が多いので、根も葉も無い噂が飛び交うことがよくあります。 その中から真実を見抜くのはなかなか難しいものです。 僕はあまり噂には左右されないように半信半疑で聞くようにしています。 真偽を見抜く力も必要な能力だと思います。

 「航空業界のもろさ」はいままでもいろんな事象が起きるたびに露呈されてきましたが、今回の新型コロナウイルスの影響は計り知れません。 多くの新聞や雑誌の記事を読むと、今のまま経済の停滞が進めば5月末までに経営破綻する航空会社が多く出て来ると予想されています。 実際に、オーストラリアのバージンオーストラリア航空が先日倒産しましたし、イギリスのFlybeも既に倒産。 イタリアのアリタリア航空も政府が完全国有化することになったようですし、その他にもほぼ毎日のように倒産の話が舞い込んで来ている状況です。 航空会社はそもそも薄利なうえ固定費が高い業種で、収入源である航空券販売が滞ると一気に経営が傾くことになりかねないそうです。  そんな業界で働くことの危機感はこれからも肝に命じておく必要があると思っています。
 
 次に、「蓄えの大切さ」。 パイロットは自分の会社を含め、他社のお給料体制までだいたいわかります。 数年先に自分の年収がいくらくらいになるかがわかると高い買い物をする人もいます。 ベッドルームがいくつもある大きな家とか、高級外車・バイクやクルーザーにヨットとか。 実際に機長クラスになると別荘を持っている人がとても多いですし、ヨットに興味があって所有している人も多いです。 機長クラスのお給料があればそれらは購入維持できますが、今回のように万が一レイオフされてしまったり、副操縦士に降格する(つまり減給)ことになったとしたらどうでしょう。 それらはただの負債になりかねなく、売却や借金を強いられる可能性もあります。 巷でよく聞く、「数ヶ月分の生活費は現金で持っておく」というのは本当に大事です。 あるのとないのでは精神的余裕に大きな差が出ます。

 次は「趣味を持つことの大切さ」です。 パイロットに限らず、なにか仕事以外に没頭できることがあるのはいいですね。 気晴らしになりますし、また、その趣味が仕事に思いもよらぬ良い影響をもたらすこともありえます。 先日テレビでパラリンピックのカヌー代表の女性が取り上げられていました。 彼女は外出・練習自粛中はジグソーパズルに取り組まれているそうです。 「カヌー選手がジグソーパズル?」と思いましたが、話を聞くと、ジグソーパズルに取り組むと集中力が上がり、それが彼女の競技にも良い影響をもたらすそうです。 まったく関係なさそうなことが実はどこかで繋がっているのですね。 僕は今年から写真を撮ることを趣味としてはじめました。 いざはじめてみると奥が深く、学ぶことがたくさんあります。 おかげさまで自宅待機中もさほど暇をしていません。 

 「仕事のありがたみ」はきっとみなさん感じていることだと思います。 仕事なんかしなくて済むならしたくないという人もいると思いますが、いざ仕事をしないとなるとポカンと人生に穴が開いたような感覚になります。 僕の場合、仕事で海外に行くのが当たり前だと思っていましたし、そのおかげで自宅に帰って来たときはより一層ホッとしてリラックスできていました。 休日返上で仕事をすると自由時間が減る反面、対価としてお給料を上乗せしてもらえました。 仕事をしていればこそ生活にメリハリがつくものだと再確認しています。

 「将来の道筋」が今回の件でまたもや計画変更を余儀なくされるのは間違いありません。 僕がパイロットとして働き出したときと比べると、ここ数年はすべてが急上昇、絶好調でした。 そのため、最近ではリージョナルだと1年、メインラインでも2年ちょっとで機長昇格が可能となってきました。 昔はワイドボディ機の副操縦士になるのにも長い時間がかかるのが当たり前でしたが、僕は1年目からワイドボディ乗務をさせてもらうことができました。 それが新しい常識、New Normalになりつつありましたが、それが今回一気に様変わりするのはほぼ間違いないと思います。 少なくとも当面は人員削減、運航規模縮小となる可能性が高いように思えますので、その間はパイロット採用も一旦停止となるでしょうし、パイロットの移動、昇格なども動きが減ると思います。 僕は今後2〜3年のうちに機長昇格に挑戦しようと漠然と思っていたのですが、それもきっと僕のタイミングで選べるのではなく、「いつになったら昇格できるタイミングが回って来るか」と環境に運命を委ねる形に変わってしまったと思っています。 

 

(つづく)

 

2020-04-23

プランB。

 ちょっと航空業界の行方とはちょっと話がそれ始めたので、タイトル変えました(笑)。

 さて、前回からの続きです。 パイロットになるのがプランAだとして、それに問題があるときに発動するのがプランBです。 

 パイロットというのはそもそもリスクが高い職業だと思っています(実際に今になってますますそうだと実感しています)。 リスクといっても、命を落とすリスクというものではなく、仕事を失うリスクです。 交通事故にあって体の機能を失ったり、病気になったり、会社が倒産したり、ウイルスが蔓延したり。 僕が明日、一生飛べないような状況になる可能性もゼロではありません。 他の職業でもきっと同じだとは思うのですが、パイロットという職業は専門性が高いため、潰しがききません。 今日パイロットの仕事を失ったから、明日からは今までの経験を生かしてバスの運転手に転職する!なんていうわけにはいきません。 オフィスで働く方々だったら、他の職種に移るのももう少し融通が聞くと思います。 指一本なくしてもなんとか仕事を継続することも可能かもしれません(極論です)。

 こんな仕事ですから、これからパイロットを目指す方々で将来が不安な方は、なにかバックアッププランを考えれば良いと思います。 例えば、なにか自営業を始めるとか、不動産投資をするとか、いろいろ方法はあると思いますが、パイロットをしながらもできるもう一つの仕事があったら強いでしょうね。 

 実際、今まで飛んだことがある機長連中の中には自営業をしていたり、不動産運用をしている人がたまにいました。 最近飛んだ人の中には株取引で1日で1000万円以上も動かしているというツワモノまでいました。 当然ながら、そのもう一つの仕事がうまくいかなくて、パイロットとして働く際の精神衛生上の問題になるのでは元も子もありませんが。

 ようするに、僕が理想的だと思うのでは、パイロットとしてしか生きていけない人間にはならないようにすることの重要性です。 今現役で飛んでいるカナダ人のなか(特に年配のパイロット)には、生まれてこれまでパイロットとしてしか働いたことがない人が多くいるように見受けられます。 10代のうちに父親や祖父の影響でパイロット訓練をはじめ、その後もパイロット畑をひた走って来た方々です。 パイロットとしては立派な経験の持ち主ですが、中には高校卒業後の教育は受けておらず、他の職種を経験したこともない人がいます。 こう言う人が悪いと言っているわけではなく、こういうひとは他の仕事の経験がある人に比べると「リスクが高まる可能性がある」と思っているのです。

 僕はまだ40代前半なので、ま〜なんとかなるかな?とは思いますが、万が一、これから僕が仕事を失ったらどうでしょう。 今から他の業種に移るにはかなりの労力が必要になります。 今まで培って来たものが崩れ去り、また一からのスタート。 辛いですが、不可能ではないと思います。 ところが、もし僕が今50代後半とかだったらどうでしょう。 現実的にここから再スタートをするのは厳しいはずです。 今までの生活を捨ててゼロに戻る。 簡単ではないはずです。

 こんな状況になった場合に、パイロットと同時進行でなにかもう一つのプランBを進めて来ていたとしたら。 プランBをプランAにすり替えて、そこから進んでいけばいいんですよね。 そう考えるとまったくのゼロから始めるよりは断然精神に及ぼすダメージは少ないはずです。

 将来設計は株取引などの基本と同じだと思います。 「リスクの分散」。 これが大事で、そのための努力はいつやるか。 問題が起きる前にやっておくか、問題になってから考えるか。 そこを考える必要があるように痛感しています。

 パイロットを目指しているみなさんには、個人的にはこれからもパイロットを目指して進んでいってもらいたいと思っています。


(つづく) 

 

2020-04-22

今後の航空業界の行方予想 -第3回-

 ここしばらくフライト数が全般的に激減していますし、緊急事態宣言、自宅待機要請の影響などもあってモントリオールはとても静かです。 僕が住んでいるところはダウンタウンの観光地からちょっとだけ外れたところで、北風が吹く日にはモントリオール空港の滑走路06L/06Rを離陸する飛行機がアメリカ方面に行く際には僕のコンドミニアムの上をターンしていきます。 逆に南風に変わると24Lに着陸する飛行機がアプローチを開始するころの姿もバルコニーからよく見えます。 それが今はほぼゼロ。 静かです。 時たま小型機が飛んでいると今なら「おっ〜、飛行機!」となってつい窓際で機影を追ってしまうくらいです(笑)。 今住んでいるコンドに引っ越して来てちょうど1年が経ちました。 1年前にこんなことになろうとは夢にも思いませんでした。

 今日、テレビを見ていたら、集合写真をドローンで空撮している映像が流れていました。 これを見ていて思い出したことがあります。 それは僕が中学生の頃に毎年(?)撮っていた学校の集合写真です。 校庭に全校生徒が出て人文字を作るっていう、あれです。 なんの意味があるのかよくわからない行事でしたが、僕は楽しみでした。 僕の中学校の場合、福井空港を離陸したセスナ機が飛来し、南側から校庭の写真を撮ってまた南に消えて行くという感じでした。 校庭に出てスタンバッていると、先生が「そろそろ(カメラマンを乗せた飛行機が)来ますよ」的なアナウンスをして、しばらくすると遠くのほうからレシプロ機独特の音を轟かせて飛行機が現れる。 それを目で追いかけるのがとても楽しかったのです。 撮影が終わると、パイロットは翼を左右に揺らしてから空港に戻るのです。 それがとてもロマンチックというか、ドラマチックで大好きでした。 今はドローン一つでいつでもこういう写真は撮れますよね。 ドローンを左右に振られても感動なんてしませんよね(笑)。 便利にはなりましたが、ロマンは減りました。

 で、なんでこんなことを回想しているかというと、フェイスブックグループの投稿などを見ていると、今回の新型コロナウイルスの影響で今後パイロットになれるかを不安に思っている若い方々が多いということを知ったからです。 当然ですよね。 世界中の航空会社が飛行機を駐機し、労働者を解雇し、フライト数が例年の1割未満にまで落ち込んでいる状況ですから。 そういう投稿を見ていて、僕だったらどうするかな?と考えていたら、昔の自分が飛行機に興味を持ち出した頃のことを思い出しました。 僕が彼・彼女たちの年齢の頃は、上記のような感じで非常に漠然とした飛行機・パイロットに対する憧れや夢を持ち、のほほんとして生きていましたが、今の若者はいろんな情報を次から次へと強制的に与えられ、今後の生き方を検討しなければならない状況なのでとても大変だろうと思います。

 結論から言うと、僕ならパイロットの夢をコロナごときに奪われるのはしゃくなので、決して諦めません。 今後、飛行機そのものがこの地球上から消え、パイロットの必要性がゼロになるというなら諦めますが、そうでないなら目標を捨てはしないと思います。 ただ、状況が状況なだけに、プランBを考えます。



(つづく)

 

2020-04-19

今後の航空業界の行方予想 -第2回-

 今回は、これからの航空旅客の新しい形と、それがパイロットに与える影響について考えます。

 現在世界各国が行なっている行動制限、国境封鎖が解かれる日がいずれやってきます。 おそらくはアメリカが打ち出したような段階的な封鎖解除が実施されるとのが現実的でしょう。 人々が動き出し、また飛行機を利用する日がまたやってきます。 そんな中、コロナウイルスの第二次、第三次蔓延を防ぐため、航空会社は「3密」が起きないように配慮しなければなりません。 
 
 カナダ政府は昨日、当面はマスク(または類似品)を装用しないと飛行機に乗れないという新たなルールを打ち出しました。 マスクをしていないと保安検査場すら通過できないのとことです。 北米・ヨーロッパ諸国ではこれまで「マスクをするのはアジア人のみで、科学的な根拠・有効性はない」とみる風潮にありました。 それがここにきてウイルス拡散を防ぐ上である一定度効果があることを認めました。 

 エアカナダのプレスリリースによると、今後は機内でなるべく乗客同士の距離が近くなるのを防ぐため、下図のように配慮するとのことです:

「安全第一。 安全な旅行のために距離を取りましょう。」

「可能な限り、お客様になるべく距離をあけて座っていただけるよう、搭乗口係員が積極的に座席変更をいたします。」

このような動きに加え、まだ今のところ具体的な発表はありませんが、おそらく各空港も航空会社と連携し、空港に旅行客が集中するのを防ぐ方法を検討するかと思います。 そのためには便数制限をしたり、空港ターミナルへの入場を制限することも考えられます。 

 以上、どれも今後しばらくの間は旅客の集中を抑制することが最重要課題になるでしょう。 3密の発生を防ぐにはこうするほかはありません。 それではこの新しい動きはパイロットの数にはどのような影響を与えるでしょう?

 まずは必要とされる便数の増減について考えてみます。 旅客数が制限されれば必要となるフライト数は減ると思われますが、実は必ずしもそうではないかもしれません。 上記の図からもわかるとおり、乗客同士が席をあけて着席するとなると、一度に乗れる乗客の数も自ずと減ることになります。 上の図ではキャパシティの半分しかお客さんを乗せることができません。 僕が乗務するボーイング767ER機を例に挙げると、満席で282名乗れますが、新方式を採用すると半数の141名しか乗れないことになります。 機内で乗客間距離を最低2メートル取ることが必要であれば上の方式ではまだまだ十分ではなく、さらに有効座席数が減ることも考えられます。

 座席数が減ると航空運賃は上がります。 単純計算ではありますが、運航コストを乗客の頭数で割ったものが航空運賃になりますので、一度に運べる乗客数が減ることはすなわち航空券代が上がることにつながります。 もちろん、運航が一旦再開された直後は航空会社各社は行動制限中に失った収益を取り戻そうと航空運賃を一時的に下げ、シートセールのようなことを実施することも予想できますが、いずれ旅客数が戻ってくれば今度は有効座席数が足りなくなり需要と供給のバランスが崩れ、航空運賃はいずれは値上がりすることになるでしょう。

 ということで、移動制限・国境閉鎖が解かれた直後から当面の間は旅客数はある一定度戻ってくることが考えられますが、そもそも座席数には限りがあります。 これをパイロットの仕事に及ぼす影響に置き換えて考えると、有効座席数は減るものの今までと同じ数の旅客運搬をするためには座席数を制限した飛行機を今まで以上の便数飛ばす必要が出てくるかもしれません(便数は増えても運搬旅客数は変わらず)。 そのためには今まで以上にパイロットの数が必要になるかもしれません。 これはあくまでも希望的観測ですが(笑)。

 今後どうなるかは移動制限・国境閉鎖が解かれるまでに世界経済と消費者心理が受ける影響の度合いにかかっていることは間違いありません。


(つづく)

2020-04-18

今後の航空業界の行方予想 -第1回-

 先日、ここカナダで働いている日本人パイロットのみなさんと合計8名でビデオチャットをし、近況報告・情報交換をしました。 初めてビデオでお顔を見る方がいたり、以前訓練を担当させてもらった生徒さんがいたり、もう何年も前に会って以来お話をしなかった人がいたりして楽しい時間になりました。 今の世の中がこんな状況だからこそビデオチャットを通してみなさんと繋がることができたので、悪いことばかりでもないのかもしれません。

 今日は今後の航空業界の行方について考えてみます。 こんなことを考えるくらい時間が有り余っています(笑)。

 今日はまず、今後のパイロットの需要と供給について考えてみようと思います。 


世界的なパイロット不足

 ここ数年言われ続けてきた「世界的パイロット不足」ですが、これは一旦落ち着きを取り戻す(=需要が減る)ものと予想します。 

 これまでパイロット不足が深刻化してきた理由は主に次の三つだと思います:

  1.  パイロットの大量定年退職
  2.  航空旅客数の増加 
  3.  乗務員の就労時間の短縮化
 コロナがこれらの点に及ぼした影響を見ていきます。


大量定年退職

 まずはパイロットの大量定年についてですが、これはこれからしばらくは続くことは間違いなく、コロナとは直接関係ありません。 強いて言えば、コロナが経済に及ぼした影響によってパイロットの定年退職は一時的に急加速しているとも言えます。 現在、航空会社のほとんどは運航便数が減っている間のキャッシュロスをなるべく抑えようという動きに出ており、定年が近いパイロット(年齢50代後半から60代前半)には早期定年退職を促しています。 我が社でも150名弱のパイロットが早期退職を決めたそうです。 こんな経済状況の今なので、パイロットの新規採用は一時停止状態でもありますし、現役パイロットの数は確実に減少しています。 ただし、ここで重要なのは、減るのは「絶対的なパイロットの数」である点です。 需要と供給のバランスがとれていないと、たとえ絶対的なパイロットの数が減ったとしてもパイロット不足にはならないことも考えられます。 

 っということで、それではどれだけのパイロットがこれから必要になってくるのでしょう。 次はそこを考えてみます。


グローバル化と航空需要の増加

 LCC・格安航空会社の出現により航空運賃は近年大幅に値下がりしてきました。 そのため、今までは気軽に旅行に行けなかった人々も比較的お手軽に飛行機を利用して世界中を移動するようになりました。 もっとも顕著な例が中国でしょう。 中国が国際的な市場・経済活動の中心となってきたのを背景に中国人の多くが経済的に豊かになったのは間違いありません。 多くの中国人は世界中に観光に出かけ、爆買いするようになりました。 その需要に応えるため、航空会社はこれまでどんどん便数を増やし、ルート開拓し、大型機を導入してきました。 今後もその流れが続く予想だったため、パイロットがますます必要になると言われ続けてきたのです。 それが今回のコロナウイルスの影響により大きく様変わりするでしょう。 


コロナ後の人々の心理と経済への影響

 コロナの前であったらLCC航空会社でよくみられるようなぎゅうぎゅう詰めの客室でも、「チケット代が安いから」と諦めて旅行に出かける人が後を絶ちませんでした。 ところが今は「ソーシャルディスタンス」「フィジカルディスタンス」の確保が推奨されていますので、今後もぎゅうぎゅう詰めで飛べるのかは疑問が残ります。 飛行機の客室内はいわゆる「3密」が存在しやすい環境です。 

 一方、世界には今日現在コロナウイルスとの戦いが続いている国や地域がまだまだ数多くあります。 たとえ一部の国が国境を再開したとしても、そんな状況で外国旅行に出かけようと思い立つ人は少ないでしょう。 また、今まではビジネスや出張で飛行機を利用する人の数が常に一定数いましたが、最近ではリモートワークを推奨し、なるべく人とは会わずにネット上の会議システムやチャットなどを利用する人が増えてきました。 今回の経験で、「人と会わなくてもネットでなんとかなるんじゃない?」と思う人は増えるでしょうから、わざわざ飛行機に乗って、3密状態に身をさらす危険を冒してまで出張する人というのは減るのではないでしょうか。

 以上の理由から、旅客数は以前と比べて減る(少なくともしばらくの間は)のは間違いなさそうです。


コロナ後のバブル

 当然ながら今後は飛行機のような密閉空間での移動を避けたいという人がいる反面、それでも私は旅行がしたい!という人がいるのもまた自然で、理解できます。 数ヶ月間の都市封鎖で自由を奪われた人々はその反動で爆買い・爆消費する傾向にあり、ある種のバブル経済が発生しているところもあるとのことですので、また自由に旅行ができる環境になればある一定数の人々はまた移動をはじめます。  

 一方で、ウイルスの怖さが脳に刻み込まれた人々が再び動き出すには時間を要するでしょう。 人間は忘れる生き物です。 しかし、ここまで世界的な影響を及ぼし、多くの犠牲者を出したウイルスのことはそう簡単には忘れるはずはありません。 世界大戦で被害を被った人々が何十年もたった今でもその悲惨さ・恐ろしさを忘れていないのと同じようなものです。 上記のとおり、移動を始める人が増える一方、移動に臆病になる人が増えることも確実です。

 
運航乗務員の就労時間短縮

 カナダをはじめ、多くの国々でパイロットが1日に働くことができる時間を航空法で短縮する流れにあります。 現在の法律よりもさらに制限的なルールで、new fatigue ruleと一般的に呼ばれています。 勤務時間、始業時間、またぐ時間帯(タイムゾーン)の数、クルーの数(例:パイロット2名か3名か)、休息時間の長さ、などなどがパイロットの疲労に直結し、航空事故を起こす引き金になりかねないことが科学的調査によって判明していますので、そのリスクを下げるためにルールを改定するものです。 この新ルールの採用により、今までは2人のパイロットで運航できていたルートも今後は3人ないし4人のクルーで運航しなければならなくなる場合があります。 そうなると今のパイロットの数で今まで通りの便数をこなすことは不可能なので、パイロットの数を増やす必要性が出てきます。 これだけを見るとパイロットの数は増えることになりますが、当然ながらフライトの数が減ればパイロットの数を増やさなくても今いる数でこなせてしまう可能性があります。


有資格パイロットの放出

 9.11やSARSの時とは違い、今回のコロナウイルスは世界規模の事象です。 世界同時多発テロが起きたとき影響を受けたのは主にアメリカでした。 当時アメリカで飛んでいたパイロットやアメリカに就航していた航空会社は便数減少でダメージを受け、多くのパイロットがレイオフされたと聞いています。 そういうパイロット達は母国を離れ、アジアや中東の航空会社に多く流れていったそうです。 ところが今回のコロナウイルスの被害は世界中で出ており、世界中の航空会社が例外なく影響を受けています。 世界中のパイロットがレイオフをされている今、職を失ったパイロットを採用する会社はなかなか見つからないはずです。 となると、パイロットの市場には多くの有資格者、有経験者が放出されることになります。 余剰が増えれば不足は減ります。


まとめ・今後のパイロット需要の動きを決めるカギ

 今後の航空業界の動向はコロナ収束までにかかる時間と、それまでに経済が被った被害の度合いに大きく左右されると思います。 今後しばらくは景気低迷が避けられないと思います。 そのため、航空業界が以前のように戻るまでには時間がかかるでしょうから、その間は運航便数が制限され、必然的にパイロット不足は一時的にではあるものの解消されるでしょう。 現役パイロットをはじめ、これからパイロットを目指す方々にとっては厳しい時期となります。 



(つづく)

2020-04-13

コロナで潤う?業種。

 今日現在、僕が働く会社は昨年度に比べて運航便数が9ほど減っている状況です。 ほんの数ヶ月前にはコロナウイルスが武漢で発生し始めていましたが、他人事のように思っていました。 今までの9.11SARSがパイロットや航空業界に及ぼした影響についても同じく、「自分には起きないこと」となぜか思っていました。 それが今では航空会社の倒産やパイロットレイオフなどがとても身近なところで起きていて危機感を抱いています。

 っと、ニュースを見る限りは航空業界は完全に停滞しているように見受けられますが、中には潤っているところもあるようです。

 一つ目は航空貨物の分野です。 世界的に有名なところでいえばアメリカのFedEx, UPS、アマゾン、あとはDHL系列の貨物を運搬する航空会社です。 カナダにも貨物専門の航空会社がいくつかあります。 普段であれば旅客機であっても搭乗客の荷物に加えて一般貨物を載せて運航するのがほとんどです。 それが今回の運航停止や便数激減の煽りを受け、普段だったら旅客機でカバーできていた分が航空貨物会社に回されているようです。 実際、そういう会社では今のような状況であっても(もしくは、こんな状況だから)パイロットを採用しているようです。 

 二つ目の例はチャーターの分野です。 武漢の都市封鎖が解除され、今までロックダウンされていた富裕層がまた移動を始めています。 そんな中、ウイルス感染を恐れ空港の人混みを避けたい金銭的余裕がある人たちは小型ビジネスジェットをチャーターして動くことが増えているそうです。 そのフィールドで働くパイロットも局地的に忙しく飛んでいるのだとか。

 正直言って今まで貨物専門の航空会社にはあまり良い印象を持っていませんでした。 大手のUPS/FedExお抱えパイロットならともかく、下請け会社のパイロットともなると数年毎の契約更改などに多大な影響を受ける可能性があります。 どの会社もコスト削減を目指しますから、今までは〇〇航空で運搬していたものを次年度からはコストが低くて済む△△航空に鞍替えする、なんていうことが実際に起きます(いわゆる「race to the bottom」です)。 運航規模が縮小されれば当然ながらパイロットの数も減らされますから、レイオフの可能性が出てきます。 また、カーゴの多くは夜間のフライトが多いようで、「太陽の光を見てフライトしたのはもう何年前になるかな〜?」なんていうコメントを聞くこともあるそうです。 そうなると体調管理も大変そうです。

 でも、今回の件があって、なるほど、貨物専門もそれなりのメリットがあるということに気付き、印象が変わりました(単純です・・・笑)。 かといって、今から貨物の会社に移るなんていうことは考えてはいませんけど。

 モントリオールは現在、都市封鎖とまではいきませんが行動を制限されていますし、お店やサービスなども営業停止を余儀なくされているところがほとんどです。 失業率も上がってきていますが、カナダ政府は失業者や営業できない店舗への経済支援が本当に早いです。 失業保険に申し込むと翌週にはお金が振り込まれているようです。 また、各州が独自の支援を数々打ち出していて、言葉は悪いですが、下手したら今失業保険を受給した方が儲かる人もいるんじゃない?と思ってしまうほどです。 財源がなになのか、どのくらいの余力があるのか些か不安はありますが、スピード感はすこぶる良いので感心します。 

 レストランは今はイートインは出来ず、デリバリーやテイクアウトのみ営業が許可されています。 スーパーは開いています。 前述の通り失業者は多いですが、スーパーなどでも人が足りない状況なんだそうです。 

 コロナウイルスの影響で潤っているのは「航空貨物業界」と「スーパーマーケット」です()

 そんなスーパーマーケット。 僕の近所のスーパーでは入場人数が制限されていて、入り口でカチカチと人数を数える人がいます。 中に入ると商品が陳列されているエリアに入る前にまずは石鹸で手を洗わされます。 その後やっと入店。 中に入っても買い物カゴを消毒してもらうのを待たなければなりません。 貼り紙には「必要がないものには手を触れないように」と書かれています。 ここまでを聞くと「カナダはしっかりしてるな〜」と思われるかもしれませんが、従業員はマスクはしていませんし、買い物カゴを消毒している若者従業員なんかは消毒用の布()が地面に落ちても平気でまた使いまわしているのも見かけますし、清潔さの度合いというのは本当に人それぞれなんだなと思い知らされます。 と、同時に、ウイルスが世界中に広まるのはこういった個別の感覚に大きな違いがあるからなのだろうとも思います。

 スーパーではほとんど今まで通りなにもかわりません。 唯一困っているのは小麦粉がどこに行っても売り切れなことくらいでしょうか。 時間があるからパンでも作ろう!と思い立った人(僕を含む)が急増したのか、そもそもケベック人の食卓には小麦粉は欠かせないのか、そのところはよくわかりません。

 といった感じで日々は過ぎていきます。 自宅待機はまだまだ続きそうですが、ロックダウンしているわけでもありませんし、ヨーロッパ諸国のように厳しい外出制限があるわけでもないのが不幸中の幸いです。

(小麦粉の棚はほぼ空っぽです。)



(つづく)