2021-03-21

カナダ or アメリカ。

  え〜、3月も既に後半に入りました。前回の書き込みに書いた通り、今月はリザーブではなく、ブロックホルダーになりました。ペアリングは2つのみ。一つはアメリカ・フロリダへの日帰りフライトで、もう一つは国内の3日間のペアリングでした。今の情勢を鑑みればペアリングが2つだけでもよしとしなければいけないと思っていたのですが、ここに来て会社の方針が変更になり、今月はフライトがすべてキャンセルになりました。

 以前の書き込みで説明したかもしれませんが、パイロットとして飛ぶためには免許や型式証明、そして航空身体証明などが必要になるのですが、実はそれに加えてある一定のフライト数(飛行時間、離着陸回数等)を一定期間内に行わなければならない「recency requirement」というものが存在します。一般的なホビーパイロットの場合であればその制限をクリアするのはさほど難しくありませんが、エアラインの場合は航空法で定められたrecency requirementに加えて会社が定めたrequirementが存在しますし、そもそもホビーパイロットのようにお金を出して好きな時に好きなところに飛ぶことは実質不可能です。カナダ国内はどこを見てもフライトの数が絶対的に少ない状態です。ところがパイロットの数は必要数以上雇用が維持されています。そのため、雇用されているパイロット全員のrecency requirementをクリアすることが現実的に不可能な状態に陥っています。そのため、僕が務める会社は暫定的に一定数のパイロットのフライトをキャンセルして地上待機にし、本当に必要な数のパイロットのみを飛ばすことで彼らのrecencyを充足させる方針に転換しました。僕は地上待機組みの条件に当てはまっているので、向こうしばらくはまたもやフライトがないことになりました。去年も3月からフライトがなくなっていったので3月が嫌いになりそうです。

 ワクチン接種数は国によってとても大きな開きがありますが、航空業界の復興も同じく大きな開きがあり、最近になってその差が顕著になってきました。航空業界の本場アメリカはワクチン接種数世界一のようですが、航空業界もかなりパンデミック前の状態まで回復しつつあるようです。ワクチン接種と政府による潤沢な資金投入が主な要因のようです。一方、カナダはワクチン接種数が極端に低く、コロナ対策も政府は右往左往していて、航空業界に対する資金サポートもまだのような状態。航空業界の行く末は今も暗黒の真っ只中という感じです。カナダ国内の競合他社からは最近になってパイロットを追加レイオフするという発表もありましたし、リージョナル航空会社の一つが閉鎖に追い込まれました。大手航空会社の一つは経営統合か、それが実現しなければ倒産してもおかしくないというような状態です。いいニュースは一つもないといっても過言ではありません。

 下のスクリーンショットは今日現在の世界各国のフライト数を表したものです。黄色いシンボルの一つ一つが航空機を表しています。


まずは北米。アメリカを飛んでいる航空機の数がカナダと比べると圧倒的に多いです。


こちらはヨーロッパ。コロナ対策で苦しむ国が多いわりにはフライト数は多い印象。


某共産主義国もフライト数は多いですね。いい気なもんですね。


日本も結構ダメージを受けていますね。

 アメリカとカナダはこれまでは感染者数はアメリカのほうが爆発的に増加していたため、アメリカとカナダの国境封鎖に積極的だったのはカナダのほうだったはずです。ところがここに来てアメリカはワクチン接種数がめちゃくちゃ増え、感染者数の押さえ込みに成功しつつあります。一方のカナダは日本のように下げ止まりしている感じで、ワクチン確保も当初の予定よりも遅れているので、このまま行くと今度はアメリカ政府がカナダとの国境再開に懸念を示すのではないかと思えてしまうほどです。

 アメリカの航空会社は一時レイオフになっていたパイロットを呼び戻し始めていると聞きます。また、政府からまたもや資金注入があったようで、追加レイオフはすべて取り消しになり、さらには今度はパイロットが足りないということで、今後も採用を増やして行くという話まで聞こえて来ています。アメリカはバブリーですね〜!

==========================

 最近、SNS界隈をほんの少し賑わせた「Clubhouse」。海外パイロット組の間でもClubhouseで会話を楽しむ人たちが多いようです。僕は興味がないので利用していません。ただ、使っている人の話によると、主にアメリカで働いている人が多く参加しているようです。カナダと比べてやはりアメリカで働くパイロットの数はかなりいるようですね。SNSで積極的に情報発信している人の数は多いですが、そういうことをしていない人の数も入れるとおそらくかなりの数です。そこもカナダとは比べ物にならないほどでしょう。

 日本でパイロットになれなかった人が外国でパイロットを目指すとなると最初に考えるのはおそらくアメリカです。そしていろいろ調べて行くうちにアメリカでライセンスを取ったあとのグリーンカード取得の壁にぶち当たるはずです。そこで「比較的移住しやすい英語圏の国」ということで浮上するのがカナダです。カナダは教養、経験、能力さえあれば永住権を取ることが可能な国で、そういった面ではとてもフェアな国だと思います。アメリカは必ずしもそうでない印象です。アメリカ人との婚姻関係を通してグリーンカードを取ることは容易でしょうが、そうでなければかなり難しいようです。

 カナダに来て暮らし始めて15年近く経ちましたが、カナダの航空業界のあれこれが見えてきた今、「カナダに来たことは正しかったのか」とふと考えることもあります。もしカナダではなくアメリカに行って訓練を受けていたらどうなっていたのかな?と妄想することがあります。アメリカは学生時代の留学や旅行で慣れ親しんだ国ではあります。航空業界の本場と言われるだけあって規模がでかいです。仕事の種類や数もカナダよりも圧倒的に多いです。一方でグリーンカードの高い壁があります。果たして僕はグリーンカードを取ることに成功してそのままエアラインまでの道を進むことができたのか。できたのであれば今頃はどこの航空会社で働き、どの都市に住居を構えていたのか。もしくはグリーンカード取得に失敗し、日本に舞い戻ることになっていたのか。はたまたアメリカを諦めてやっぱりカナダに来て、当初の予定よりも数年遅れてパイロットのキャリアを結局カナダで始めていたのか。たらればで想像をするとなかなか面白いですね。

 そんなことを考えて、「アメリカの生活も悪くないな〜」とか、「グリーンカードの抽選に申し込んでみようかな〜」と想いを馳せることもありますが、僕はニューヨークやシカゴなどの忙しい空域を飛ぶよりもカナダのんびりしたエリアを飛ぶほうが性に合っているとも思うんですよね。今のポジションや職場にもある程度満足はしていますし。でも、給料から天引きされる税金の額を見るたびに毎月必ずカナダを嫌いになるのも事実ではあります(笑)。



(つづく)







2021-03-02

2月のリザーブ。

  あっというまに3月になりました。今日までがリザーブのシフトで、先月はほぼ毎週末飛んでいたようです。週2日働き、5日休みという感じのパターンを繰り返していました。リザーブの時はフライトがあるとセニオリティ順でクルースケジューラーから電話がかかってきます。

「〇〇行きのペアリングがあるけど、興味ある?」


という感じの電話です。幸い、今月は僕がリザーブFOの中でもっともセニオリティが高いため、僕に電話がかかってくるときにはYESかNOをいう権利があるのです。やりたいペアリングならやればいいし、面倒なペアリングだったりする場合にはパスすることができます。ペアリングをパスするためには僕よりも下にジュニアなリザーブパイロットがいることが条件になりますが、今のご時世フライトの数がそもそも少ないので常に僕の下には数名のFOが待機しています。とはいえ、今の時期はある程度のフライト数をこなしておかないと、一定期間内に決められた数以上の離着陸やフライト数をこなさなければならない『recency requirements』に抵触してしまいます。ですので、今月は1回だけパスしましたが、それ以外は基本的に電話がかかってきたらフライトに行くということが多かったです。

 ちなみに、僕が今の会社に入社した1年目はずっとリザーブでしたが、その間はずっともっともジュニアなFOでした。そのため、クルースケジューラーから電話がかかってきたら有無を言わさずにフライトに行かされました。それがたとえ朝7時に起床していて、午後3時くらいに電話がかかってきて、夜7時出発のロンドン便(フライト時間6時間前後)であってもです。今はリザーブのルールが変わったのでこういうことはおきにくくはなりましたが、起きている時間が20時間近くにもなって乗務するというのはあまり安全ではありません。疲労による集中力の低下は航空事故の原因の一つによく挙げられるものです。リザーブというポジションは主にジュニア(セニオリティが低い)パイロットが半ば強制的に担当させられるポジションです。僕は1年目の経験がトラウマになっていますので、それ以来、リザーブにならなくて済むポジションをなるべく選ぶように決めました。とはいえ、先月のようにリザーブであってももっともシニアであれば感覚はまったく異なります。とどのつまり、航空会社で働くということはセニオリティが生活の質に多大な影響を及ぼすということです。そういう理由から、僕はパイロットを目指す方々にはどんな方法でもいいからなるべく早く航空会社に入社できるルートを模索することをおすすめしています。

 今月はモントリオールーオタワ間のペアリングを2回やりました。オタワまでは車で2時間ほどですが、飛行機だと25分前後で到着します。それだけの近距離だと通常の巡航高度に上がるまでにはオタワに着いてしまうため、ジェット機ではあまり見かけない13,000~14,000フィートで巡航します。離陸してオタワや代替空港の天候を確認し、着陸に必要な距離を計算し、NOTAMなどを再確認してフライトマネジメントコンピュータを準備してブリーフィングしてとやっているとあっという間に降下を開始するタイミングになってしまいます。そのため、一緒に飛ぶ人の心の余裕(?)にもよりますが、離陸前のモントリオールにいる時点であらかじめオタワへのアプローチのブリーフィングまですべてやってしまいます。(余談ですが、エアバスのフライトマネジメントコンピュータには離陸から着陸までのすべての情報を離陸前にプログラミングすることができますが、767の場合はそれができませんでした。この点はエアバスのほうが優位です)。フライトは夕方に出発し、30分ほどでオタワに着いて仕事終了。離陸前にde-ice/anti-iceスプレーをしなければいけなかったので少しだけ時間がかかりましたが、一度飛び始めるとあっという間です。着陸後はホテルでのレイオーバー。あいにくオタワ滞在時間は14時間ほどで、なにかできるような時間はありませんでしたが、この時期はパンデミックの影響もありますし、そもそも特にすることはありません。

 でも、これまでずっとモントリオールで缶詰になっていた僕にすればたとえ近場のオタワであってもなかなか新鮮に感じます。朝は早起きして人出が少ない時間帯に州議事堂周辺をさくっと散歩して写真を撮りました。




 この時期、気温や降雪の影響もあって木々は樹氷を纏っていて、とても綺麗です。木の種類もモントリオールでよく見るものとは違うようで、それもまた見ていて楽しかったです。


 明日から3月のスケジュールが始まりますが、今月はリザーブではなくブロックホルダーということで予定があらかじめ組まれています。その内容はほぼ働いていないようなものです・・・。詳しいことはまた次回にでも。



(つづく)