2020-03-21

カナダの航空業界の現状。

 前回の投稿から1ヶ月弱が経ちました。 その間にコロナウイルスによる影響がここカナダでもかなり深刻化しました。 前回書いた内容を読み返すと、「読みが甘かったな・・・」と思わざるを得ない状況になりつつあります。 今日は、今のカナダ国内の状況を書き綴ろうと思います。

 カナダ政府は、全カナダ市民に対し、不必要な海外渡航を取りやめる事、そして、旅行などで海外にいるカナダ人に対しては速やかに、利用可能な手段を使って帰国することを促し始めました。 海外からの飛行機の乗り入れも主要空港のみに制限されました。 そしてもっとも最近ではカナダ・アメリカの国境(陸路)が原則的に閉鎖されました。 

 これにともない、世界中の航空会社がフライト数をセーブしはじめました。 最初に耳にしたのはルフトハンザグループ。 全フライトの半数以下に便数を減らすということでした。 その後、アメリカの主要航空会社も同様の動きに移り始め、今ではカナダ国内でもほぼ全航空会社が同じような流れを辿っています。

 カナダの航空会社は数社ありますが、主要なところではエアカナダ、ウエストジェットの2社。 バケーション系のエアラインではエアトランザット、 サンウィングなど。 リージョナルではウエストジェット・オンコア、 ジャズ、ポーターエアラインズ、などがあります。

 エアカナダは4月下旬までフライトを大幅に減便すると発表(海外101都市→6都市、 アメリカ53都市→13都市、 国内62都市→40都市)。 

 ウエストジェットでは海外路線・アメリカ線の全便欠航。 パイロットは一時解雇は免れたようですが、しばらくの間は減額。 客室乗務員の一部は一時解雇(レイオフ)。

 エアトランザットも徐々にフライトを減らしすべての便を欠航。 大多数のクルーを一時解雇すると発表。

 ポーターエアラインズは全てのフライトを3月20日(今日)から6月1日まで欠航すると発表。
 
 サンウィングも同様にフライトを欠航し、クルー全員を一時解雇する模様。

 というように、いいニュースは皆無です。 

 現地報道によれば、ここ数週間の間に政府からの資金援助がなければ倒産する航空会社も当然出てくるとのこと。 そもそも航空業界は薄利な産業ということで、さらには乗客が払う運賃(キャッシュ)の流れに頼っているところが多いそうです。 そのため、そのキャッシュの流れが今回のようにパンデミックの影響で止まってしまうと経営を続けることがそもそも難しいという仕組みです。 すでにヨーロッパや中国ではいくつかの航空会社が破産に追い込まれています。 コロナ発生以前から経営状態が優れない会社だったようなので、他の同様の会社も今後は危ういでしょう。

 僕のことを書くと、今月は中旬から一時帰国する予定でいたので、そういうスケジュールを組みました。 最初の12日間で飛びまくり、13日から月末まではおやすみというスケジュールをもらいました。 ところが、日本が入国制限を開始し、カナダもそれに続き、さらにはカナダに戻ってきても14日間は自主的に隔離生活を求められるようになりました。 仕事でよく行くアメリカは、直近2週間以内にヨーロッパなどに旅行歴があるものの入国を制限しはじめました。 以上の理由で日本はもとより、海外に仕事以外で出ることはリスクが高すぎると判断し、カナダ国内に留まることにしました。 会社からもメモが回ってきて、「旅行で海外に出ることは望ましくない」とか、「それでも海外に行くのならば、それに伴うリスク・仕事に出る支障に関してはすべて自己責任」というような連絡がなされています。 そもそも、コロナウイルスが蔓延している今、海外旅行に行くということ自体が正しい選択ではないとも思えます。

 仕事で一緒になる機長連中はこの道20〜30年のベテランです。 これまで9.11、SARS, MERS、航空会社倒産や合併などのさまざま危機を経験しています。 彼らに比べると僕なんかは今まで特に困難にぶち当たることもなくスムーズにキャリアアップしてきました。 ちょっと前までと比べれば僕が仕事を探していたころはまだ低迷期であったように感じますが、それでもベテラン組が経験してきた波とは比べ物になりません。 彼らの中にはそういった危機の際に一時解雇された人も多くいます。 また、機長から副操縦士に降格になったとか、他の機種に強制的に移動させられたとか、他のベース所属になったとか、本当にいろんな苦難を経験してきたようです。 今回のコロナウイルスでは僕にもそういう不幸が襲いかかってくる可能性も十分にあります。 一時解雇になるかもしれませんし、今いるポジションから別のポジションに変わることもありえます。 お給料が減るかもしれませんし、しばらく飛べなくなるかもしれません。 正直、不安です。 

 先ほども書いたとおり、今まで本当に順調にやってこれたのがある意味奇跡だったのかもしれません。 仮に仕事を失うと、貯金を崩して生活しなければなりません。 しばらくやっていくだけの蓄えはありますし、雇用保険もおりるでしょうからいきなり路上生活になるなんてことはありえません。 しかし、世の中には毎月のお給料がないと次の日から路上生活になるという人が多くいます。 カナダ政府はいろいろな打開策を模索しているようです。 住宅ローンの支払い延期、収入税の免除や支払い延期、学生ローンの支払いを一時停止、などなど、少しずつ新聞やテレビなどでの報道で明らかになってきています。 

 こんな状況ですから、コロナの波が去ってからもしばらくは景気が悪い状況が続くことが予想できます。 たとえ、また海外に飛んでいけるようになっても、経済的ダメージを受けた人々には旅行や不必要な出費を差し控える心理が働くでしょう。 そうなると我々の業界が回復するのには時間がかかることと思います。

 その一方、中国ではウイルスの蔓延が徐々に抑えられつつあり、人々に自由が少しずつ戻ってきていて、今まで制限されてきた分、購買意欲に火がつき、ちょっとしたバブルが発生しているという話も聞きます。 それもわかりますね。 ずっと我慢してきたわけですから、また自由に出かけられる、買い物ができる、という状況になればワイルドになる人々も出てくるでしょう。 カナダでも、また、航空業界でもそういう動きが出てくるのか。 これからの動きを注意深く見守って行くしかありません。

 今パイロットを目指しているみなさん。 または、これから目指そうと思っていた方々。 今起きていることは辛い現実ですが、これが真実です。 以前にも書きましたが、航空業界はこういう波の影響をもろに受けます。 そして、そこでパイロットとして働くということは、そういう影響に対して常に気を張っていないといけないということです。 また、避けきれない波もあるでしょう。 そういう場合のダメージをいかに少なくし、次のチャンスがくるまで我慢できるか。 そういう能力が求められると思います。 プランAだけではなく、プランBやCも考えておく必要があると思います。 これは普段のフライト運航と同じ考えです。 そして、数ヶ月前まではパイロット不足や大量定年などの影響でパイロットの需要がとても高かったのですが、今後どうなるのかはまったく想像できません。 定年するパイロットがいるのは変わりありませんし、fatigue rule等の導入により今までよりもパイロットが必要になることは間違いないと思いますが、経済がどれだけのスピードで回復できるかによっては、パイロット雇用がまた活気付くにはかなりの時間を必要とする可能性もあります。 

 僕自身、今回のことでいろいろ考えさせられました。 お金のこと、仕事のこと、働く会社のこと、働く国のこと。 正解がなにかはわかりません。 今の時点でわかっていることは、4月末まではとりあえず飛ぶことはありません。 今は耐える時。 今の自分にできることをやっていくしかありません。

 暗い話ばかりもなんなので、今月上旬に行ったペルー・リマの写真をどうぞ!

素敵な海辺のカフェ。 眺めも最高。


なんだか海岸線も素敵。


プロビンシャルという島周辺。 黒いのは陸地ではなく海。


よく見ると超小さい島が色の境目にあります。 繰り返しますが、黒いところも海です。




(つづく)