2017-08-28

ボーイング767、red-eye、そして健康。

 以前にも書いたかもしれませんが、ボーイング767は近い未来に退役することが決まっている機体で、来年には劇的に運航機材数が減らされるそうです。 一緒に飛ぶ機長に聞く話では、以前は767はそれこそまさに世界中を飛んでいたそうです。 中東に南米、ヨーロッパにアジア。 それが今ではそれらの路線はもっと多くの乗客を運べ、しかも燃費性能の良いボーイング787やボーイング777に取って代わられました。 僕が乗務する767は今では主に北米路線を飛び、海外便としてはイギリス・ロンドン、ドイツ・フランクフルト、あとは日本・成田便などを主に飛んでいます。 

 リザーブパイロットで、しかももっともセニオリティが低い僕が行かされる(行かせてもらえる?)のは主に国内線です。 特に多いのがトロントーバンクーバー便。 あとは時たまアメリカ・ロサンゼルスとサンフランシスコというのもあります。 でも、圧倒的にバンクーバー便が多いです(笑)。  
 
 先日、ちょっとバンクーバーで行きたいところがあったので、4連休の3日目だったのですがクルースケジューラーに「休日出勤オッケーです」というリクエストを送りました。 そうしたら結構早く電話がかかってきて、「バンクーバー便あるけど、行く?」って聞かれ、はいはい行きますと返事をしました。 休日出勤をするとお給料が割増になるという特典があります。 しかも、バンクーバーでやりたいことができるだけのレイオーバー時間もあり、一石二鳥でした。 お休みも1日だけは振替てもらうこともできたので、一石三鳥という感じです。 

 トロントからバンクーバーへのフライトは行き(西へのフライト)は約5時間。 帰り(東へのフライト)は4時間ちょっとという感じです。 ルートは天気や乱気流の報告などを元にディスパッチャーが精査して決定します。 ずっとカナダ国内を飛ぶこともあれば、ほとんどアメリカを飛ぶこともあります。 前回の帰りのルートはこんな感じでした↓


 よく見るとアメリカとカナダの国境に黒い細線が見えます。 このルートはバンクーバーを離陸後、ほんのちょっとはカナダ国内を飛びましたが、それからオンタリオ州にたどり着くまではずっとアメリカ国内を飛んでいました。 ですので、航空無線で話すのもソルトレイクシティー、ミネアポリス、クリーブランドなど、ほとんどがアメリカのATCです。 カナダ国内ではCPDLC(Controller Pilot Data Link Communication)というデータリンクを使用するので、無線で話をする数も減りますが、アメリカではCPDLCを使えません。 このCPDLCを利用すると、どこかの航空管制とコンタクトをしないといけない場合には「ポーン♪」というチャイム音がコクピット内に鳴り、「Contact Edmonton Center on 120.50」という風に文字で指示が送られてきます。 これをボタンを押して「Accept(承諾)」し、ラジオを使って話をするという流れです。 これは結構便利で、大西洋を渡るときにはVHF無線が使えないので、CPDLCを使います。

 僕がよく乗務するトロント発バンクーバー行きはトロントの夜に出発し、バンクーバーの深夜に到着します。 トロントとバンクーバーには3時間の時差があるため、バンクーバーの深夜0時頃というとトロントの午前3時頃になります。 これは正直そんなに大変ではありません。 逆にバンクーバー発トロント行きはこれまたバンクーバーの夜遅く(午後11時過ぎ)に出発の便が多いです。 この時点で既にトロントでは日付が変わって午前2時半です。 そこから4時間ちょっとフライトし、トロントには午前7時前に朝日が上ってくるころに到着します。 これが結構辛い・・・。 英語では真夜中に飛ぶフライトのことを「Red-eye flight」と呼びます。 日本語では「目の隈便」と呼ぶそうですね。 

 Red-eyeをやって帰ってくるとかなりクタクタです。 人間が寝ていなければいけないはずの時間帯に無理やり身体を起こし、頭を使って仕事をし、本来であれば胃腸が休息を取る時間帯に変なものを食べたりするというのは身体には堪えます。 日本でもトラックの運転手さんや看護師さんなど、夜勤をする人はきっと大変なんだろうな〜と今さら思うようになりました。 どこででも寝れる人とか、いつでも寝れる人であればこの類の仕事には向いていると思いますが、僕は残念ながらそういう体質ではありません。 夜遅く出発の場合にはなるべく日中に昼寝をするように心がけてはいますが、それすら難しいこともあります。 幸い、仕事中に眠くなるということはなく、目はしっかりと冴えていますので仕事に影響はありませんが、まだまだ慣れていないこともあってか、red-eye後に家に戻ってくると、その日は一日あまりなにもできません。 先日も朝8時頃に帰宅し、そこからソファーに横たわって4時間ほど眠り、さらに午後からも数時間眠ってしまって、一日特に有益なことはできませんでした。 こういうことをずっとやっているときっと身体にはよくないと思います。 

 以前の会社ではred-eyeのようなフライトをすることなくセニオリティの階段をスムーズに上っていったため、こんなに苦しい思いをすることはありませんでした。 また、リザーブでもありませんでしたので、自分が好きなようにスケジュールを組むことができました。 もともと僕は早朝に強く、深夜に弱い体質なため、red-eyeのように遅くまで起きているのは苦手です。 むしろ、朝4時に起きて仕事をし、午後の早い時間に仕事を終えるようなスケジュールのほうが得意です。 ボーイング767に乗務している限りは今のようなスケジュールが続きそうでいろいろ悩むところでもあります。 

 機会があるたびに先輩パイロットに「どうやって時差ボケとかred-eye対策をしています?」と聞くことにしています。 なにかきっと秘訣があるはず!と思って聞きまわっていますが、「どうやったって疲れるのには変わりないよ」という人が多いです。 ず〜っと時差ボケや睡眠不足と戦うことになるのがこの仕事という人もいます。 

 それでも「ワイドボディ」のボーイング767に乗務できているのはラッキーなので、なるべく楽しむように心がけています。 もうしばらくはこのままワイドボディを飛ばし、どうしても健康面などの理由で不満があるのであれば、ナローボディーであるエアバス320などに移ることも検討しています。  ナローボディーであれば前の会社で飛ばしていたルートや飛行内容と近いため、体調管理もきっとやりやすいのでは?と思っています。 ただし、機材変更となると、また数ヶ月の訓練と勉強が待っています。 それはちょっとなぁ〜っていうのが今の本音です(苦笑)。

 ここからは先日のフライトでロサンゼルス、バンクーバー、ロンドンに行った時の写真をどうぞ。

 白い砂浜が広がるロングビーチ。

 遊歩道のようなものが整備されていて、そこを走るのが僕のいつものコースです。

 木々がとてもアメリカ西海岸らしいです。

 さすがメキシコ系が多い西海岸、タコスが美味しいです。

 こちらはバンクーバー。 ホテルからインナーハーバーとライオンズゲートブリッジがちょっと見えます。

 橋を渡ってキツラノ方面へ。 サイエンス・ワールドが見えます(丸い建物)。


 こちらはイギリス・ロンドン。 カーナビーという界隈には買い物をするショップが多くあります。

 ロンドン・ヒースロー空港内には人参型のプラントが植えられています。



(つづく)
 

2017-08-07

リザーブパイロットの生活。

 僕が今の会社に入った時、グランドスクールには30名のパイロットが呼ばれていました。 僕はその30人のうちで一番セニオリティ番号が低いパイロットでした。 

〜セニオリティ番号とは〜
 通常、会社に入社した日付に基づいて各社員に割り当てられる固有の番号で、この番号が小さければ小さいほどセニオリティが”高く”、いろいろな面でセニオリティが高い人(番号が小さい人=早く会社に入った人)のほうが優位な選択をすることができます。 例えば、毎年の休暇を決めるときなどにはセニオリティが高い人から順に希望を出すことができます。 


 グランドスクールの中盤で「どのベースでどの機材を飛ばすか」を決める日がありました。 決めるのはセニオリティ順です。 僕は一応形式上は希望を出しましたが、30人中30番目なので、結局は「残り物」が回ってくることになりました。 選択肢にあったのは

  • ボーイング787のRelief Pilot (通称RP)
  • ボーイング767(メインライン)の副操縦士(通称FO)
  • ボーイング767(レジャーエアライン)のFO
  • エアバス320/321/319のFO
  • エンブレア190のFO

という感じでした。 機材を選ぶにあたり、いろいろ考慮することがあります。 パイロットの中には「僕は(私は)とにかく大型機を飛ばしたい!」という人がいます。 大きい飛行機のほうが小さい飛行機よりもエラいんだという考えが少なからずあるからです。 ただし、大型機を飛ばすということは、同時に長距離を飛ぶということを意味します。 なぜなら、大型機を短距離路線で飛ばすのはコスト高になってしまうからです(日本のように、どうしても大型機でないと旅客数をさばけないという場合は別ですが )。 ということは、それだけ家を留守にする日数も多くなる場合があります。 はたまた、パイロットの中には「どんな飛行機でも良いけど、とにかく働く日数を少なくしたい」という人もいます。 特に家族がいたり、小さいお子さんがいる人の場合には仕事よりもプライベートを優先することが多いです。 他にも、「なるべくお給料が高い飛行機がいい」とか、「楽なフライトが多い飛行機がいい」とか、「ベースは〇〇がいい」とか。 本当にいろいろ選択肢があります。

 僕はというと、希望は787か767でした。 やっぱり一度は大きな飛行機を飛ばしてみたいというのが心の何処かにあったからです。 ベースはバンクーバーがいいな〜と思っていましたが、それは叶わず、結局トロントベースのボーイング767の副操縦士に落ち着きました。 

 今までは、大型機のFOになるには、まずはRP(=リリーフパイロット。 第3のパイロット)になり、そこで経験を積み、数年してからやっと副操縦士に昇格できるというのが通例だったそうです。 このRPですが、原則的に離着陸はさせてもらえません。 主な仕事はその名の通りリリーフで、機長・副操縦士の業務を一時的に替わることで機長・副操縦士にフライト中に休息を取ってもらうことが主な目的のパイロット職です。 一昔前まではRPは下積みパイロットのポジションで、そこで頑張ってようやく副操縦士に昇格し、やっと操縦桿を持って離着陸をやらせてもらえるという感じだったようです。 ところが今は物事の流れるスピードが変わり、RPをやらなくてもいきなり副操縦士にいけるようになりました。 僕が業務していると、機長やフライトアテンダントの人に「入社いきなり767のFO? あなた、ラッキーだね〜!」と言われることが多々あります。 その通りで、僕は本当にラッキーです。

 ここまではいい話ですが、あんまりよくないことももちろんあります。 それが今日の本題。 リザーブについてです。

〜リザーブパイロットとは〜
乗務するパイロットに病欠が出たり、もしくはスケジュールの急な変更などでどうしても追加要員が必要になった場合に駆り出されるパイロットのこと。 リザーブ勤務日は予め決められていますが、実際に電話で呼び出されるかは前日もしくは当日まで分かりません。

 僕はこのリザーブパイロットです。 理由は簡単。 一番セニオリティが低いパイロットだからです。 僕は現在、トロントベースの767パイロットの中でもっともセニオリティが低いパイロットです(えっへん笑)。 そのため、あまり誰もやりたがらないリザーブパイロットに充てがわれているわけです。 現在、767のFOではリザーブパイロットが4名ほどいます。 その一番下が僕。

 僕のスケジュールはだいたい4日勤務で3日お休みです。 これがときどき4日勤務で2日休みや、5日連勤で4連休などになることもあります。 

 リザーブ勤務日は原則的にいつ会社に呼ばれるかわかりません。 24時間待機ですが、それでは大変でしょうということで「サイレントアワー」というものが設けられていて、午後9時から午前5時までは原則的に電話はかかってこないことになっています。 それ以外はずっとリザーブです。 朝5時きっかりに電話がかかってくることもありますし、お昼過ぎに電話がなることもあります。

 電話がなって仕事に呼ばれると、原則的に2時間以内に空港に到着していなければいけません。 ということは、リザーブである時はあんまり遠くに出かけることはできないということです。 電話がなるまでどこかで自由に遊んでいてもいいけど、2時間以内には自宅に戻って着替え、荷物をまとめて空港のフライトプラニングルームに出頭しないといけません。 これに間に合わないと最悪の場合はフライトの出発が遅れ、お客さんに迷惑をかけることにもなりかねないので、結構気を使います。 とはいえ、僕が住んでいるのは空港から電車で30分以内の場所なので、よほどのことがない限りは仕事に遅れることはないと思っています。 交通事情の悪いトロントですが、僕は電車通勤なので、渋滞などを気にする必要もなし。 かなり助かっています。 たま〜に、フライト出発時間から2時間以内に電話がかかってきて、「ごめん、なるべく急いで。 間に合わなくてもしょうがないのはわかっているから、とりあえずベストを尽くして!!」という電話で呼ばれることもあります(笑)。

 僕が副操縦士としてチェックアウトした当初は3週間ほどコールがなく、ずっと家で待機していました。 これは心理的にしんどかったです。 せっかくチェックアウトしたのだから飛びに行きたいとも思いますし、そもそも飛行機のことをまだまだ実際に操縦して学んでいかなければいけないのにその機会をもらえないというのはとてももどかしいものでした。 それから時間が経ち、今はリザーブの日のおおよそ6〜7割はコールがあります。 これで月に12〜13日くらい働いている感じで、これよりも少ないときもあります。 どこに飛ぶのか、誰と飛ぶのか、そしてどのくらい家を留守にするのかが分からないのはちょっと困ることがあります。 例えば、せっかく新鮮な野菜やフルーツをたくさん買ったのに、しばらく家を空けなければいけないとなると、自宅に戻るころには野菜がちょっとしなっとなっていることもあります(笑)。 

 一方で、リザーブパイロットをやっていると普段はいけないようなところに行けたりもします。 セニオリティが高いパイロットが担当するはずだった「おいしいフライト」を、そのパイロットが病欠などで休みになったりすると代わりに担当することもあるからです。 こういう理由で、わざわざリザーブパイロットを自主的にリクエストする人もいるくらいです。 

 多くのエアラインでは入社しばらくは生活環境や仕事環境があまりよろしくないこともあります。 しかし、時間が経ち、セニオリティが上がっていくにつれてそれらは向上し、いろいろと希望が通るようになります。 その域に到達するのに何年かかるかはいろんな事情が絡んでくるので一概には言えませんが、ほぼ間違いなく向上します。  それがセニオリティ制度のよいところだと思います。

 今回はリザーブについて少し書いてみました。 


(つづく)