2018-10-04

初ポルトガル。

 先週、初めてポルトガルの首都リズボン/リスボンに行ってきました。 ヨーロッパのもっとも西にある国で、スペインのお隣です。 ポルトガルは日本ともいろんな歴史的接点があった国で、そういう意味でも今回のリスボン行きはかなり楽しみにしていました。

 リスボンまではトロント空港から約7時間と、他のヨーロッパ諸国と比べるとカナダから比較的近い国です。 この日のチェックインは午後10時(汗)。 出発時刻は午後11時過ぎでした。 ヨーロッパ行きのフライトの多くはカナダ時間の夕方から夜遅くになる場合が多いです。 夕方に出発することで午前中、または午後の早い時間に目的地に到着します。 そうすることでその日のうちに乗り継ぎができますので便利なんだと思います。 一方、我々クルーたちは夜中じゅう仕事をすることになります。 僕が乗務するルートでは今回のリスボン行きやバルセロナ行きが特に夜遅い時間の出発です。
 
 リスボンまではいつも通り北大西洋ルートを飛行します。 カナダ側のGander Oceanicという空域を通り、そこから少しずつ南下を始めます。 西経30度を超え、イギリスのShanwick Oceanic空域に入りますが、そこからちょっとすると今度はSanta Maria Oceanicという空域にも入って行きます。 通常はGander->Shanwickでおしまいなのですが、この日は3つもOceanic空域を通過します。 そのためいつもよりもちょっとだけ忙しいかったです。

 リスボン空港近くに差し掛かるとスペイン語・ボルトガル語訛りの強い管制官と交信します。 Rの音が超巻き舌です(笑)。 笑いを少しだけこらえながら交信し、リスボン空港に差し掛かります。 リスボンアプローチと交信をする頃になると高度も下がり、リスボンの街並みが見えてきます。 

 リスボン空港はかなり市街地から近い場所に位置しています。 日本で言えば大阪伊丹空港のような感覚でしょうか。 多くの国際空港は日本の成田空港のように市街地からはかなり離れた場所に存在することが多いので、この空港は珍しいです。 この日は滑走路03に北向きに着陸。 風も穏やかでスムーズな着陸となりました。 

着陸後はオープンランプの駐機スポットに到着。 ジェットウェイと呼ばれるターミナルに接続された搭乗ブリッジではなく、昔ながらのタラップ(昔ビートルズが日本に来た時に日航機からおりて来たときを想像してください)を降り、バスに乗ってターミナルに移動するスタイルです。 ヨーロッパでは結構多く見かける方式です。

 飛行機を降る際に外を見ると多くのTAPポルトガル航空の飛行機が数多く見えます。 多くはエアバス330や340。 340をカナダで見かけることはあまりないので新鮮です。 エアカナダも昔は340を運航していましたが、今はもう既に退役しています。 330は今でも人気の機種で、最近になってまた数機買い足されたようです。 いつかはエアバスにも乗ってみたいと思う理由の一つはこの330です。 767よりは少し大きい飛行機で、離着陸時の姿はとても優雅です(個人的感想)。

(写真上:TAPのエアバス340型機)

(上:ターミナルへの移動中に見えた飛行機達)

 ホテルは空港から10分ほどの所にあります。 どうやら世界中のエアラインクルーが泊まるホテルのようで、我々が到着したときにはちょうどカタール航空のクルーがロビーに集まっていました。 FAさんたちはばっちりメークに帽子というスタイル。 なかなか素敵です。
  
 ホテルはちょっと古い感じですが、中にはにはプールもあり、なかなか良い雰囲気。 なによりこの日の気温は30度と、カナダ・トロントとは20度近い差があります。 こう暑いと持ってくる私服もTシャツ・短パンでオッケーなのでとても楽です。 

(上:ベランダから見えたプール)

 いつものようにお昼寝を2時間ちょっとし、シャワーを浴び、早速外に出かけました。 ホテルから歩いて10分くらいのところに地下鉄の駅があります。 そこからだいたい20分くらいでリスボン市の中心部に出ます。 今回はFAの一人の勧めでfree walking tourに参加しました。
 
 Free walking tourというのは、ボランティアや小規模ツアー会社が運営する、徒歩で名所を巡るツアーのことで、ここ最近はどの観光都市でも見かけるサービスです。 多くは予約も必要なく、集合場所に行って勝手に参加するスタイルです。 「Free」とはなっていますが、完全無料というわけでもなく、ツアー最後にチップを要求されます。 額は決まっておらず、自分が適切と思う額を支払えば良いというもの。 今回このタイプのツアーには初めて参加しました。

 ツアーの途中や、ツアー前後に個人行動をしている際に見かけた風景を写真でどうぞ!

(上:16世紀に天正遣欧少年使節団が滞在したと言われるサン・ロッケ教会。この日は結婚式のようなものを行っていたので中には入れませんでした)

(上:リスボンもアメリカ・サンフランシスコのような坂があります。ブダペストと同じような趣のある路面電車があちこちに走っています。)

(上:フリーツアーの集合場所だった広場。 この日は政治デモのような集会が開かれていたのでこの人だかり。)

(上:風情のある裏路地。残念ながらこの都市もいたるところに落書きがあります。 汚いという場所はあまりないですが、特段綺麗でもありません。)

(上:コメルシオ広場。 海岸そばの広場で立派な門があります。 周りには観光客を狙った怪しいやつらがわんさかといます(笑)。)

(上:門の反対側はひらけていて、真ん中に銅像が立っています。 その向こう側が海です。)

(上:ツアーではこんな入り組んだ通りも案内してくれます。)

(上:裏路地を抜け、高台にある広場からは夕暮れ時の海岸沿いの街並みが見えます。)

(上:ツアーが終わったのが午後7時過ぎ。 薄っすら暗くなって来たところを再び中心部に向けて歩きました。 路面電車の線路に沿って歩くと迷いません。)


(上:街中には多くのオート三輪が観光客向けタクシーとして走っています。)

(上:この日の晩御飯は地元料理。 イワシのオリーブオイルグリルです。 リスボンはイワシ料理が有名なんだそうです。 これは美味でした。)

 初めて参加したウォーキングツアーでしたが、内容はまずまずでした。 ガイドの人がどうも歴史にかなり詳しい人だったようで、いろいろ説明はしてくれてはいたのですが、途中から参加者全員がかなり飽き始めているのにも気がつかず、詳細な歴史情報をバンバンぶち込んで来ました(笑)。 途中でツアーを離脱しようかとも思いましたが、せっかくだから、と最後まで残りました。 約4時間弱のツアーが終わり、チップを払って退散。 20ユーロ払いました。 正直な感想を言えば、ツアーには参加せずに自分一人で回った方がもっと多くの場所を観ることができたと思います。 でも、ツアーに参加したからこそ見れた景色などもあったので、それはそれでよかったと思います。 初めて訪れる都市は一人で回った方が僕にはあっていますが、2回目以降、見所に困った時にはツアーに参加しても良いかなと思いました。

 翌日は午前11時過ぎにホテルを出発しました。 ヨーロッパはユーロコントロールというベルギーに本部を置く航空管制局がヨーロッパ全体のフライトの流れを管理しているそうです。 出発予定時刻10分前にカナダトロントまでの飛行許可(IFR Clearance)をもらおうと思ったのですが、「遅れが生じている」と告げられました。 幸い、30分ほどの遅れだったので大きな問題はありませんでしたが、時には1時間以上も離陸が遅れることもあります。 これはユーロコントロールが交通量の流れに制限をかけるからで、その場合はどうしようもありません。 大幅な遅れが生じている場合には、「出発時刻が早まる可能性がある場合には連絡するから、無線聞いておいてね〜」とだいたいの場合は言われます。 

 この日は僕の操縦でトロントまで戻りました。 離陸直後に目の前に大きな鳥が飛んでいるのが見えたので、仕方なくそれを避けるために進路を少しだけ右にずらしました。 本当は離陸直後は滑走路の延長線上をまっすぐ2000フィートまで上がることになっていたのですが、少しだけ逸脱しました。 おかげでバードストライクになることもなく無事リスボンを離れました。 フライト中は計器に集中することもありますが、やはり外にも目を向けておかないといけません。 飛んでいる鳥は計器では見えませんので(笑)。 東向きに離陸し、ぐるっと西向きに進路を変えます。 そうするとリスボンの街並みが見えます。 とても綺麗な都市です。 やはり海のそばの都市はいいですね。 しばらくするとヨーロッパ大陸の最西端の海岸線が見えて来ました↓


 巡航高度に入り、少し落ち着いたところでお土産に買って来たエッグタルトを食べました。 
(上:Pastel/Pasteis de Nataと呼ばれるリスボン名物のエッグタルト。 美味!)

(上:太陽がちょうど我々の後ろ側にあり、エンジンからの水分が凍ってできる飛行機雲の影と、丸い虹が雲に写っていました。)

 トロントに戻ってくると、雲底が低く、気温も10度ちょっとでした。 夏は終わり、これからはこういう天気が多くなります。 もう少しすると気温が10度以下になり、いよいよ霜が降りたり雪が降ったりしてきます。 もうそろそろ頭を冬のオペレーションモードに切り替え、de-icingの作業などのことを考える必要が出て来ます。 夏の積乱雲や雷雲を避けながらのフライトは厄介ですが、冬のde-icing等も同じくらい面倒です(笑)。 カナダで飛ぶということは1年中なんらかの気象条件と戦うということを意味します。 気温も+30度以上からマイナス20度以下の場合もありますから、そういうオペレーションを体験できるのはカナダ特有です。


(つづく)

2018-09-26

CPDLCとスコットランド。

 今日までスコットランドの首都エディンバラに行ってきました。 エディンバラに行ったとはいうものの、厳密には「グラズゴーに行って、それからエディンバラに行った」というのが正しいです。 というのも、着陸はグラズゴー空港、離陸はエディンバラ空港というペアリングだったからです。 

 以前グラズゴーに行った時は、エディンバラに着陸し、車でグラズゴーに移動、そこで一泊して翌朝グラズゴーからトロントに戻ってくるというものでした。 なので、今回はそのでした。

 エディンバラのグラズゴーは距離にして70キロほど、車での移動は渋滞にもよりますが、1時間弱といったところです。 ではなぜ離陸と着陸が違う空港かというと、それはそれぞれの空港からトロント空港までのフライトは毎日運航していないからだそうです。 そのため、着陸した都市でレイオーバーとなると、次の便がある数日後までクルーはその都市に滞在することになり、労力の無駄になるのです。 そのため、グラズゴーまたはエディンバラに着陸したクルーはもう一方の都市に陸路移動し、翌日発の便でカナダに戻ってくることになります。 こうすることで労力を無駄にせず、しかも1週間数本の便を少ないクルーで回すことが可能になるそうです。 よく考えられています(笑)。

(写真上:印があるのがグラズゴー。)

(写真上:グラズゴーとエディンバラは70キロほど離れたところに位置します。)

 この日はNAT Trackの北から2番目のルート(Track S)をリクエスト。 申請通りのOceanic Clearanceが下り、そのルートに沿ってイギリスに向かいました。

 大西洋上ではうっすらですがオーロラを見ることができました。 下の写真の真ん中あたりにぼんやりと緑色に写っているのがオーロラです。 携帯のカメラでは暗所撮影に限界があるため、あまり綺麗には見えませんが、実際にははっきりと緑色が確認できました。

 グラズゴー空港へはSTARを飛ぶこともなく、途中からレーダーベクターされ、ILSアプローチにて着陸となりました。 同じ英国でもロンドン・ヒースロー空港とは違い、グラズゴー空港もエディンバラ空港もどちらかといえばリラックスした、あまり忙しくない空港です。 つまりは僕好みの空港です(笑)。

 空港到着後、入国審査を通過し、待ち受けているハイヤーで陸路エディンバラの滞在先ホテルに向かいます。 この日は朝の通勤ラッシュアワーにぶつかっているので結構な時間がかかりました。 幸い車はこんな感じ↓で、後部座席はかなり快適。 おかげで少しだけ目を閉じることができました。 運転手は現地の人ですが、英語がかなりスコットランド訛りのおかげでわかりにくく、彼が言っていたことの6割くらいしか理解できませんでした(笑)。


 ホテル到着後はいつも通りお昼寝です。 今回のホテルはベッドも快適で、ぐっすりと仮眠を取ることができました。 起きたらシャワーを浴び、早速外へと繰り出しました。

 あいにくこの日のエディンバラの天候は曇り。 気温は10度前後。 強風しかも小雨が時折ぱらつくという感じの天気でした。 まずはホテル裏にあるカールトンヒルへ。

(写真上:カールトンヒル。 ここからエディンバラが一望できます。)

(写真上:市街地と逆の方向を見ると、いかにもスコットランドといった感じの風景。)

(写真上:エディンバラの街並み)

 カールトンヒルのあとはエディンバラ城に向かいました。 

(写真上:ホテル付近の景色。 面白い建物がいたるところに存在します。)

(写真上:エディンバラは丘に囲まれたような地形なので、建物が段々に建っています。)

(写真上:エディンバラ城。 強風です。)

 エディンバラ城は入場料が必要です。 この日は時間もあまりなかったので、入場は諦めました。 周りを歩いただけでもなかなか楽しかったです。 

 あとは適当に街中を歩き、カフェで眠気覚ましのエスプレッソを嗜み、自転車屋さんに立ち寄ったりしてホテルに戻りました。 ホテルにはジムがあったのでそこで少しだけ運動。 夜は機長と夜ご飯に出かけました。 イギリスはインド料理が人気で、この日はパブでインド料理をいただきました。 なかなか面白い組み合わせですが、地ビールもインド料理もなかなか美味しくて満足できました。

(写真上:食後のホテルまでの帰り道で見かけた別のホテル。 雰囲気があります。)

+++++++++++++++++++

 翌朝は現地時間の午前5時起きです。 カナダ・トロント時間だとちょうど午前0時ですから、やっていることはレッドアイフライトと変わりません。 空港を午前6時過ぎに出発し、空港には車で30分ほどで到着します。 空港内のカフェでカプチーノ(トリプルショット)を機長に奢ってもらい、それで眠気を覚ましました。

 エディンバラ空港は今日も強風でした。 滑走路24を西向きに離陸。 この日は離陸重量が比較的軽かったため、離陸後すぐに高度36000ftまで上昇しました。 イギリスはカナダから比較的近いため、燃料もあまり多くは積みません。 今日のフライトで搭載された燃料は40トン未満でした。 飛行機は燃料や貨物を多く積めば積むほど離陸重量が増えます。 重量が増えると飛行機のパフォーマンスが落ち、それが上昇できる高度に反映されます。 機体が軽いとそれだけ簡単に高度をあげることができますが、逆に重いと高度をあげることができません。 その場合、燃料を燃やして機体が軽くなるのを待って、それから少しずつ高度をあげることになります。 

前回の投稿でCPDLCについて書きましたので、今日はその写真を載せます。 CPDLCとは「Controller Pilot Datalink Communications」の略で、航空管制とパイロットが通信に使うシステムです。 通常、国内線の場合などはVHF周波数の無線を使って航空管制官と通信をしますが、洋上などではVHF無線が届かない距離まで飛ぶこともあるので、今までは主にHF無線を使っていました。 いまでもHF無線はバックアップ的に使ってはいますが、洋上のコミュニケーションの多くはCPDLCに取って代わられました。 カナダやヨーロッパでは国内でもCPDLCを使えます。 
 
 では、CPDLC(シーピーディーエルシー)とはなにかというと、簡単に言えば携帯でメールを送るのと同じようなものです。 パイロット側からのリクエストなどがある場合にはコクピット内のキーパッドを使ってメッセージを送ります。 また、航空管制からのメッセージもこの端末に送られてきます。 

 ↓の写真はこのフライトで送られてきたメッセージです

「西経30度に到達する前までのあなた方の最高高度はなにかを教えてください」という内容です。 おそらく、他の飛行機が我々と同じ高度で我々のルート付近を通過するか、または気象条件などによって我々に高い高度を指示してくるのではないかと推測できました。 このリクエストに了解しましたと返事をしましたので、端末画面下半分にはROGERと記されています。 VHF/HF無線は誰かが話している間は他の人は話せないため、処理できる情報には限界があります。 このCPDLCを使うことにより無線での会話の量を減らすことができるので、無線の混雑を防止することができます。 また、英語を母国語としない国際線を飛ぶ外国のパイロットの場合には文字で指示を見ることができ、指示を間違って理解する可能性も下がるので、空の安全にとってはとても有益なシステムだと考えられます。 今後はますますいろんなところでCPDLCによる航空通信が主になってくると思われます。 

 

(つづく)










2018-09-20

ブダペスト。

 今月2回目のペアリングで東欧ハンガリーの首都ブダペストに行って来ました。 ブダペストに行くのは今回が初めてでした。 カナダ・トロント空港を午後9時前に出発し、飛行時間は8時間30分ほど。 この飛行時間であればカナダの法律上パイロットは2名で(機長と副操)で運航できます。 これがアテネなどのフライトになると復路は偏西風の影響もあり飛行時間が10時間を超え、3人目のパイロットが必要になります。 聞いた話では、アメリカの航空法はカナダのそれよりも厳しいらしく、ヨーロッパ方面へのフライトではほぼ全便においてパイロットが3名乗務しているそうです。 確かにヨーロッパの空港で見かけるユナイテッド、アメリカン、デルタといったアメリカのパイロット達はいつも3名で行動しています。 パイロットが3名いると、レイオーバー中の夕食が楽しくなるのみならず(笑)、フライト中に束の間の休息を取ることができますので、フライト後の疲れ具合がかなり違います。 機種によってはバンク(Bankではなく、Bunk)と呼ばれる休憩室がありますので、そこでベッド上に横になることができます(777や787など)。 767にも以前はバンクがあったそうですが、今は使われていません。 そのため、ビジネスクラスのシート1席を休息(クルーレスト)用に確保しています。

 今回のブダペスト行きのルートは下の写真の通りです。 いつものように大西洋を横断し、アイルランドの北西からヨーロッパに上陸しました。 その後、イギリス、オランダ、ドイツ、チェコなどの国々の上空を通過してハンガリーに到着しました。 この日は天気もほぼ良好で、雲を避ける必要がほとんどなかったので楽チンなフライトになりました。 ヨーロッパは北米に比べると狭い地域なので、20分ほどで一つの国を横断してしまうこともあります。 島国育ちの僕にするとなんとも不思議な感覚です。 
 
(写真上:ブダペストまでのルート)

 ブダペスト空港は滑走路が並行に2本あります。 着陸は北側の滑走路、離陸は南側の滑走路というのが一般的のようで、この日も北側の滑走路へのアプローチとなりました。 途中で空港北部に積乱雲が発生していたため、少しだけディヴィエーション(deviation)をリクエスト。 ディヴィエーションというのは指示されたルートを外れて雲などを避けることをいいます。 勝手に進路を変更するわけにはいかないことがほとんどなので、航空管制に許可をもらいます。

"Budapest, 〇〇〇〇(我々のコールサイン) is requesting deviation to the left due to weather."
(訳:「ブダペスト航空管制、天気を避けるために左に進路変更をリクエストします」)

言い方はいろいろありますが、こんな感じです。 だいたいの場合は

"〇〇〇〇, deviation is approved, cleared direct XXXXX when able."
(訳:進路変更を許可します。 可能なときにXXXXXに向かって飛んでください。)

といった返事が返って来ます。 この日もそんな感じで雲を避け、指定された地点へ舵を切りました。 しばらくすると空港北部にさしかかって来ました。 そしてその時、管制から違う指示が。

"〇〇〇〇、reduce to minimum clean speed, maintain 5000."
(訳:フラップ等を出さずに可能な限り遅いスピードまで減速して、高度5000フィートを保持してください。)

 この時点でアプローチをしていたのは僕ら以外には2機ほどいたようですが、特に他機に近づきすぎている感じでもないし、一体何が起きているの?と思っていたら、「さっき着陸したエアバスがバードストライクを報告してきたので、滑走路の点検中です」という連絡がありました。 

 空港周辺には鳥が多くいることが珍しくはありません。 理由はいろいろありますが、空港はだだっ広い場所で小動物の天敵が少なかったり、餌となる動物達が住める草むらがたくさんあったり、海や川に近い場合が多かったり、などです。 鳥とぶつかることをバードストライクといいます。 着陸時や離陸時に鳥と衝突した場合、空港管理者は滑走路上に鳥の死骸や飛行機の部品などが落っこちていないかを確認しなければならず、その間は滑走路が一時的に閉鎖されたり、他の滑走路へのアプローチに変更になったりします。

 この日は僕がPM(Pilot Monitoring=操縦以外の無線やコンピューターのプログラム等を担当するパイロット)だったので、この時点では「げげげ、お願いだから今からランウェイチェンジとかやめてよねぇ〜涙」という心境でした。 着陸する滑走路が変わるとフライトマネジメントコンピュータ(FMC)のプログラム内容を変更する必要が出て来たり、ILSの周波数を変更して確認する作業が発生したり、ブリーフィングをやり直したりせねばならず、結構面倒なのです。 幸い、この無線会話から30秒ほどしたら予定していた滑走路へのファイナルアプローチコースにレーダーベクターされ、予定通りの北側滑走路に着陸となりました。 やれやれ(苦笑)。

 着陸後は駐機場に近づくと通称Follow Meカーと呼ばれる車が我々をお出迎えしてくれました。 その車の後ろに続いて駐機スポットまで入りました。 この空港ではワイドボディ機の場合はだいたいこういうふうにFollow Meカーを使っているんだとか。 なかなか丁重なお出迎えでした。

 この日一緒に飛んだ機長はお父さんがブダペスト在住ということで、レイオーバー中は別行動になりました。 ホテル到着後、2時間ほど仮眠を取り、それから僕はブダペスト市内の観光に出かけました。 

 空港からホテルまでのバスから見えた街並みは見慣れたヨーロッパのそれとは少し趣が違い、旧ソ連や社会主義時代の名残がなんとなく残る街という印象を受けました。 歴史や地理の授業でも習ったドナウ川が流れていて、その川を挟んでブダという地域とペシュトという地域が隣接しています。 その二つを合わせて「ブダペスト」(現地の人はブダペシュトと発音しているように聞こえました)と呼ぶそうです。 

 ここからは写真で雰囲気をお楽しみください。

 
(上:ドナウ川には橋がかかっています。 これはリバティー橋。)

(上:ブダ側からドナウ川を望む)

(上:ホテルが連なり、奥には国会議事堂が見えます。)

(上:ドナウ川沿いには食事ができるボートが停泊していたり、観光スポットも多く存在しています。)

(上:ブダ城跡は迷路のよう。 建築様式は独特です。)

(上:建築様式や窓の形など、見ているだけでも面白いです。)

(上:ヨーロッパといえば教会。 これは漁夫の砦の側にあるマーチャーシュ聖堂。)

(上:こういうのがなんとも東欧らしいと勝手に想像。)

(上:路面電車が頻繁に走っています。 なんともレトロなデザインで素敵。)

(上:少し見づらいですが、夕食はFAさん達と。 路地裏にあるカフェバーのようなところで地元料理・グーラッシュスープを堪能しました。)

(上:いろんなところに壁画があって面白いです。)

(上:ここはいくつものバーが入ったSzimpla Kertという人気のパブ・複合施設。)

 翌日は朝食を食べ、ホテルから徒歩20分ほどのところにある音楽家フランツ・リストの肖像があるところまで散歩してきました。

(上:リストの肖像。 あまり綺麗な場所ではないところに設置されているのが残念。)

 帰りのルートは下のような感じです。 
 

 ブダペスト離陸後は北西に向かって飛び続け、スロバキア、ポーランド、デンマーク、ノルウェーをかすめてスコットランド北部からアイスランド方面から大西洋を横断するコースです。 この日は初めてアイスランドのレイキャビック上空を飛びました。 いつもはもっと南のほうを飛ぶことが多いので、アイスランドの陸地を見ることはほとんどないのです。 この日は雲がかかっていたのですが、レイキャビック南部に差し掛かるころに雲の合間から街が姿を現してくれました。

(上:アイスランドの首都レイキャビック)

 この日はさらにグリーンランドの上を通過しました。 グリーンランドは雲に覆われていたため、なにも見えませんでした。
 

 地図の高低差を表す色からもわかるとおり、グリーンランドにはかなり高度が高い山岳地帯があります。 万が一の急減圧の場合には一般的に降りる高度である10,000フィートまで降りてしまうと山肌に衝突してしまいます。 そのため、この付近を飛ぶ場合には会社が用意しているEscape Chartという航空図を見ながらフライトし、万が一高度を下げなければいけない場合にはその航空図に書かれている指示通りに飛ぶことになっています。 

 今回の復路はETOPSではなく、常にもっとも近い空港から1時間以内のルートを飛ぶnon-ETOPSでフライトプランが作成されていました。 そのため、ヨーロッパを離れた後もずっとVHFラジオで無線会話ができました。 アイスランド航空管制の次はカナダのギャンダー航空管制に引き継がれます。 そこからはHFラジオと「CPDLC」という、携帯メールのようなメッセージツールを使って会話もします。 これについてはまたいずれ。

 トロント空港には午後5時過ぎに無事に到着しました。 着陸は我ながら満足の行くものとなり、FAさんたちや乗客の方々数名からもお褒めの言葉をいただきました(笑)。 そしてこのペアリング後、13連休となりました。 


(つづく)

2018-09-04

パイロットのヘッドセット雑談。

*****今回はヘッドセットについて書こうと思います。 モノ・ギア・グッズ関連に興味のない方にとってはかなりつまらない内容になっていますので、ご注意ください。*****


 「ヘッドセット」というのはパイロットがフライト中に頭につけるヘッドフォン/イヤフォンのようなものの総称です。 ヘッドセットをすることによって操縦桿や無線パネルにあるボタンを押すだけで無線発信できます。 昔は手で握るタイプのマイクと壁に備え付けてあるスピーカーを使って無線会話していたようです。 ヘッドセットをすることにより操縦桿から手を話すことなく無線会話ができるようになりました。

 ヘッドセットにもいろいろありまして、大きくわけてノイズキャンセル機能のある「ANC (Active Noise Cencellation)」タイプと、ノイズキャンセル機能なしの「PNC(Passive Noise Cencellation)」に分かれます。 

 ノイズキャンセル機能というのは最近のオーディオヘッドフォンでもよく使われる技術ですが、簡単に言えば外部の騒音をマイクで広い、その騒音と同じ周波数の信号を人工的発生させることによってノイズをかき消す機能のことです。 主に乾電池を電源として用います。 

 ノイズキャンセル機能付きのヘッドセットで有名なものはいくつかありますが、多くのパイロットから世界的に高い評価を受けているのが下のBose A20ヘッドセットです。 価格は日本だとなんと約14万円! 航空関係用品はなんでも高価です。 僕もメディバックパイロットとしてキングエアを飛ばしていた時にこのヘッドセットを購入しました。 このヘッドセットは比較的軽く、頭を押さえつけるクランピング力もほどよく、ノイズ軽減機能が恐らく現在売られている耳を覆うヘッドフォンタイプのヘッドセットの中では最も優れていると思います。 1日何時間も飛ぶパイロットの場合、コクピットでの風切り音やエンジンからのノイズを聞いているだけで体力を消耗します。 このヘッドセットを購入した前と後ではフライト後の疲れが全然違ったのをよく覚えています。 エンジン音などの騒音を長い間聞くと聴力低下にも繋がり、難聴になる可能性も高まりますので、自分の体・健康への投資として購入する人も多いです。 高価ですがそれだけの価値があるツールです。 将来プロを目指す方やホビーパイロットとして長くフライトを楽しみたい方にはおすすめします。


(写真上:Bose A20 Boseウェブサイトより引用)


 一方、ノイズ軽減機能がないものは下のようなものが有名です。 デビッド・クラークという会社が作っているもので、北米でフライトトレーニングをした人であれば一度はこいつを頭に載せたことがあるはず(笑)。 これは頭を挟む力とイヤーカップの密着により外からの騒音を遮断するPassive Noise Cancellationと呼ばれるものです。 無線やインターフォンでの会話をするには問題ありませんが、主にエンジンからの低い周波数のノイズをかき消すことはできません。 比較的安価(それでも数万円します)なため、初めてのヘッドセットとしてこれを購入する方も多いです。 ホビーパイロットで1回のフライトが1~2時間という方で、予算が限られてるのであればこれでも充分だと思います。


(写真上: David Clark H10-13  David Clark Company ウェブサイトより引用)

 だいたいのフライトスクールでは無償、または少額でこのタイプのヘッドセットを訓練生に貸し出しています。 ですので、費用を抑えたい方はそういったレンタルヘッドセットで良いと思いますが、多くの訓練生が使いまわしますし、僕の知っている限り、レンタルヘッドセットは結構手荒く扱われたり、綺麗に掃除されたりすることはあまりないので、衛生的とはいえません(笑)。

 今まで僕が乗務してきた飛行機で飛んだルートは多くが1フライトだいたい1時間から2時間くらいのものが多く、フライト中はずっと上記のようなヘッドセットを頭に載っけていました。 フライト中はインターカムを通して隣に座っているパイロットと会話をします。 インターカムはマイクに向かって何かを言うと自動的に音声を拾ってくれ、イヤホンから声が聞こえます。 このおかげでエンジン音や風切り音などでうるさいコクピット内でも声を荒げたりしなくても会話が可能となります。 

 ところが! 今乗務しているボーイング767型機は古い機体でもあるため、コクピット内の会話はインターカムを通さずに肉声で行います。 唯一インターカムを使えるのは原則的に酸素マスクを使った緊急事態の時のみです。(マスクにはマイクが付いていて、緊急時はそのマイクが音声を拾い、コクピット内両側にあるスピーカーをONにして隣席のパイロットと会話をします) これがなかなか大変なのです。 英語が母語でない僕の場合、英語を理解するにはある程度クリアに音が聞こえる必要があります。 フライト中の機内サービスでFAさんが言っていることが騒音のため聞き取りにくかったり、聞き返さざるを得なかったりしたことはみなさんないですか? フライト中の僕はまさにそんな感じで、隣にいる機長の言っていることを理解するのが難しいことが時々あり、それはほとんどの場合は騒音によるものです。 また、人によってはぼそぼそ〜っと話す人がいたり、ものすごい低音の効いた声の人がいたり、アクセントが強い人がいたりと様々で、そういった要因によって英語が聞き辛いこともあります。

 聞き辛いんだったらノイズキャンセルヘッドセットを使えばいいじゃない?と思われる方もいるでしょう。 それが難しいのです。 隣の人と肉声で話をするにはヘッドフォンを両耳にはめるわけにはいきません。 そのため、片耳のみをカバーし、もう片耳はヘッドフォンをずらして装着するというおかしなスタイルになります。 また、片耳のみのノイズキャンセル機能をON/OFFすることはできませんし、ONにして片耳のみノイズキャンセルを使うと、ノイズを拾っている反対側の耳のと聞こえ方の差があまりにも大きくなり、かなり気持ちが悪いのです。 

 そこで僕にうってつけと思われるヘッドセットがこれまたボーズから発売されることになりました。 その名も「Bose Proflight」。


(写真上: Bose Proflight   Bose websiteより引用)

 これまた高額なヘッドセットで、約1,000USD。 日本円にしてざっと11万円というところでしょうか。 このヘッドセットの良いところは耳栓(earbud)タイプで、片耳のみに入れることができること。 また、Tap Controlという機能があり、両耳にearbudsを入れてノイズキャンセル機能をONにしていても、片方の耳をダブルタップするとその耳のみノイズキャンセル機能が最小レベルになり、イヤホンを外さなくても外部の音がしっかり聞こえるといういうものです。 つまり、僕のように767に乗務するパイロットはこいつをつけて、両耳にイヤホンは装着しているけれども片方の耳だけはTap Controlでノイズキャンセル機能を最低レベルにしておけば隣のパイロットの声もしっかり聞こえるというわけ。 これぞまさに僕が求めていたヘッドセットだ〜!と意気込み、プリオーダー開始当日に即注文。 約10日ほどして手元のヘッドセットが届きました。

 箱を開けるとなかなか高級な雰囲気でさすがボーズだな〜と思わせる仕上がりぶり。 早速開けて装着してみました。


「あれ?」


これが第一印象。 頭に載せるタイプではありますが、ちょうど耳の上あたりにL字型のパッドがあり、それと頭頂部のバンドでヘッドセットを頭に固定するデザインで、ウェブサイトや著名YouTuberのパイロットのレビューでは


「軽いしフィット感もよくて超快適でサイコ〜」


みたいに言っていたのに、僕の頭にはあまりうまくフィットしません。 もしかして、黄色人種の頭には合わない形なのか?!とも思いましたが、いろいろやってみてもやっぱりなんだか不安定で、ぜんぜんしっくりきません。 う〜ん。 おかしい。 これが第一印象でした。

 それはさておき、要であるノイズキャンセル機能とTap Controlの凄さやいかに!?と意気込んで乾電池を入れ、早速電源ON!

 さすがはボーズ。 ノイズキャンセルはなかなか悪くありません。 今まで使ってきたA20に比べればボーズが公表しているとおりノイズキャンセル能力はやや低いようにも感じますが、それほど悪くないです。 

 ですが、問題はearbuds。 イヤホンです。 
(写真上:Bose StayHear イヤーチップ Boseウェブサイトより引用)

 Boseのコンシューマー向けイヤホンなどにも使われているStayHearというシリコン製のイヤーチップなのですが、これが僕の耳にはなかなか合いませんでした。 S・M・Lと3種類のサイズが同梱されているのですが、どれもあいません。 う〜ん、おかしい・・・。 

 じゃ〜、じゃ〜、やっぱりTap Controlはすごいんでしょ〜?と意気込んで片耳をタップしてみます。 


「ん?」


「あれ?」


 なんどタップしてもON/OFFができません。 おかしいな〜と思いきや、デフォルトでは機能がOFFになっていたので、それをONにしなければいけませんでした(笑)。 

 そして再度トライ。 


「う〜ん・・・・・汗」


 っというのが第一印象。 たしかに片耳だけノイズキャンセル機能をオフにできました。 とあるYouTuberが言っていたとおり、片耳だけオフにすると、補聴器をつけているような感じでマイクが周囲の音を拾っているようで、その音をOFFにしている耳に流すことで擬似的に片耳のイヤーチップを外して会話しているかのような感じになります。 へ〜、面白いなぁという印象もうけました。

 なにはともあれ、一度コクピットで使ってみなければ始まらない!と思い、次のフライトにはこのBose Proflightを持って行きました。 フライト前の準備が終わり、ProFlightを取り出してプラグを接続。 早速使ってみました。

 感想ですが、これは個人的な感想です。 みなさんが同じ印象を受けるとは限りませんので悪しからず。

 結論を言うと、僕はこのヘッドセット、好きにはなれませんでした。 理由は以下の通り:

・フィット感が悪い。 ヘッドバンドを伸ばすことができるのですが、伸ばせる幅が狭く、耳の真上まで届きません。 そのため、頭の上にちょこんと乗っかっている印象で、安定性が極めて悪い。

・本体そのものは軽いのですが、コードが比較的太く、コードの重さで下に引っ張られます。 コードを体に固定するためのクリップが2つ同梱されていますが、それはかなり面倒臭い。

・マイクを使わないときや食事を摂ったり飲み物を飲んだりするときに上に跳ね上げるのですが、本体の固定力が弱いので、片手でマイクのみを上にあげることができない。 そのため、片手でヘッドセットが動かないようにホールドし、もう片方の手でマイクを跳ね上げることになり、二度手間

・StayHearのフィット感が悪い

・同梱のキャリングケースへのヘッドセットの収まりが悪い。 高級感のあるケースで僕は好きだったのですが、ヘッドセットをケース内で固定する力が弱く、しかもコードをぐるぐると一定方向に巻くように推奨されているのですが、それも結構面倒くさい。 フライト後、なるべく早くコクピットを出たいのに、膝の上でケースを開き、コードをまっすぐにしてから巻き直してケースに収めるという作業は結構時間を取るのでよろしくない。

・Tap Controlは前述のとおりマイクで周囲の音を拾っている(と思われる)ため、エンジンを一旦始動するとそのエンジン音まで拾ってしまい、フライト中はほとんど使い物にならない

・ノイズキャンセル機能には3レベルあり、High Mid Lowとあるのですが、Lowは使い物にならない。 むしろ、Lowを選ぶと耳に入ってくるノイズの量が増えてしまい、意味不明。

 以上の理由により、残念ながら今回のProflightは返品となりました。 幸い、30日間お試しできる製品なので、30日以内に気に入らない場合には理由を問わず返品が可能です。 返送料もBose負担で良心的。 返品後、1週間ほどで全額返金されました。

 僕はBoseの製品が好きです。 A20ヘッドセットは逸品で、他のノイズキャンセルヘッドセットよりも一歩も二歩も先を行っていると思っています。 見た目もいいし、高級感もある。 所有欲を満足させる点もボーズならでは。 ところが、今回の製品は僕的には駄作と言わざるを得ないもので、この製品に1000ドル以上もかける価値はないと判断しました。 Tap Controlにはかなり期待を寄せていただけに残念な結果となりました。 僕が開発に関われていたのであればきっともっと良い製品になっていたと思うのに(笑)。 ボーズさん、ぜひ次回の製品開発の際にはお手伝いさせてください(笑)。

 で、僕の理想のヘッドセット探しの旅は再びふりだしに戻りました。 そもそも、うちの会社の767にはコクピット内に会社支給のヘッドセットが備え付けられてはいるのです。 それがこちら。



(写真上:Plantronics MS50/T30-2  Plantronicsウェブサイトより引用

 これは民間航空会社では比較的よく使われる片耳タイプのヘッドセットで、四角い箱がアンプユニットになっているようです。 そこにピンク色のイヤーチップをチューブ接続するというなんとも古典的な製品です(笑)。 パイロットは各自自分用のイヤーチップのみを持参します(これも会社支給)。 ヘッドセット本体はコクピット内においてあるので、各自で持ち歩く必要はありません。 だいたいうちの会社の767パイロットの半数ちょっとがこのヘッドセットを使っていて、残りの半分は自分用のヘッドセット(Boseだったり、他のだったり)を持参しているように見受けられます。 

 このヘッドセットとピンクのイヤーチップの組み合わせ、最悪です(笑)。 僕も乗務を始めた頃はこれを使っていたのですが、以前のノイズキャンセル機能付きヘッドセットの快適性からこいつに移行したときにはものすごいカルチャーショックを受けました。 不満な点を挙げると:

・イヤーチップが耳に合わない
・外からのノイズがもろ聞こえる
・マイクが短いので、ほっぺたくらいまでしか届かない
・音質最悪
・他人とシェアするのがちょっとキモい(笑)

 などです。 ですから、今まではA20を持参していたのですが、片耳のみをカバーするのにA20はちょっと大げさな気がするので、片耳のみで安心して使え、フィット感もよく、騒音遮音能力の高いヘッドセットをずっと探していました。

 そしてたどり着いたのがこちら。


 カスタムイヤーモールドです。 最近では多くのミュージシャンが演奏中に耳にイヤホンをしているのを見かけると思いますが、あれと同じような感じです。 耳鼻科にて型を取ってもらってシリコン製のイヤーピースを作成してもらいました。 費用は1万円ほど。 型を取ってから出来上がりまでには1週間弱かかりました。 耳鼻科の先生に型を取ってもらうと、

「あなたの外耳道は一般的な人の耳よりもカーブがつよい

 と言われました。 そのため、音が聞きづらかったり、一般的なイヤーピースでは音がうまく耳の奥まで伝わっていない可能性があるとも言われました。 なるほど、それだから会社支給のイヤーピースでは聞き辛かったのかもしれません。 納得

 このカスタムメイドのイヤーピースですが、最高です。 会社支給のコクピット備え付けヘッドセットをしっかりと毎回消毒し、それからアンプ部に装着して使っています。 耳に超ぴったりフィット(カスタムメイドなので当たり前ですが)なので、外部の騒音もかなり遮音できますし、長い間装着していても痛みは皆無。 今後はA20を持ち歩かなくても良いのでフライトバックも軽くなります。 しかもBose Proflightの10分の1のお値段。 最初からこれにしておけばよかったとも思います。 唯一気になるのはやはり他のパイロットとヘッドセット本体を共有すること。 脂ぎったおっちゃんとかが使ったヘッドセットを自分の肌に触れさせるのには抵抗があります(笑)。 毎回消毒ティッシュでかなり念入りに掃除をしてから装着するようにはしていますが、やっぱりイメージ的にちょっと(苦笑)。 いずれは自分用のヘッドセット部分も購入しても良いかな〜とも思います。

 ちなみに、大西洋上を飛んでいる間(3〜4時間程度)は原則誰とも無線会話をしないため、その間はヘッドセットを外しています。 


 以上、長くなりましたがヘッドセットに関する雑談でした。 僕はモノに対するこだわりが他の人よりも強い傾向にあるため、なにかを買うときにはかなり下調べをします。 それが楽しいというのももちろんあるのですが、そういうのを気にせず楽に生きていけたらいいなと思うことも少なくありません(笑)。


(つづく)