2022-09-10

やればできる人もいるのも事実。

 先日久しぶりにラスベガスまで行ってきました。数ヶ月前までのスケジュールではモントリオールを夕方に出発して5時間のフライトで現地着が現地時刻の夜遅くという感じでしたが、今の時期のスケジュールは時間がややずれていて、モントリオールを午後遅くに出発し、ラスベガス到着は夕方という感じでした。


 この日に飛んだ機長は恐らくまだ30代前半。彼のお父さんも同じ会社でA330型機の機長をされているようで、なかなかのエリートです。しかも身長は推定180cm以上、引き締まった身体で、顔は超彫りが深いラテン系のハンサム男です。世の中不公平なことばっかだなと感じざるを得ませんでした。それはさておき、この機長からフライト前日にメールが来ました。内容はこんな感じ↓

 

 「明日のフライトで一緒だけど、当日は搭乗ゲートで落ち合おうね。それと、レイオーバー中にチャールストン山にハイキングに行くけどよかったら一緒にどう?ちょっと難しいハイクで、約8時間、30キロ弱歩くけど」

 

 いやいやいやいや、そんなハイキングは僕には無理です。一応元山岳部ではありますが、そもそも今のラスベガスの天気ってこんなんですよ↓

 


 

 ここしばらくのラスベガスは日中は気温が40度を超える酷暑のようです。あとで聞いた話では山のほうにいけば気温は幾分下がるようで、山頂付近では20度を下回るんだとか。とはいえ、8時間歩く元気は僕にはないので丁重にお断りしました。

 

 フライトは行きが僕担当、帰りが機長の操縦担当となりました。だいたいの場合は「行きと帰りどっちがいい?」と聞かれることが多いです。僕はどっちでもいいんですが、ラスベガスは久しぶりだったので行きの操縦をやらせてもらいました。ちなみにどちらも「どっちでもいい」ということになった場合、いろんな方法で誰が先に飛ぶかを決めます。コクピット内の高度セレクターのノブをテキトウに回して出た高度が奇数だったら機長、偶数だったら副操縦士とか、加圧装置のどちらがアクティブになっているかで決めるとか(システム1だったら機長、システム2だったら副操縦士)。なかには「じゃあ君が先ね」って言ってくる人もいますし、なにも聞かずに最初のレッグをかっさらっていく機長もいます。

 

 ラスベガスまでの途中でロッキー山脈を越えるのですが、ちょうどそのあたりで雷雲が発生していたのでなんどか迂回を強いられましたが、それ以外はいたってスムーズなフライトでした。久しぶりにRNAV Visual 19Lというアプローチで目抜き通りに平行に着陸しました。いつもなら真っ暗な中をアプローチするのですが、今回はまだ明るかったこともあり、いつもと違ってなんだか新鮮に感じました。 着陸後、お客さん達にお別れをいっていたら、高齢の女性から「いままでの着陸で一番スムーズだったわよ!」といわれました。僕的にはいつも通りの、特にスムーズでもハードでもない着陸だったと思っていたのですが。あとで客室乗務員の子に言われたのはこの女性はイギリスからのお客さんだったそうです。イギリス人パイロット、どんだけいつもハードに着陸してるんやろ?と思ってしまいました(笑)。

 

 普段と違ってまだ時間は早いこともあったのでホテル到着後に早速お散歩に出かけました。この時で気温はまだ40度弱。夜になれば下がるかなと思いましたが、結局30度を下回ることはなかったです。ラスベガスの夜は本当に人が多く、コロナなんて過去の話さバリに誰もマスクなんかしません。さすがにちょっと怖い感じになってきたので早めに散歩を切り上げ、人気の少ない通りを通ってホテルに戻りました。

 翌日は1日お休みだったのでいつものとおり街を歩き回りました。気温は40度を超えましたが、意外と慣れるものです。ただ、水分補給だけはまめにやりました。

 

 3日目は朝早くにホテルを出発。とはいえ、モントリオール時間でいえば午前9時過ぎなので体への負担も少なく楽チンでした。帰りはお天気もよく、本当に順調なフライトで退屈すぎるくらいでした。フライト中にフライトアテンダントの女の子と話をしましたが、どうやら彼女はパイロット志望のよう。結構FAさんでパイロットになりたいという人は多いんです。ただ大変なのはそういう人たちは既に僕らパイロット側の生活がどういう感じなのか(客室乗務員よりは生活の質が高いことが多いこと)を知っているので、そこにたどり着くまでにどうしても経験しなければならない下積み生活をする根性がなかったり、夢見がちなところがあることです。今までにもパイロットになりたいFAさんとたくさん話をしましたが、実際に訓練を始めるに至るのは本当に数少ない印象です。それでもちゃんと計画をねって行動に移す人もいるのも事実。先日、モントリオール空港でデッドヘッド便の搭乗待ちをしていたところ、以前のリージョナル時代に一緒に飛んだことがあるFAだった男の子がパイロットの制服を来て歩いているのを遠くから見かけました。「あ〜、彼の夢がかなったんだなぁ〜!」と思ってちょっと嬉しくなりました。やればできる、でも、最初の一歩を踏み出すのは歳を重ねるごとに難しくなるのも事実です。

 

 モントリオールに着陸すると気温は13度。実に30度ほども差があります。体調管理には気をつけなければと思います。

 

 

(つづく)


 

2022-09-05

やっと勘が戻ってきた。

 9月に入り、モントリオールは早くも秋のような天気の日が多くなってきました。今朝は曇り空で気温13度。とはいえ、日中は湿度も高く、気温も25度ほどまで上がります。雷がなることも数日に1回はありますし、まだまだ夏っぽさも残ってはいますが、ここから秋、そして冬への移り変わりはとても早いはずです。

 さて、先月10日に路線審査でプンタカーナに行ってきました。一緒に飛んだのはフランス人の女性機長。偶然にも妻の生まれた市の近くで生まれ育ったのことで会話のネタには困りませんでした。プンタカーナまではWATRS(West Atlantic Route System)と呼ばれる空域を通ることがあります。ここを通るには決まった手順が存在し、主に無線での位置報告や緊急時のルート逸脱方法などを知っておく必要があります。洋上はレーダーがないため航空管制官に我々の位置がリアルタイムで伝わらないため、既定の位置(ウェイポイント)を通過した時刻、速度、次の位置報告地点通過予定時刻などをHF無線を使って報告します。ボーイング767に乗務していた頃はCPDLCというシステムが備わっていたため、主に衛星電話を経由してコンピューターが自動で位置報告をしてくれていたので楽でしたが、僕が今乗務しているエアバス320シリーズはCPDLCや衛星電話装置がない機体が多いため、従来の方法でHF無線を使って位置報告をします。

(アメリカ東海岸沖に設定されているWATRS空域 ICAOウェブサイトより)

 実を言うとこのルートをエアバス機で通過するのは今回が2回目?だったので、前日までに手順をしっかり復習しておきました。 そのおかげで特に困ることはありませんでした。洋上は天気が良いことが多いのですが、今の時期は嵐や超巨大積乱雲が発生することが多いです。そのため、今回も何度も雲を避けるために進路変更を余儀なくされました。WATRSを飛んでいるときは天気を避ける手順も通常のフライトとは違う手順があるので、そういった手順を見直すための良い機会になりました。プンタカーナでは実に5ヶ月ぶりになる実機での着陸をしましたが、スムーズに決まって機長さんにお褒めの言葉をいただけました。細かい数字とかは簡単に忘れちゃいますが、体に染み付いた離陸・着陸の感覚というのはそう簡単にはなくならないものです。

 プンタカーナでは外で写真の一枚でも撮ろうかと思っていたのですが、久しぶりのラインフライトということもあって心の余裕がほとんどなく、写真は一枚も撮れませんでした(笑)。そうこうしているうちに復路便のお客さんたちの搭乗が始まり、そそくさとプンタカーナを後にしました。帰りは機長の操縦で、巡航中にいくつか質問をされたり、それまでの手順で気がついた点などを指摘してもらいました。今後のフライトに役立つ情報ばかりでした。WATRS空域を抜け、アメリカ・ニューヨークのあたりに差し掛かったところで早々にラインチェックは合格、「(パイロットの仕事に)おかえりなさい」という言葉をかけてもらい今回の路線審査は終了となりました。いや〜、よかった、よかった。

 路線審査が終わってからはリザーブと言うことで呼び出しがかかると飛びに行くということを8月いっぱいやりました。リザーブ日の半分くらいは呼び出しがかかり、赤毛のアンで日本人観光客に人気のプリンスエドワード島に行ったり、僕がパイロットライセンスを取ったビクトリアに行ったり、アメリカのマイアミに行ったりしました。飛ぶ回数が増えるに連れて以前の勘が戻ってくるのがよくわかりますし、フライト中の心の落ち着き度、そして周りの状況を全体的に判断できる余裕が生まれてくるのがわかります。

 9月に入り、リザーブではなく最初から予定が組まれたブロックホルダーという立場に戻りました。リザーブだと1ヶ月18日勤務ですが、ブロックだと16日勤務です。今月は月末に休暇がありますので、実質勤務日は12日です。行き先もお休みも希望通りに通って最高の月になるはずです。今回またビクトリアに行くペアリングがあるので、昔の仲間に連絡を取ってみようと思っています。自分が訓練した空港に自分の操縦するジェット機で舞い戻ると言うのはとても感慨深いものがあります。

 今日の写真は先日フロリダはオーランドからの帰り道に通過したニューヨーク・マンハッタン周辺の夜景です。



(つづく)