2020-10-28

エアバス訓練前半戦終了。

 昨日、トロントでのエアバス型式証明取得訓練の前半部分であるIPT訓練を終え、2週間ぶりにモントリオールに戻ってきました。今回は今の会社での2回目の型式証明取得訓練になるので、その過程と感じたことをまとめようと思います。

 そもそもですが、パイロットのライセンスはそれ自体では飛ばせる飛行機が限られていて、旅客機クラスになると機種ごと(例えばボーイング777, エアバス350等)に操縦資格が必要になります。その資格のことをtype rating(型式証明)と呼びます。

 前回、ボーイング767の型式証明を取得するために訓練を受けたのが2017年のこと。その時は会社のマニュアルなどの勉強のために最初のしばらくはトロントでの座学があり、その座学が終わるちょっと前に乗務する機材が発表になりました。座学が終わると機種ごとの訓練に入るという形で、僕の767訓練のすべてがバンクーバーの訓練施設で行われました。今回と同様、まずはIPTでの訓練、それが終わるとIPT訓練で学んだことをちゃんとできるかを確認するためのテストがありました。それに合格するとフルモーションフライトシミュレーターでの訓練に入りました。それが2週間ほどあり、また確認のテストがありました。それに合格して、いよいよ実機での実地訓練(line indoc)に入っていき、最終的にはline checkというテストのようなものがあって、それに合格して晴れて型式証明を取得という流れになります。

 ということで、乗務する機種が変わると僕の会社の場合は4つのステップを経て資格を取得します。

     1. System knowledge(自宅での勉強期間)-> テスト
     2. IPT -> テスト
     3. Simulator -> テスト
     4. Line indoc -> テスト(ラインチェック)

 今の僕はステップ2のIPTを終了したところです。なのでちょうど折り返し地点というところでしょうか。

 今日はIPT終了までの経緯と感じたことなどについて書きます。

 IPT訓練が始まる前日にトロント入りしました。モントリオールからトロントまでは飛行機で一時間ほど。飛行機に乗ったのは半年ぶりでした。空港は閑散としていて、人はほとんどいませんでした。フライトは新型機であるエアバスA220-300(旧ボンバルディアCS300)。主にビジネスジェットやリージョナル機を製造しているボンバルディアがデザインしたとは思えないほど機内は広く、スクリーンや窓も近代的なサイズで快適な旅となりました。コロナの影響でマスク着用が義務付けられていて、機内アナウンスもマスクやCOVID19についてのことが繰り返し説明されます。やややりすぎでないかい?とも思いましたが、時期が時期なので仕方ないでしょう。いつもは機内持ち込みバッグのみで旅行することがほとんどですが、今回は2週間滞在で服や持ち物も多くなるので大きめのスーツケースを持っていくことにしました。空港ではタッチレスで荷物タグを発行でき、自分でバッグのドロップオフエリアに持っていきます。手順がシンプルでいいです。



(モントリオールを離陸してすぐの景色。空港が左上に見えます。)

 ホテルは空港側のホテルでした。おかしな話ですが、仕事をしているときにレイオーバーで泊まるホテルは結構格が高いホテルが多いのですが、訓練期間は2流以下のホテルです。そこはケチっているのか、なんなのか。部屋は狭いし、ベッドもなんだかなぁ〜という感じ。半年ぶりに自宅以外で時間を過ごすことが予想以上にストレスに感じました。っと同時に、モントリオールの自宅がいかに快適だったかということを再確認させられました(やっぱり自宅が一番)。このような感じでホテル滞在初日は不満がありましたが、自分の適応能力はこれまた予想以上に高かったようで、二日目以降は特に不満もなく、快適に過ごすことができました(改善できる点はたくさんありましたが・・・)。

 僕の訓練パートナー、そして同時期に訓練を開始する別のペアは全員モントリオールベースのパイロットで、彼らはモントリオールから車で約五時間かけてやってきました。トロント滞在中に車があることはかなり便利なのでそうしたのだと思います。僕も考えましたが、これから天候が悪くなることもありますし、実は訓練開始前に腰を痛めてしまったこともあって、五時間の運転は腰に悪いと思って素直に飛行機で移動してきました。パートナーの車があったおかげで毎日の訓練所までの行き来は彼の車でできたので楽でした(本来であればクルー用タクシーを毎回呼ばなければならず、待ち時間などが無駄になります)。


 訓練は毎日正午から、ブリーフィングから始まりました。ブリーフィングはだいたい1.5~2時間ほど。その日に学ぶことの詳細や知っておかなければならない手順についての説明があります。僕たちのインストラクターは自社で働いたことはなく、グループ系列のリージョナルで働いた経験やチャーター会社で働いたことがある契約インストラクターでした。ブリーフィングは2ペア同時に行い、IPT訓練ではまずは最初のペア(ペア1)が訓練を受けます。その間、ペア2の二人は後ろで観察するという形が我が社のIPT訓練では普通になっています。IPT訓練は各ペア2時間ほどです。

 IPTはこんな感じです↓



 真ん中にある出力をコントロールするスラストレバーのブロック以外は複数の大きなタッチスクリーンで構成されています。スイッチをON/OFFするときは画面上をタッチするとスイッチの動きを擬似再現できます。これがかなり繊細かつ不正確で、ONにしたいのにOFFになったり、真ん中の位置に移動させたいのに上にいったり下にいったりと、なかなかイライラする精度です(笑)。

 エアバスA320は古い機体なのでIPT自体も古いものです。もっと新しい飛行機のIPTはテクノロジーが発達しているので、もはやシミュレーターじゃね?と言いたくなるほど進化しています。

 ボーイング787ドリームライナーのIPTはこんな感じ↓


操縦桿、ラダーペダル、スラストレバーに座席などは本物、さらにはHUDを再現した画面などが備え付けられています。


HUD/外の景色の画面ではマーシャラーまで見えます(笑)


 そしてエアバスA220-300のIPTはこんな感じ↓


こちらは通称ペデスタルと呼ばれる機長席と副操縦士席の間のスイッチ類やスラストレバー等はすべて実機通りです。


サイドスティックもラダーペダルも当然完備。ここまでくるとモーションのないシミュレーターです。

 ということで、A320のIPTは他の最新鋭機と比べると見た目はかなり乏しいですが、ちゃんと機能します。ときどきエラーが出てコンピューターを再起動しなければいけないなんてこともあります。

 このIPTを使って一通りの訓練を行いました。最初の日は僕と機長ペアがグループ1。そして翌日は我々がグループ2という風に交代して訓練を受けます。グループ2はグループ1が終わるまで待たなければいけないので、訓練が全て終わるのは日が暮れた時間帯になります。

 IPT訓練はここ6ヶ月の自習のおかげで予想以上にスムーズに進みました。本で学んだことを実際にIPTでやることでカラダで覚えることができます。また、間違いや失敗をすることで、そこから学ぶこともできます。習うより慣れろという感じで、なかなか楽しい訓練となりました。

 今回の訓練中で一番大変だったのは毎日の食事です。ホテル暮らし、かつ今はコロナウイルスの影響もあり、トロントのレストランはすべて持ち帰りのみとなっています。そのため、今回の滞在中の夕食の多くはUber Eats(出前)を利用しました。本当に便利でよかったのですが、手数料や配達料がバカにならないし、当然ながら栄養が偏った食事になってしまいます。2週間の間、栄養バランスの悪いものを食べても死ぬわけではないでしょうが、今までずっと自宅でバランスの良い食べ物を食べていたのに、ここにきていきなり脂っこいものや塩分の高いものを食べると体がなかなか受け付けませんでした。それも最初の週が終わるころにはすっかりなれ、「料理しなくていいし、皿洗いもしなくていいから楽やなぁ〜」と前向きに考えるまでになりましたが(笑)。

 このような感じで2週間の訓練はあっという間に終了。毎日部屋からトロント空港に到着したり出発していくフライトを見ながら過ごしました。


部屋からの眺めはこんな感じ。滑走路がすぐそこにあります。

 今回初めてエアバスの操縦を習っているのですが、今のところとても楽しんでいます。ボーイングやボンバルディア機とはかなり違う航空機で、戸惑うところもありますが、今のところの感想はこんな感じです:

 オートメーションがすばらしい
 操縦(オートパイロットの扱い)はわかりやすい
 767と比べると速度が遅いし、速度を速やかに落とせる
 767と比べて上昇能力がかなり低い(高度を稼ぐのに時間がかかる)
 とはいえ、767に似ているところも多い(結局、飛行機はどれも似ている)
 FMS(FMGS)はかなり違って使いにくい(慣れるのには時間が必要)
 操縦の「フロー」はわかりやすい&覚えやすい(そもそもスイッチ類が少ない)
 コクピット内のスイッチの位置が理にかなっている(80年代の設計とは思えない)
 コンピューターが飛行制御することが多く、なにやっているかわからなくなることがある
 緊急時の手順がECAMという画面に表示されるので、それに従えばよく、かなり楽チン

 という感じです。ちょっとマニアックな内容ですが、総合的に言えば「楽な飛行機」という印象です。楽ということは安全ということ。今まで操縦してきた飛行機の中でもっともわかりやすい飛行機というか、理にかなったデザインの航空機という好印象です。これがシミュレーター訓練が始まっても同じような印象かどうかが楽しみです。

 11月2日にまたトロントに行き、翌日3日からシミュレーター訓練が始まります。今度は実際にサイドスティックを操作して操縦する手順なども学ぶ機会があるのでとても楽しみです。


(つづく)













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