2021-11-09

再び空に舞い戻る。

先週、キューバのサンタクララとバラデロというところに行ってきました。サンタクララ便がline indocのフライトで、その後のバラデロ便がline checkのフライトでした。サンタクララもバラデロもキューバの北部にあるリゾート地です。コロナ前であれば観光客がわんさかと訪れるカリブ海のバケーション地で、特に冬の間はカナダの冬を嫌う人々が大勢で移動するいわゆる「スノーバード」の目的地の一つです。モントリオールからは片道4時間ほどで、距離的にも遠くなく、それでいて気温が温暖なところです。僕が行った時もモントリオールは限りなく0度に近い気温にもかかわらず、サンタクララもバラデロも気温は約30度。僕もプライベートで一度は行ってみたいものです。


最初のサンタクララ行きは約8ヶ月ぶりの実機飛行になりました。久しぶりのフライトプラニングルーム、保安検査場、搭乗ゲートなどなど、何もかもが新鮮に感じました。たった8ヶ月ですが、やはり長い時間が経ってしまったことを実感しました。コクピットに入ってしまえばあとはシミュレーターでの訓練によく似ていますし、体に染み込んでいる(はずの?)エアマンシップが実力を発揮してくれてさほど戸惑うことはありませんでした。シミュレーター訓練では当然のことながらいろんな緊急事態が次から次へと発生し、それの対処をするわけでめちゃくちゃ忙しくなるのが常ですが、実際のフライトでは幸いにもそんなことはなく、いたってリラックスしたオペレーションです。その違いに少し違和感を感じ、上昇中にも「あれ、なんかやることなかったっけ?」と疑心暗鬼になることすらありました。やらなければならないチェック等をすべてやってしまった後も何か他にやるべきことがあるんじゃなかったかと色々考えるのですが、やはりすべてやり終えてしまっています。そこにきてやっとコクピットの音、匂い、そして窓から見える青空や地上の景色を懐かしく思いながら楽しむことができました。やっぱり空を飛ぶのって素敵です。


 サンタクララ空港に到着すると、そこは本当にこじんまりとした空港で、かなりチャーミングでした。ターミナル方面に目をやると、それこそ30人ほどのスタッフと思われる人々が安全ベストを着て待機しています。そうだ、人件費の安い中南米ではこういうことはよくあるんだ、と思い出しながらも、「それにしても多すぎね?」と感じたのも束の間、駐機場に入る手前に消防車が2台スタンばっています。どうやら僕が乗務した便がモントリオールからサンタクララへの今シーズン初のフライトだったようで、消防車からの敬意を込めた放水で迎えられました。これは僕自身初めての経験だったので良い思い出になりました。エンジンを止め、チェック類をすべて終えて外に出るとそこは常夏。陽気なスタッフ達に迎えられ、束の間の休憩をとりました。モントリオールに戻る帰りの便の出発は約1時間後だったので、その間にウォークアラウンドをし、外で写真をパシャパシャ取りました。サンタクララのコロナの状況は知りませんが、グランドスタッフは皆マスクにフェイスシールドという姿でした。島国は医療体制の逼迫が起こりやすいため、どこの都市でも比較的警戒度が高い印象を受けます。


サンタクララを定刻で出発し、一路モントリオールまで飛び帰ってきました。途中揺れることもありましたが、幸い雷雲に行き手を遮られることもなく、スムーズなフライトでした。シミュレーターでは基本的には起きないタービュランスに気を使ったり、天候によって進路変更をしたりレーダーを使って前方の天候を確認したりすることを久しぶりに行い、やっと実機で飛んでいるという感覚が戻ってきました。僕は帰りの操縦を担当したのですが、モントリオール空港での着陸もうまく決まり、我ながら8ヶ月のブランクを感じさせない良い着陸だったと思いました。一緒に飛んだトレーニングキャプテンからもお褒めの言葉をいただき、書類にサインをもらって次のフライトがラインチェックという運びになりました。


それから2日後、ラインチェックでバラデロに行きました。こちらもサンタクララ同様、僕は初めていく空港です。キューバというのは面白く、他の国と違って地上無線施設が充実していないようで、地上で通常使うACARSという無線データ通信ができません。会社支給のiPadに入っている世界で利用できるSIMカードもローミング不可です。そのため、復路のフライトで必要なデータ類(主に離陸時のパフォーマンス計算)は往路の巡航中に入手する必要があります。これを忘れてキューバに降りてしまうと電波がなくて色々面倒なことになるんだとか。こういう今まで経験したことがないことも今回の2回のフライトで体験できました。また、バラデロ行きはエアバスA321というちょっと長めの飛行機です。乗客数はそれこそ以前乗務していたボーイング767型機とそんなに違いません。最大離陸重量も319や320よりは重いです。飛ばし方はほぼおんなじですが、胴体が長いため、離着陸時にお尻を擦ってしまうテールストライクに注意が必要な機体です。とはいえ、767のようなワイドボディの操縦を経験しているパイロットであればそんなに気を使うことはありません。


 今回の監査機長は前回のトレーニング機長同様とても優しい方で、フライト中には色々な話もでき楽しいフライトになりました。ラインチェックフライトはほぼ100%で往路の操縦を担当させられます。そのため、バラデロまでのフライトは僕が担当しました。初めて行く空港だったのですがちゃんと下調べはしてありましたし、監査機長にも色々とバラデロではこういうアプローチをすることが多いといった説明をしてもらっていたので特に困ることはありませんでした。キューバのATCは比較的英語も聴きやすいですし、感覚的にはアメリカのuncontrolled  airportに飛んでいっているような感じです。キューバのアプローチ管制はレーダーがないらしく、音声での通信に基づいて航空管制をしているそうです。そのため、先を飛ぶ飛行機がいない場合には結構遠くにいる段階でアプローチクリアランスを出され、「後はご自由に」という感じでほったらかしにされることがあります。その場合はアプローチチャートに書かれた最低高度や速度制限を守りながらアプローチをすることになります。大きな国際空港では最後の最後まで管制官が高度や速度の指示をしてきますから、われわれパイロットは言われたまま操縦すればいいのでそちらの方が楽です。一方、キューバのようなところに来ると我々で色々考えて操縦しなければ危険につながることもあり、特に、降りていい高度の確認は重要になってきます。今回はアプローチ中の速度や高度のコントロールもイメージ通りに行き、あっという間にバラデロ空港に着陸となりました。バラデロ空港はサンタクララほどチャーミングでなく、いわゆる普通の空港でした。我々以外誰もいない閑散としたターミナルを見る限り、旅客はまだ戻ってきていないように感じました。機長の話では、繁忙期にはターミナルのゲートすべてが飛行機で埋まり、ゲートが空くまで何十分も待機させられることすらあるという話です。また早くそういう状況に戻ってもらいたいものです。


バラデロからモントリオールまでは機長の操縦で、僕はPM(Pilot Monitoring)の業務をやりました。燃料や経過時間のチェック、無線、書類等々をこなします。これが訓練後4レグ目でしたが、もう戸惑うことも無くなっていたので、だいたいの感覚は8ヶ月前のレベルに戻ってきたように感じました。モントリオールに到着後、機長からはお褒めの言葉とおめでとうの言葉をいただき、これで10月中旬から始まったRTS(Return to Service)訓練が無事に終了となりました。仕事ができるっていいですね。なんだか自分には価値があるという感覚になります(笑)。仕事をしていなかった間はなんだか申し訳ないというか、役立たずというか、そんな感覚すら感じていましたから。


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訓練が終わり、今月のスケジュールはすでに発表されているため、僕は今月の最後までリザーブです。電話がかかってくるまで自宅待機です。せっかく訓練していいペースで飛んできたのに、またこれで飛ばなくて自宅待機に舞い戻ってしまいました。なんだかな〜とも思いますが、仕方ありません。色々忘れちゃう前にもうちょっと飛んでおきたいと思っています。


今日の写真はサンタクララで降ろした乗客の皆さんをコクピットから見送ったときのものと、グランドクルーと日暮れの様子です。











(つづく)






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