2017-08-29

ボーイング767、red-eye、そして健康。

 以前にも書いたかもしれませんが、ボーイング767は近い未来に退役することが決まっている機体で、来年には劇的に運航機材数が減らされるそうです。 一緒に飛ぶ機長に聞く話では、以前は767はそれこそまさに世界中を飛んでいたそうです。 中東に南米、ヨーロッパにアジア。 それが今ではそれらの路線はもっと多くの乗客を運べ、しかも燃費性能の良いボーイング787やボーイング777に取って代わられました。 僕が乗務する767は今では主に北米路線を飛び、海外便としてはイギリス・ロンドン、ドイツ・フランクフルト、あとは日本・成田便などを主に飛んでいます。 

 リザーブパイロットで、しかももっともセニオリティが低い僕が行かされる(行かせてもらえる?)のは主に国内線です。 特に多いのがトロントーバンクーバー便。 あとは時たまアメリカ・ロサンゼルスとサンフランシスコというのもあります。 でも、圧倒的にバンクーバー便が多いです(笑)。  
 
 先日、ちょっとバンクーバーで行きたいところがあったので、4連休の3日目だったのですがクルースケジューラーに「休日出勤オッケーです」というリクエストを送りました。 そうしたら結構早く電話がかかってきて、「バンクーバー便あるけど、行く?」って聞かれ、はいはい行きますと返事をしました。 休日出勤をするとお給料が割増になるという特典があります。 しかも、バンクーバーでやりたいことができるだけのレイオーバー時間もあり、一石二鳥でした。 お休みも1日だけは振替てもらうこともできたので、一石三鳥という感じです。 

 トロントからバンクーバーへのフライトは行き(西へのフライト)は約5時間。 帰り(東へのフライト)は4時間ちょっとという感じです。 ルートは天気や乱気流の報告などを元にディスパッチャーが精査して決定します。 ずっとカナダ国内を飛ぶこともあれば、ほとんどアメリカを飛ぶこともあります。 前回の帰りのルートはこんな感じでした↓


 よく見るとアメリカとカナダの国境に黒い細線が見えます。 このルートはバンクーバーを離陸後、ほんのちょっとはカナダ国内を飛びましたが、それからオンタリオ州にたどり着くまではずっとアメリカ国内を飛んでいました。 ですので、航空無線で話すのもソルトレイクシティー、ミネアポリス、クリーブランドなど、ほとんどがアメリカのATCです。 カナダ国内ではCPDLC(Controller Pilot Data Link Communication)というデータリンクを使用するので、無線で話をする数も減りますが、アメリカではCPDLCを使えません。 このCPDLCを利用すると、どこかの航空管制とコンタクトをしないといけない場合には「ポーン♪」というチャイム音がコクピット内に鳴り、「Contact Edmonton Center on 120.50」という風に文字で指示が送られてきます。 これをボタンを押して「Accept(承諾)」し、ラジオを使って話をするという流れです。 これは結構便利で、大西洋を渡るときにはVHF無線が使えないので、CPDLCを使います。

 僕がよく乗務するトロント発バンクーバー行きはトロントの夜に出発し、バンクーバーの深夜に到着します。 トロントとバンクーバーには3時間の時差があるため、バンクーバーの深夜0時頃というとトロントの午前3時頃になります。 これは正直そんなに大変ではありません。 逆にバンクーバー発トロント行きはこれまたバンクーバーの夜遅く(午後11時過ぎ)に出発の便が多いです。 この時点で既にトロントでは日付が変わって午前2時半です。 そこから4時間ちょっとフライトし、トロントには午前7時前に朝日が上ってくるころに到着します。 これが結構辛い・・・。 英語では真夜中に飛ぶフライトのことを「Red-eye flight」と呼びます。 日本語では「目の隈便」と呼ぶそうですね。 

 Red-eyeをやって帰ってくるとかなりクタクタです。 人間が寝ていなければいけないはずの時間帯に無理やり身体を起こし、頭を使って仕事をし、本来であれば胃腸が休息を取る時間帯に変なものを食べたりするというのは身体には堪えます。 日本でもトラックの運転手さんや看護師さんなど、夜勤をする人はきっと大変なんだろうな〜と今さら思うようになりました。 どこででも寝れる人とか、いつでも寝れる人であればこの類の仕事には向いていると思いますが、僕は残念ながらそういう体質ではありません。 夜遅く出発の場合にはなるべく日中に昼寝をするように心がけてはいますが、それすら難しいこともあります。 幸い、仕事中に眠くなるということはなく、目はしっかりと冴えていますので仕事に影響はありませんが、まだまだ慣れていないこともあってか、red-eye後に家に戻ってくると、その日は一日あまりなにもできません。 先日も朝8時頃に帰宅し、そこからソファーに横たわって4時間ほど眠り、さらに午後からも数時間眠ってしまって、一日特に有益なことはできませんでした。 こういうことをずっとやっているときっと身体にはよくないと思います。 

 以前の会社ではred-eyeのようなフライトをすることなくセニオリティの階段をスムーズに上っていったため、こんなに苦しい思いをすることはありませんでした。 また、リザーブでもありませんでしたので、自分が好きなようにスケジュールを組むことができました。 もともと僕は早朝に強く、深夜に弱い体質なため、red-eyeのように遅くまで起きているのは苦手です。 むしろ、朝4時に起きて仕事をし、午後の早い時間に仕事を終えるようなスケジュールのほうが得意です。 ボーイング767に乗務している限りは今のようなスケジュールが続きそうでいろいろ悩むところでもあります。 

 機会があるたびに先輩パイロットに「どうやって時差ボケとかred-eye対策をしています?」と聞くことにしています。 なにかきっと秘訣があるはず!と思って聞きまわっていますが、「どうやったって疲れるのには変わりないよ」という人が多いです。 ず〜っと時差ボケや睡眠不足と戦うことになるのがこの仕事という人もいます。 

 それでも「ワイドボディ」のボーイング767に乗務できているのはラッキーなので、なるべく楽しむように心がけています。 もうしばらくはこのままワイドボディを飛ばし、どうしても健康面などの理由で不満があるのであれば、ナローボディーであるエアバス320などに移ることも検討しています。  ナローボディーであれば前の会社で飛ばしていたルートや飛行内容と近いため、体調管理もきっとやりやすいのでは?と思っています。 ただし、機材変更となると、また数ヶ月の訓練と勉強が待っています。 それはちょっとなぁ〜っていうのが今の本音です(苦笑)。

 ここからは先日のフライトでロサンゼルス、バンクーバー、ロンドンに行った時の写真をどうぞ。

 白い砂浜が広がるロングビーチ。

 遊歩道のようなものが整備されていて、そこを走るのが僕のいつものコースです。

 木々がとてもアメリカ西海岸らしいです。

 さすがメキシコ系が多い西海岸、タコスが美味しいです。

 こちらはバンクーバー。 ホテルからインナーハーバーとライオンズゲートブリッジがちょっと見えます。

 橋を渡ってキツラノ方面へ。 サイエンス・ワールドが見えます(丸い建物)。


 こちらはイギリス・ロンドン。 カーナビーという界隈には買い物をするショップが多くあります。

 ロンドン・ヒースロー空港内には人参型のプラントが植えられています。



(つづく)
 

2 件のコメント:

Yusuke さんのコメント...

いつもブログ拝見させてもらっています。深夜のフライトのことをredeye flighというのですね!また勉強になりました。
私も北アメリカでパイロットを目指しています。お仕事頑張ってください。

Youhavecontrol@gmail.com さんのコメント...

Yusukeさん

ご覧いただきありがとうございます。 いろいろ専門用語があるんですよね。 僕もこの仕事に就くまでred eyeという言葉は知りませんでした。 今でもたくさんの知らない言葉や略語があります。 パイロットを目指されているとのこと、ご健闘をお祈りいたします。