2017-08-08

リザーブパイロットの生活。

 僕が今の会社に入った時、グランドスクールには30名のパイロットが呼ばれていました。 僕はその30人のうちで一番セニオリティ番号が低いパイロットでした。 

〜セニオリティ番号とは〜
 通常、会社に入社した日付に基づいて各社員に割り当てられる固有の番号で、この番号が小さければ小さいほどセニオリティが”高く”、いろいろな面でセニオリティが高い人(番号が小さい人=早く会社に入った人)のほうが優位な選択をすることができます。 例えば、毎年の休暇を決めるときなどにはセニオリティが高い人から順に希望を出すことができます。 


 グランドスクールの中盤で「どのベースでどの機材を飛ばすか」を決める日がありました。 決めるのはセニオリティ順です。 僕は一応形式上は希望を出しましたが、30人中30番目なので、結局は「残り物」が回ってくることになりました。 選択肢にあったのは

  • ボーイング787のRelief Pilot (通称RP)
  • ボーイング767(メインライン)の副操縦士(通称FO)
  • ボーイング767(レジャーエアライン)のFO
  • エアバス320/321/319のFO
  • エンブレア190のFO

という感じでした。 機材を選ぶにあたり、いろいろ考慮することがあります。 パイロットの中には「僕は(私は)とにかく大型機を飛ばしたい!」という人がいます。 大きい飛行機のほうが小さい飛行機よりもエラいんだという考えが少なからずあるからです。 ただし、大型機を飛ばすということは、同時に長距離を飛ぶということを意味します。 なぜなら、大型機を短距離路線で飛ばすのはコスト高になってしまうからです(日本のように、どうしても大型機でないと旅客数をさばけないという場合は別ですが )。 ということは、それだけ家を留守にする日数も多くなる場合があります。 はたまた、パイロットの中には「どんな飛行機でも良いけど、とにかく働く日数を少なくしたい」という人もいます。 特に家族がいたり、小さいお子さんがいる人の場合には仕事よりもプライベートを優先することが多いです。 他にも、「なるべくお給料が高い飛行機がいい」とか、「楽なフライトが多い飛行機がいい」とか、「ベースは〇〇がいい」とか。 本当にいろいろ選択肢があります。

 僕はというと、希望は787か767でした。 やっぱり一度は大きな飛行機を飛ばしてみたいというのが心の何処かにあったからです。 ベースはバンクーバーがいいな〜と思っていましたが、それは叶わず、結局トロントベースのボーイング767の副操縦士に落ち着きました。 

 今までは、大型機のFOになるには、まずはRP(=リリーフパイロット。 第3のパイロット)になり、そこで経験を積み、数年してからやっと副操縦士に昇格できるというのが通例だったそうです。 このRPですが、原則的に離着陸はさせてもらえません。 主な仕事はその名の通りリリーフで、機長・副操縦士の業務を一時的に替わることで機長・副操縦士にフライト中に休息を取ってもらうことが主な目的のパイロット職です。 一昔前まではRPは下積みパイロットのポジションで、そこで頑張ってようやく副操縦士に昇格し、やっと操縦桿を持って離着陸をやらせてもらえるという感じだったようです。 ところが今は物事の流れるスピードが変わり、RPをやらなくてもいきなり副操縦士にいけるようになりました。 僕が業務していると、機長やフライトアテンダントの人に「入社いきなり767のFO? あなた、ラッキーだね〜!」と言われることが多々あります。 その通りで、僕は本当にラッキーです。

 ここまではいい話ですが、あんまりよくないことももちろんあります。 それが今日の本題。 リザーブについてです。

〜リザーブパイロットとは〜
乗務するパイロットに病欠が出たり、もしくはスケジュールの急な変更などでどうしても追加要員が必要になった場合に駆り出されるパイロットのこと。 リザーブ勤務日は予め決められていますが、実際に電話で呼び出されるかは前日もしくは当日まで分かりません。

 僕はこのリザーブパイロットです。 理由は簡単。 一番セニオリティが低いパイロットだからです。 僕は現在、トロントベースの767パイロットの中でもっともセニオリティが低いパイロットです(えっへん笑)。 そのため、あまり誰もやりたがらないリザーブパイロットに充てがわれているわけです。 現在、767のFOではリザーブパイロットが4名ほどいます。 その一番下が僕。

 僕のスケジュールはだいたい4日勤務で3日お休みです。 これがときどき4日勤務で2日休みや、5日連勤で4連休などになることもあります。 

 リザーブ勤務日は原則的にいつ会社に呼ばれるかわかりません。 24時間待機ですが、それでは大変でしょうということで「サイレントアワー」というものが設けられていて、午後9時から午前5時までは原則的に電話はかかってこないことになっています。 それ以外はずっとリザーブです。 朝5時きっかりに電話がかかってくることもありますし、お昼過ぎに電話がなることもあります。

 電話がなって仕事に呼ばれると、原則的に2時間以内に空港に到着していなければいけません。 ということは、リザーブである時はあんまり遠くに出かけることはできないということです。 電話がなるまでどこかで自由に遊んでいてもいいけど、2時間以内には自宅に戻って着替え、荷物をまとめて空港のフライトプラニングルームに出頭しないといけません。 これに間に合わないと最悪の場合はフライトの出発が遅れ、お客さんに迷惑をかけることにもなりかねないので、結構気を使います。 とはいえ、僕が住んでいるのは空港から電車で30分以内の場所なので、よほどのことがない限りは仕事に遅れることはないと思っています。 交通事情の悪いトロントですが、僕は電車通勤なので、渋滞などを気にする必要もなし。 かなり助かっています。 たま〜に、フライト出発時間から2時間以内に電話がかかってきて、「ごめん、なるべく急いで。 間に合わなくてもしょうがないのはわかっているから、とりあえずベストを尽くして!!」という電話で呼ばれることもあります(笑)。

 僕が副操縦士としてチェックアウトした当初は3週間ほどコールがなく、ずっと家で待機していました。 これは心理的にしんどかったです。 せっかくチェックアウトしたのだから飛びに行きたいとも思いますし、そもそも飛行機のことをまだまだ実際に操縦して学んでいかなければいけないのにその機会をもらえないというのはとてももどかしいものでした。 それから時間が経ち、今はリザーブの日のおおよそ6〜7割はコールがあります。 これで月に12〜13日くらい働いている感じで、これよりも少ないときもあります。 どこに飛ぶのか、誰と飛ぶのか、そしてどのくらい家を留守にするのかが分からないのはちょっと困ることがあります。 例えば、せっかく新鮮な野菜やフルーツをたくさん買ったのに、しばらく家を空けなければいけないとなると、自宅に戻るころには野菜がちょっとしなっとなっていることもあります(笑)。 

 一方で、リザーブパイロットをやっていると普段はいけないようなところに行けたりもします。 セニオリティが高いパイロットが担当するはずだった「おいしいフライト」を、そのパイロットが病欠などで休みになったりすると代わりに担当することもあるからです。 こういう理由で、わざわざリザーブパイロットを自主的にリクエストする人もいるくらいです。 

 多くのエアラインでは入社しばらくは生活環境や仕事環境があまりよろしくないこともあります。 しかし、時間が経ち、セニオリティが上がっていくにつれてそれらは向上し、いろいろと希望が通るようになります。 その域に到達するのに何年かかるかはいろんな事情が絡んでくるので一概には言えませんが、ほぼ間違いなく向上します。  それがセニオリティ制度のよいところだと思います。

 今回はリザーブについて少し書いてみました。 


(つづく)
 

 

 
 

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