2018-06-03

再びラインチェック。

 ついこの前メインラインのほうで年に一度のラインチェック(監査フライト)をやって、あ〜やれやれと思っていたのも束の間、今回のLCC部門への異動に伴い、またもや監査フライトをやらなければいけなくなりました。 監査フライトはday tripで、行き先はアメリカのフロリダ州フォートローダーデールです。 こんな都市がフロリダにあることも知りませんでしたし、地図でフォートローダーデールどこか指差せと言われて無理です。 僕のアメリカの地理知識はお恥ずかしながらその程度です。 飛行機にはちゃんとしたフライトマネジメントシステムやGPSが備わっているので、世界中の空港に、場所を知らなくてもプログラミングさえちゃんとやれば、ちゃんと到達できます。 これってすごいですよね・・・。

 監査フライトの朝はアメリカへのフライトなので、トロント空港にいるうちにアメリカの入国審査を受けてしまいます。 プリクリアランス(Pre-clearance)と呼ばれるもので、カナダの主な空港からアメリカが最終目的地のフライトに搭乗する場合はカナダ側でプリクリアランスを受けることになっています。 僕は最近NEXUSカードを入手したので、アメリカに入国するのは今までよりもスムーズに手続きできるようになりました。 NEXUSについてはまたいずれ。

 プリクリアランスを通過し、アメリカ側のクルールームで監査機長の到着を待ちます。 が、予定の時間になっても現れません。 ときどきこういうのがあります。 本来であれば予定時刻にパートナーが現れない場合にはクルースケジューラーに電話をすることになっています。 万が一、寝坊などで仕事に来ない場合にはフライトが遅れてしまいますから、そういうことを防ぐための手順です。 でも、実際のところは遅れて来そうな場合には、遅れているパイロットのほうがクルースケジューラーに電話をかけていて、いずれクルースケジューラーから時間通りに出勤したパイロットに連絡が入ります。

「〇〇機長、ハイウェイが混んでて、予定よりも30分遅く出勤するそうですからお伝えしておきます」

とか、

「△△機長、駐車場がいっぱいで空いてる場所を探しながらぐるぐる回っているらしく、出発時間までには間に合いますって電話がありましたから」

といった感じです。 または、ほんのちょっとだけ遅れている場合にはクルールームには寄らず、乗務する飛行機のゲートに直接現れる人もいます。 リージョナルで働いていた期間もいれて4年ちょっとですが、今のところパートナーが仕事に無断欠勤したことはありません。 今回もいつもとおんなじパターンだろうな〜と思い、慌てることもなく淡々とフライトプランをプリントアウトし、カバンを引きずりながら飛行機に向かおうとクルールームを出たところで監査機長と合流。 よかったよかった(笑)。
 
 この日乗務する機体は2日間ほど飛ばずにトロントに駐められていました。 そのため、格納庫からゲートまで牽引されてやってきました。 大きな飛行機の場合にはいわゆる「ウォークアラウンド」と呼ばれるフライト前のパイロットによる点検は不要な場合が多いです。 この日もウォークアラウンドは不要だったので、すぐに1日の始めに行わなければならないfirst flight of the day checkという点検をコクピット内で始めました。 

 ここで問題発生。 いつもなら点検中にすべて点灯するはずのライトが一つだけ点きません。 これは緊急脱出時に必要になる装置をテストするスイッチで、これがうまくテストできないと出発できません。 このライトが点かなかったのは今回が初めてです。 毎フライト同じ点検を何度もなんどもやっているので、いつもは点いているはずのライトが点かないと意外にもすぐに気がつきます。 慣れっていうのはすごいですね。  結局、メンテナンスの人が3人くらいやってきて、あ〜でもない、こ〜でもないを繰り返し、やっとのことで問題解決。 出発時刻がやや遅れてしまいました。 お客さんには申し訳ありませんが、安全優先なので仕方ありません。 

 あとから聞いた話ですが、LCCのフライトに乗っているお客さんたちはメインラインのお客さんたちとはだいぶ態度が違うそうです。 LCCのお客さんたちの目的地は主にバカンス地。 しかも行き先が最終目的地。 ですので、ちょっとの遅れくらい気にしないわ〜っていうノリの方が多いんだとか。 実際、フライト中のトイレ休憩の際にお客さん3名ほどと立ち話をしましたが、遅れなどぜんぜん気にしていないとのこと。 超陽気で、こちらが驚かされたほどです。 一方、メインラインのお客さんの多くはビジネスマンや、どこかの空港で次のフライトに乗り継ぐ方々が多いです。 ですから、ちょっとの遅れでもそういうお客さんたちはピリピリしています。 気持ちはよくわかります。 

 フォートローダーデールまでは僕の操縦でした。 途中で大きな積乱雲が発生していたので、進路を右へ左へと雲を避けてのフライトになりました。 特に揺れることもなく、スムーズなフライトとなりました。 

 フロリダの半島に差し掛かると何百キロも続くまっすぐな海岸線が見えて来ます。 アメリカはスケールがでかい! フォートローダーデール空港は特に忙しくもなく、リラックスしてアプローチ&ランディングとなりました。 着陸後ゲートインまでは1分足らず。 こういう空港、好きです(笑)。

 帰りは機長の操縦。 こちらもスムーズなフライトでした。 途中で監査のための質問をいくつかされましたが問題なく返答でき、「監査終了! 〇〇へようこそ!」(注:〇〇はLCC会社名)という言葉を頂戴しました。 いや〜、よかったよかった。 これで無事に次の日から日本へ帰れる〜と安堵しました。

 今回の監査では面白い体験をしました。 それがこれ↓


 中央に見えるのは「ノーズウィールステアリング」、通称「ティラー」と呼ばれるもので、飛行機の着陸装置の前輪を左右に動かすために使うハンドルです。 通常このティラーは機長席側(左席)にしかついていないことが多いのです。 大型機になると左右に一つづつ付いているようですが、今まで乗務してきた767の場合は機長席にしか付いていませんでした。 ところが、今回乗務した767には両側にハンドルが付いていました。  監査機長に「今まで右席にもティラーがある767は見たことがない」と告げると、

「じゃあ、今日は君がタクシーしてね!」

と言われました。 タクシー、すなわち、地上を動くことです。 通常は機長がタクシーすることがほとんどで、副操縦士がタクシーすることはまずありません。 そのため、僕が最後に飛行機をタクシーさせたのはもう4年以上前です。 つまりはペーパードライバー(笑)。 しかも、最後にタクシーしたのはキングエアという小型機なので、その飛行機にはティラーはなく、ラダーペダルを使ってのタクシー操作でした。 ティラーを使ったのはシミュレーター訓練の時のみです。 いきなりタクシーさせてもらえたのでちょっと緊張しましたが、そこはやればできます(笑)。 一番難しく感じたのは、ターンをしたあと。 このハンドルから手を離すとノーズギアは自動でまっすぐに戻ろうとします。 油圧式なので、ほんのちょっと気を抜いて力を緩めるとぐわんっと機体が揺れます。 なので、力を最後まで抜かず、ゆっくりとニュートラルの位置まで戻してやる。 そう教わりましたがこれがなかなかどうして簡単ではないのです。 おそらく腕が短いというのが理由の一つだとは思うのですが(笑)。 機長昇格時までにイメトレをしておくことにします。 一番感動的だったのは、誘導路から滑走路に進入してセンターラインに乗せるところです。 767は大型機なので、小型機よりも意図的にオーバーステアをします。 大型トレーラーが交差点を曲がるときに大きく旋回するのと同じ理屈です。 いつも機長がやっているのを見ていると、「そろそろ曲げないと滑走路の端までいっちゃいますけど?!」と思うギリギリのところまで曲げ始めないこともあります。 そうしないと後輪の間にセンターラインがうまくこないのです。 ギリギリ近くから思いっきり曲げ、綺麗に前輪がセンターラインに乗る時は見ているだけでもかなりの満足度です(笑)。 それを今回やらせてもらえることになりました。 結果は意外とうまく行き、そのまま止まらず離陸となりました。 いや〜、楽しかった! 機長に昇格すればあれを毎回できると思うと、それだけで昇格する値打ちがあると思います(笑)。 

 といった感じでラインチェック終了です。 今月は南米ペルー、イギリス、アイルランド、アメリカ数都市に行きます。 今までとは行き先のバラエティーもだいぶ違いますので楽しみです。


(つづく)

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