2019-06-15

ブカレスト。

 今週はスケジュール通りにいけばカルガリーバンクーバーの2本の国内線を飛ぶ予定になっていました。 通常は飛ばないルートですが、おそらくはボーイング737MAXが飛行禁止措置を喰らっているので、その代わりに我々が飛ぶことになったルートです。 バンクーバーでの24時間のレイオーバーは約一年ぶりで、久しぶりにロブソン通りのラーメン屋巡りや、最近できたばかりの無印良品にでも行こうかな〜とワクワクしていたのですが、なんと復路のフライトがキャンセルになり、レイオーバーなしの日帰りフライト(往路は飛んで、復路はデッドヘッド)になってしまいました(涙)。 なんだよ、バンクーバーに行く楽しみゼロやん!って嘆いたところ、月曜の朝にクルースケジューラーから電話がかかって来ました。

ブカレスト5日間のペアリングがあるんだけど、いく? これやったらカルガリーもバンクーバーもやらなくていいよ〜!」

という甘いお誘い。 これをうちの会社では"Draft&Drop"と呼びます。 ドラフトというのは休日出勤のことで、通常のお給料の倍以上が支払われます。 そしてドロップというのは予定されていたフライトをやらなくてよくなることを指します。 予定のお給料以上をもらえ、しかもあまりメリットのないフライトをドロップできるなら、これは行くっきゃないでしょ〜、ということで行ってルーマニアの首都ブカレストに行って来ました。

 ブカレスト(現地の人は「ビュカレスト」と発音するようです)まではモントリオールから9時間ちょっとのフライトです。 午後5時過ぎにモントリオール空港を離陸。 一路東に向かい、北大西洋をいつものように横断しました。 そしてイギリス、フランス、ドイツ、オーストリア、ハンガリーなどを横断し、ようやくブカレストに到着。

 ブカレスト空港は比較的小さい空港で、北米からワイドボディ機が飛ぶようになったのはつい最近のことだそうです。 そしてその第一号が我が社だったそうです。 今はトルコ航空のエアバス330型機も就航しているようですが、今でもトラフィックの大部分は小型機のようです。 この日は北側の滑走路08Lに着陸しました。 滑走路の舗装のコンディションが結構悪く、着陸後は結構ガタガタ揺れました(笑)。 
 
 今回のペアリングは僕自身初めてとなる5-day pairing。 フライト以外に現地で3日間滞在(レイオーバー)することになりました。 客室乗務員の中には両親を連れて来た子がいたり、ブルガリア出身の子は実家に帰ったり(ブルガリアはお隣の国です)、リゾート地でAirbnbを予約した子がいたりして、ちょっとした観光気分です。 僕はいきなりブカレストに来ることになったので、特に下調べもせずにやってきてしまいました。 用意したのは天候に合わせた服くらいのものでした。

 ホテルに到着後はいつも通り仮眠を取りました。 3時間ほど眠ったあと、クルーと合流してホテル近くのアウトドアバーに行きました。 

なんだか東南アジアに来たかのような雰囲気。 ルーマニアではこういうのが流行っているようです。


ドリンクのあとは有名なレストラン(Caru' cu Bere)へ。 超混雑してて、食べ物も正直まあまあでしたが、ライブ音楽演奏があってよかったです。 なにより建物の雰囲気がよかったです。

翌日2日目は、旧市街を中心にいろいろ歩き回りました。 これは「ルーマニアのアテナエウム」と呼ばれる劇場。

ここが革命広場。 独裁者が奥の建物のバルコニーで最後の演説をし、民衆の反乱に逢い、屋上からヘリコプターで脱出したそうです。 

この肖像はルーマニアの初代王。

旧市街にはいろいろ面白い建築物があります。 いたるところにこのような地図が設置してあり、観光客フレンドリーです。

これはCEC宮殿。 今は銀行として使われている模様。

アーケード街になっているところ。 せっかく素敵な場所ですが、ここにあるカフェはほぼすべてシーシャ(水タバコ)カフェなので、変な匂いが漂っています・・・。

これはルーマニアでもっとも古い正教会系の教会(Biserica Sfantul Antonie Curtea Veche)だそうです。

ここも古い教会(Stavropoleos Monastery Church)。 

ルーマニアの教会はどこも綺麗な絵がいたるところに施されています。

この教会もよかったです。 神父さんが外で休憩していました(笑)

これは議事堂。 世界で2番目に大きな建築物(1番目はアメリカペンタゴン)だそうです。

独裁者はパリに憧れていたそうで、議事堂の前にはシャンゼリゼ通りのような目抜き通りが約3kmに渡り伸びています。

凱旋門もありました。 あいにく時間がなく、これは空港へのタクシーの中から見えたものです。

 次の日は、今月行われるシミュレーター訓練のための勉強を少しし、午後からはまたもや旧市街に散歩に行きました。 3日目ともなると土地勘も出て来て、快適に歩き回れました。 気温は最終日には30度越えの真夏日で、気持ちの良い暑さでした。 今年のモントリオールは異常気象なのか、今でも気温が20度をなかなか超えません。 暑い日も数日ありましたが、今日などはまた雨です。 過去観測史上最も雨が多い年となったんだとか・・・。 ですから、ルーマニアの暑さは「まさに夏!」という感じでとても気持ちがよかったです。 

 ブカレスト最終日は正午前にホテルを出発。 空港に到着したのはフライト出発の1時間ちょっと前でした。 セキュリティとパスポートコントロールを通過して飛行機へ。

 早速離陸前のチェック(First Flight of the Day check)を行なっていると、EICASスクリーンに「TCAS」という文字が黄色で表示されています。 通常は表示されないメッセージです。 TCASはTraffic Collision Avoidance Systemの略で、近くに他の飛行機が近づいて来たときに警告を出してくれる衝突防止システムのことです。 TCASをテストしてみると、「TCAS SYSTEM FAIL」というアナウンスが流れて来ました。 ナビゲーションディスプレイにも同じようにTCAS FAILという文字が表示されていました。 

 このTCASがないと特定の高度で通過できない空域が存在します。 そのため、ディスパッチャーやメンテナンス部門の人と衛星電話で相談しました。 通常、ジェット機であればエンジンの燃費効率などの理由で高度30000フィート以上でフライトすることがほとんどなのですが、この日はRVSMという高度29000フィート以上の高度を飛ぶことが実質できないことになり、ルーマニアからカナダまでを28000フィートで飛ぶことになりました。 これはプロペラ機が飛ぶような高度で、エンジン効率はよくありません。 そのため、いつもより多くの燃料を搭載することになりました。 ディスパッチャーはこの後もなんどかルートを変更したため、その度にフライトプランが更新され、結局3回フライトプランが更新されました。 その度に航空管制に飛行計画書を再提出し、必要な燃料の量も代わり、その度にフライトマネジメントコンピュータに入力したデータも入れ替えを余儀なくされました。 最終的には60,000リッターもの燃料を搭載して出発することに。 フライトそのものが10時間ほどだったため我々の勤務時間の制限にも気を配る必要が出て来ましたが、なんとかduty outする前に約2時間遅れでブカレストを出発しました。  

こんな感じでTCAS FAILが表示されたままの飛行となりました。 黄色い文字はcaution(警告)なので、画面上に黄色があるのは気持ちがよくありません。

ルーマニアは黒海のすぐ側で、南はブルガリア、そしてイスタンブールがすぐそこのようです。 

 この日は幸い大きな雷雲は存在していませんでしたが、28000フィート以上上がれなかったため、フライトの最後のほうはずっとタービュランスとの格闘(というか我慢比べ)でした。

これがこの日のルート全貌。 真ん中の茶色い点線で囲まれているのがOceanic Airspaceと呼ばれる空域です。 右側がイギリスのシャンウィック、左側がカナダのギャンダーという航空管制基地が管理しています。 真ん中の線が西経30度(W030)。

 結局トロントには予定よりも1時間ほど遅れて到着。 そのまま急いで入国審査を通過し、再度国内線側のターミナルに入り、モントリオール行きのデッドヘット便に向かいました。 フライト中はぐったり。 夕方8時過ぎにモントリオールに無事に戻って来て今回のドラフトペアリングは終了となりました。

 これでまた初めて行った国・空港が増えました。 一緒に働いた機長やクルーは全員良い人ばかりで、一緒に食事やドリンクを楽しめました。 おかげで楽しいペアリングになりました。


 今日から3日間休みで、来週はギリシャ・アテネに行きます。 


(つづく)


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