2019-06-25

シミュレーター訓練と試験。

 前回のブカレストから戻って来てから3日間のペアリングでギリシャのアテネに行って来ました。 アテネに行くのは今シーズン初です。 モントリオールからというのも今回が初めて。 ギリシャまでは行きは10時間弱、帰りは10時間を超えるフライトになります。 そのため、昨年は帰りのみ3人目のパイロットが乗務し、フライト中に交代で休息を取ることが可能でした。 それでも行きのフライトも長いため、多くのパイロットから疲労などの不満が出ていました。 会社と組合が話しあった結果、今年からは行きも帰りも3人目のパイロットが乗務することになりました。 今月の僕のアテネ行きペアリングはすべて僕がaugment pilotとして3人目のパイロットとして乗務するペアリングです。

 3人目のパイロットがすることは、他の2名がすることとさほどかわりません。 唯一違うのは離着陸をしないこと。 3人のパイロットはほとんどの場合が機長1名と副操縦士2名で構成されています。 機長が休憩をしている間はaugmentとして飛んでいる副操縦士が機長席(左席)に座ります。 巡航中はどちらかのパイロットが操縦担当(pilot flying)、もう一人がモニターや書類、無線担当(pilot monitoring)となります。 左席に座っている副操縦士ができることは限られていて、急減圧の場合などにはたとえ左に座っている副操縦士がpilot flyingであっても、右に座っている副操縦士が急降下の手順などをほぼ一人でやることになっています。 

 Augment(通称「アーギー」)で飛ぶと、ほとんどの場合は一番最初の休憩を取らされます。 休憩はほとんどの場合は巡航高度に達したときから降下を始める10〜15分前までの時間を三等分(3人クルーの場合)し、誰がどの休憩を取るかを決めます。 大抵の場合はアーギーがまず休憩。 そしてあとの2スポットを機長と副操縦士が選びます。 Pilot Flyingのパイロットに選択権が行く場合が多いです。 

 実はこの日、僕はてっきり副操縦士ポジションで飛ぶと思っていて、同乗した訓練終了ほやほやの新人後輩副操縦士の子がアーギーだと思っていました(笑)。 機長との会話で僕がアーギーであることが判明。 よくよく調べてみたら、今月のアテネペアリングはすべて僕がアーギーであることも判明。 これはこれで楽しいので文句はありません。

 3人クルーで飛ぶとなにかとダイナミクスが変わって、二人で飛ぶときよりも楽しい場合が多いように思います。 友達と遊ぶときでもそうじゃないですか? 二人よりも三人のほうが会話が盛り上がるように思います。 当然ながら三人目のパイロットがいたほうがミスを防げる可能性もあがります。 休憩も取れるので体への負担が少なくてすみますし、そのおかげで安全運行・安全操縦に集中できます。 

 今回はアテネではレイオーバー中に観光は一切せず、クルーと夜ご飯だけ食べるためにプラカ地区にでかけました。 面白い機長のおかげで楽しい時間が過ごせました。 

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 ギリシャから戻り、数日休みがあったあと、フロリダ・フォートローダーデールへの日帰りペアリングをやりました。 このペアリングの翌日が半年に一度のシミュレーター訓練となっていました。 前回のフライトでは離着陸をしなかったので、 今回のフライトでは普段よりも長めに手動操縦をして感覚を研ぎ澄ませる努力をしました。 

 そして翌日。 トロントまでデッドヘッドし、まずはホテルに直行しました。 そして1時間ほどの小休憩のあと、シミュレーターまで移動。 今まではトロントに住んでいたのでシミュレーターに直接行けばよかったのですが、今はモントリオールから飛行機で移動、ホテルに移動、そしてシミュレーターに移動、と、ちょっと長い1日になりました。 

毎度おなじみ767シミュレーターです。 昼夜を問わずフル稼働している模様。 


 シミュレーターの建物に入ると、機械的な音、オイルのような匂いなど、独特の雰囲気を感じます。 それを感じるたびに、「あ〜、また半年たったんだな〜」と実感します。 

 初日は訓練日。 基本的な操縦やSOP、緊急事態の対応のおさらいをします。 また、毎回違った緊急事態の対処法を練習します。 今回は、誤って山岳地帯に低高度で接近してしまった場合の緊急上昇措置、そして高高度で異常姿勢(機首がめちゃくちゃ上がったり下がったり)に陥ってしまった場合の回復措置の練習をしました。 普段のフライトでは経験しない(それに越したことはないのですが笑)ことなので、シミュレーターでの訓練はとても有意義です。 他にはエンジン火災、電気系統の故障など、いつものとおりいろいろなトラブルが発生し、それをもう一人のパイロットとチームワークを駆使してクリアし、安全に着陸させるという手順を確認しました。 これで初日の訓練は終了。

 二日目は飛行試験です。 シナリオはバンクーバー発サンフランシスコ行きのフライトですが、離陸後にトラブルが発生し、バンクーバー空港に引き返します。 もうすぐ着陸というところでゴーアラウンドの指示が出たため一度着陸をやり直し、再び上昇。 その間にエンジン火災発生。 消火作業をし、再度アプローチをして無事に着陸。 一旦飛行機の故障はすべてクリアされ、再度離陸を試みますが、地上滑走中に一つのエンジンが停止するので離陸取りやめ。 その後、再び離陸。 V1/Vrとほぼ同時にエンジン火災発生。 上昇しながらエンジン火災の対処をし、チェックリストなどをすべて終わらせて着陸。 最後は視程600フィートでのカテゴリー3アプローチからの自動着陸。 これで機長のレッグは終了となりました。 僕のレッグでも同じようないろいろなトラブルが起きました。 ナビゲーション系の故障。 エンジン火災。 着陸やり直し。 一番面白かった(不謹慎な言い方かもしれませんが)のは、着陸前にランディングギアを下ろしたら、エラーメッセージが出てしまってギアが降りなかったこと。 そのため着陸をやり直し、一旦安全な高度まで上昇し、そこでチェックリスト。 手動でランディングギアを下ろし、無事に降りたところで再度アプローチ。 無事に着陸しテストが終了となりました。 

 毎回試験は緊張はするのですが、一旦始まってしまうと普段通りのフライトのような感じで進めて行きますし、ロールプレイングゲームをやっているような感じになるのでなかなか楽しむことができます。 幸い、今までのパイロット人生の中で試験に不合格になったことがないので、今後もこの記録を更新し続けることができるようにがんばりたいと思います。 

 フライトテスト前に時間があったのでシミュレーター建物の中をぶらついていたら、今年の終わりに運航が開始されることになっているエアバスA220(旧称:ボンバルディアCS-300)のシミュレーターを発見! 中をのぞいてみました。 


操縦桿はサイドスティック

オーバーヘッドパネルもなかなか綺麗にまとまっています。

 もうすぐA220に乗務するパイロットの訓練が開始されるそうです。 ヨーロッパでなんどもA220を見ていますが、とても美しいデザインです。 聞いた話によればとても性能の良い飛行機とのこと。 767のあとはこれを操縦したいな〜と思っています。 



(つづく)



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