2019-12-05

今年初のde-iceと、de-icingの説明。

 11月最後のペアリングでは久しぶりに南米ペルーのリマに行ってきました。 モントリオール出発が午後5時すぎ。 この日は今年初の大雪だったため、いろいろなハプニングがありました。 

 カナダは雪には慣れっこと思われがちですが、そうでもないことが多いです。 カナダでも西海岸のバンクーバーやビクトリア周辺はあまり雪が降りません。 そのため、ちょっとでも雪が降ると街はパニックに陥りがちです。 その点は日本の関東地方と似ているでしょうか。 一方、カナダ東海岸は雪深い地域として知られています。 そのため雪には慣れているはずなのですが、雪が降り始めるシーズン初旬はややパニック気味になります。 街では車がスタッドレスを履いておらず、事故が多発します。 そもそもケベック州はスタッドレスの着用が義務付けられているのですが、雪が降るのはまだまだ先だと悠長に構えている人達はいきなり雪が降るとあたふたするという始末です。 空港でも同じような感じで、初雪の日は飛行機を牽引・プッシュバックするトラックのタイヤにはチェーンがまだ巻かれていない場合もあり、ゲートからプッシュバックしようとしてもタイヤがスリップしてどうにもならない、という光景が多発します。 こんな光景を毎冬見てきました(笑)。 今年が東海岸で冬を過ごす3年目になりますが、ほぼ毎冬同じ光景を見ています。 小型機であれば問題ないのかもしれませんが、ボーイング767は時には180トン近い重量になります。 ちょっとでも雪が降っていたり、地面に氷が張っていると小さなトラック、ましてやノーマルタイヤのトラックではプッシュバックができません。 この日も同じ状態になりまして、結局、チェーンを履いた大型のトートラックが到着するまで待つ羽目になりました。 

 この日飛ばすことになった機体はモントリオールに1日以上前に到着していたものだったため、夜の間に霜が降りていたためde-iceをする必要がありました。 今年初のde-ice。 しかもモントリオール空港では初めてとなる経験でした。 De-iceのためのスポットに移動するも先約が何機もいて、我々の順番が来るまで長い間待つ羽目になりました。 モントリオール空港の夕方は出発ラッシュで、主にヨーロッパ方面に向かう機体で忙しくなります。 この日もエアフランス、ルフトハンザなどのワイドボディ機が我々の先に待機していました。 

 ワイドボディ機の場合はいろいろ面倒なことがあります。 De-icing Bayのスポットの中には大型機の翼幅に対応しきれないスポットもあるため、必然的に我々が入れるスポットの数が少なくなります。 そのため、先約があるとそのスポットの空きがでるまで待つことになります。 これが小型機の場合ならどこでも入れるのでさっさとde-iceして出発できるのだと思います。 

 今までde-icingについて詳しく書いたことがなかったので、今回は一般的な手順を説明します。

 まず、気温が下がった日にはゲートに到着した段階でde-iceの必要があるかどうかを目視確認します。 飛行機によって違いますが、ボーイング767の場合は客室内から翼を見てチェックします。 また、外に出てエンジン内に雪や氷が付いていないかを確認する場合もあります。 翼に雪が積もっていたり着氷がある場合にはde-iceが必要ということになります。 出発前の点検でde-iceが必要な場合には会社からデータリンクで「de-iceが必要です」というメッセージが届く場合もあります。

 De-iceが必要な場合にはゲート出発約30分前にDe-icing Coordinatorという役割の人にde-icingが必要な旨を無線で事前連絡しておきます。 

 出発準備が整うとプッシュバックとなりますが、その際にde-icing bayに向かう旨を管制官に伝えておきます。 

 De-icing padに近づくと、Pad Controlというde-icingエリアを総括する人と無線会話します。 大抵の場合、入って良いスポットナンバーを伝えられ、「Stop at the red bar, and conform when brakes are set」というようなことを言われます。 言われた通りスポットにタクシーし、ブレーキをかけます。 そして無線で「Brakes are set.」と連絡します。 そうすると、「Contact Iceman on 1XX.XX」(XXは周波数)と指示されます。
 
 Icemanは実際のde-icing spray業務を総括する人のことで、この人が実際にde-icingトラックを操作する作業員に無線指示を出しています。 Icemanと話す前にはde-icing checklistを読んで飛行機の支度をします。 De-icing中には機内にde-icing fluid(液体)が入ってこないようにしたり、トラックの作業員に危害が及ばないようにライトを消したりいろいろやることがあります。 チェックリストに沿ってそれらを行い、準備が整ったらいよいよIcemanと無線会話します。

 「Iceman, (コールサイン)、brakes are set, aircraft configured for spray, requesting Type 1 and 4, wings and tail」(訳:”Iceman, (コールサイン)、ブレーキはかかっています。 飛行機のde-ice準備は整いました。 タイプ1と4の液体を翼と尾翼にかけてください”)といったような指示を出します。 

 タイプ1という液体はオレンジ色の温められた液体で、これをかけて雪や氷を溶かします。(=de-ice)

 タイプ4という液体は黄緑色の液体で、これをかけることによって翼の表面を覆い、雪や氷が機体表面に届かないようにします。(=anti-ice) この液体は100ノット前後のスピードになると風圧で吹き飛ばされ、翼から剥離するように粘度を調整されているそうです。 

 スプレーが終わるとIcemanから無線で呼ばれます。 返事をすると、どのような液体をかけられたか、そのスプレーが何時何分に開始されたか、トラックや作業員がすべて安全エリアに移動したこと、de-ice後のチェックが済んだことなどが伝えられます。 そしてde-icing padを離れるためには再びPad Controlに連絡するようにと指示されます。
 
 タイプ4の液体にはHold Over Time(HOT)という時間があります。 これは、この液体が翼を雪や氷から守ってくれる時間の計算に必要になるものです。 細かい説明は省きますが、de-ice/anti-iceスプレーをした際の気象条件によって〇〇分以内に離陸しなければならない、といったように離陸までの時間が決められる場合があります。 万が一この時間内に離陸できない場合には再度スプレーすることになります。

 Pad Controlに無線コールする前に再びチェックリスト(post de-cing)を行います。 De-ice前に切ったエアコンやいろいろなスイッチ類の位置を再び離陸のための位置に戻します。 それが終わったらPad Controlに連絡し、de-icing padを離れて滑走路に移動するための許可をもらいます。

 っというふうに、お客さんにはわからないところで我々はいろいろやっているんです(笑)。 この日は初雪ということもあり、てんやわんやで、ゲートを出発してから離陸するまでに1時間以上かかりました。 その間もエンジンは回っているわけで、それだけ余分に燃料を消費します。 そのため、de-iceの必要があるときにはディスパッチャーは普段よりも少し多めに燃料を搭載するようにフライトプランを立ててくれます。

 
(写真上:de-icing中にお隣にいたB787が夕日の中スプレーされていました)


 今月はバルセロナ、リマ、プンタカナに行きます。 また、半年に一度のシミュレーター訓練もあります。 また勉強しています。

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訓練費用について

僕が訓練を受けたのは2006年頃です。 もう10年以上も前です。 従いまして、物価の上昇に伴って訓練費・生活費は上がっているはずです。 具体的な額はフライトスクールのウェブサイトに書いてあるか、問い合わせをすれば教えてくれます。 

参考まで、Victoria Flying Clubのウェブサイトにある情報によれば、PPL, CPL, Multi-IFRまで取得するには今日現在で最低でも60,000カナダドルほどかかるようです。

カナダでの生活費は日本(都市部)での生活費と大きく変わることはないと思いますが、場所によって差があります。 したがって、資金は余裕を持って用意することが望ましいです。 1ヶ月あたり最低でも1000~1500ドルは見積もった方が良いでしょう。 水準の高い生活をしたい、車を持ちたい、などのリクエストがあれば当然ながら生活費も上がります。 




(つづく)

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