2018-04-20

Augmentでロンドン、そして氷雨(パート2)。

 離陸後、僕の仕事は「クルーの休息時間を計算すること」がメインとなります(笑)。 巡航高度に到着(Top of Climb、略してTOC)した時間から、降下を始めるポイント(Top of Descent、略してTOD) の時間を割り出し、それを3人の頭数で割ると一人当たりの休息時間が算出されます。 今回は一人あたり1時間40分ほどの休憩時間がもらえる計算になりました。 休息なんて、と思われるかもしれませんが、パイロットは連続して働いてよい時間が法律で定められていて、その時間を超えるのはご法度です。 疲労がもたらすエラーによって事故が起きることもあるため、長距離飛行の場合には休息は真剣に扱われます。

 休息を取る順番ですが、だいたいは

  機長→副操縦士→augment

の順番で決めていきます。 ほとんどの場合、一番最初のお休みはaugmentパイロットです。 機長も副操縦士もだいたいの場合はこの時点ではまだまだ疲労感がないため、あとで休みを取りたいと思うのです。 ですから、augmentパイロットが一番最初に有無を言わさず休みを取らされます(笑)。 今回も然り。 僕がまずはフライトデッキを出て、ビジネスクラスにカーテンで囲いをつけたcrew rest facilityに向かいました。

 僕が乗務する767は以前は「バンク」と呼ばれる仮眠設備があったのですが、今は封鎖されていて存在しません。 777や787などにはそういった設備があり、横になれるベッドのようなスペースがあります。 767ではCrew rest facilityということでビジネスクラスの一席をカーテンで囲い、クルーレスト(休憩)に使っています。

 僕が乗務する767のビジネスクラスは快適です。 777、787、330のビジネスクラスシートよりはやや古いタイプではありますが、座席はいわゆるポッド型で、周りの目を気にすることなくリラックスできます。 座面はフルフラットとまではいきませんが、かなり倒すことができ、足を伸ばしてゆっくり休めます。 エコノミー席とは値段がだいぶ違いますが、もし金銭的余裕があるのであれば一度はビジネスクラスでのご旅行をお勧めします。 目的地到着後の疲れ方が全然違います。

 休息後はフライトデッキに戻り、フライトの進行具合をチェックします。 北大西洋を横断するにはoceanic clearanceと呼ばれる特別な許可を、カナダ側であればギャンダー(Gander) にある航空管制局から、ヨーロッパ側であればシャンウィック(Shanwick)航空管制局からもらう必要があります。 この日は比較的南側のルートを飛ぶ予定でした。 ところが、僕が休息を取っている間にこのルートを通過していた他の会社の飛行機からかなりの揺れがあったとの報告があったようで、我々は急遽北側のルートに変更しました。 僕が休息を取っている間に機長と副操縦士がそういうやりとりをしていたそうです。 僕がフライトデッキに戻って来るやいなや、

「君が休んでいる間、僕らは忙しかったんだよ〜。 ラッキーだったね〜。」

と言われました。 いや〜、よかったよかった(笑)。

 僕は副操縦士資格を保持しているので、普段操縦する時は右の椅子に座ります。 ですが、augmentとして飛んでいて、機長が休憩を取る間は左の機長席に座ります。 これがなんとも不思議な感じです。 僕が左席から操縦をしたのはもう数年前になります。 キングエアでメディバック(空飛ぶ救急車)をやっていた頃、 機長に昇格させてもらったときにしばらく飛んだのが最後の左席からのフライトです。 それが今では767の左席に座って飛ぶことがあります。 僕は今の総飛行時間は6000時間強ですが、そのうちの多くは右席からのフライトです。 教官時代は生徒が左席に座りますし、副操縦士として仕事をしてきた間はずっと右席です。 ですので、今左の席に座るとなんだか戸惑います(笑)。 椅子を動かすレバーも右席と左席では逆ですし、操縦桿は左手で握ります(普段は右手)し、スラストレバーは右手(普段は左手)で動かします。 クルーズ中なんでそんなに大それたことはしないので問題はないのですが、それでも違和感ありまくりです。 最初の数分間はあたふたします(笑)。

 そんなこんなでロンドン・ヒースロー空港周辺に差し掛かりました。 いつも通り、オッカムというところにあるVOR施設上空でホールドをさせられます。 ロンドンは忙しいので、毎回ほぼ必ずホールドします。 今回は管制に「15分ホールドね〜」と言われていましたが、結局はオッカムVORを一周したところでベクターされ、あっという間にファイナルアプローチとなりました。

 ロンドンは管制がスピード制限をかなり厳しくかけてきます。 しかも、管制官は我々がオートパイロットのスピード設定をどういじっているかがコンピュータ画面上で見えるらしく、「速度を160ノットに落としなさい」と言われたときにちょっとズルをして155ノットに設定しようものなら、「155でなく、160ノットです」と無線で言って来るそうです。 かなりのマイクロマネージです(笑)。 ホールド中は220ノット、そしてベースターンが180ノット、ファイナルアプローチの4マイルまでは160ノットというのがお決まりのパターンです。

 この日もいつも通り我々の先を飛ぶ飛行機が数マイル前にいるので、いつものように着陸許可が下りるのは先行の飛行機が着陸した直後の着陸寸前です。 ロンドンでは当たり前。 着陸後は指定されたゲート(ヨーロッパではゲートと言わず、スタンドと呼びます)までタクシーし、トランスポンダーを「2000」にしてエンジンシャットダウン(通常は1000にしてシャットダウン)。 これで今回のフライトは終了です。 このように、ロンドンへのフライトではいつもカナダやアメリカで当たり前にやっていることが当たり前でない場合が多くあります。 特に今回のように数ヶ月ぶりのロンドン便を担当するときには記憶があいまいになっていることもあります。 人間だもの(笑)。 そのため、僕は空港毎にメモをつけ、覚えていなければいけないことを記録するようにしています。 フライト中はそういうメモを読み、記憶を蘇らせるように努力しています。



(パート3につづく)

 

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